不穏
「どなたからでしょうか」
個人依頼と言うからには僕に何か縁のある人だろうか。
「商家だ。かなり大きいな」
ますますわからない。商家と縁なんかないぞ。
あ、もしかして。
「側溝浚いの仕事ですか?あの金物屋さんが」
「違う。そんなんじゃねえ。こっちだ」
そういってどんどん僕を引っ張っていく。
「応接室に待たせてるんだが、どうもな……」
「何か?」
ライレさんにしては歯切れが悪い。
「申し分のない仕事で、紹介人も間違いないはずなんだが、どうも妙な予感がしやがる。受けなくてもいいからな。嫌だと思ったら断ってくれよ」
ええ。
だったら紹介しなければいいじゃないか。
まったく自信がない。
依頼人はとても押し出しのいい人だった。
指にいくつもの指輪が光っている。
都に本店のあるネーヴェン商会というところの番頭さんだという。
「そうは言っても雇われの身ですからな」
などというが、身につけているものがずいぶん高そうだ。
「あの、お仕事というのは」
初対面から自分や商会の微妙な自慢が続いたので思い切って聞いてみた。
番頭さんはちょっと嫌そうな顔をした。
話を遮られるのがきらいなんだな。
「ああ、護衛をしていただきたいと思いましてな」
「護衛ですか。馬車の?」
「さようです。当商会にとっても重要な荷でして」
僕にまかせていいの?それ。
「もちろん商会の護衛も付けますが、あなた、最近コープス・ハンド狩りで大活躍されておるとか」
ああ、そういう話からのつながりなんだ。
活躍。そう言われると断りにくいな。
極めつけは報酬。
中継基地に使っているキャンプまでの往復四日間で琥珀金貨四枚。
鎧の代金を大幅に上回る。
「やります!」
部屋を出てライレさんに報告した。
「やることになりました」
「なんでだ!」
怒られた。
だって、受けちゃいけない理由がライレさんのカンだけしかない。
それで琥珀金貨四枚はふいに出来ないよ。
「うぬ……俺のカンはよく当たるんだ!」
「当たらないこともあるんですよね?」
「そりゃそうだが……出発はいつだって?」
「三日後だそうです」
「わかった。それまでに裏をとっておく」
ええ……もう大丈夫だと思うんだけどな。
でも、結果から言うとライレさんのカンはあてにしておいたほうが良かった。
さすが元一流探索者だ。
僕はこの後、グラムタに来てから初めてひどい目に遭うことになるのだから。




