鎧を手に入れよう
おおいぬ亭で眠りについて、朝起きたら脇腹の傷は跡形もなく消えていた。
軍服が修復されたり、弾丸が補充されるのと同じようなものなのだろう。
でも、重大な違いがあった。
僕自身を回復させると、存在値が桁違いに減るのだ。
昨日、ライレさんを含む何人もの探索者にジャイアントワスプ退治の功績を見せたのに、存在値がかえって少なくなっている。
昨日初めて使った手榴弾の補充に何点かかるかはまだ確認できていない。
だから、案外そっちが大きいのかも知れないけど。
だが、本当にこの程度の傷で数百点もの存在値が減るのなら、重傷を負った次の日には僕はこの世界から消えていてもおかしくない。
甘い見通しは危険だ。
今まで防具も何もなしでやってきたが、そろそろなんとかした方がいいんだろうな。
お金はある。
鎧というのは値が張るものだそうだが、命には換えられないだろう。
でも、グラムタで鎧を売っているところを見たことはない。
こういうものがどうやって売られるのかは全く知らないので、なんとなく店頭で野菜かなにかのように並んでいるものかと思っていたが、違うのかな。
グラムタで一番鎧を着ているのは間違いなく探索者だ。
衛兵さんは精鋭ならともかく、下っ端の人は鎧が重いので上衣だけひっかけてごまかしている人も多い。
"グラムタの炎"かライレさんに聞けば店を教えてくれるだろう。
僕は朝食を早めにすませ、ホールに顔を出した。
"グラムタの炎"は見当たらない。
朝早く依頼を受けて狩場の陣取りをしているのか、もっとありそうなのは二日酔いでまだ寝ているかだ。
これは想定内。
でも、ライレさんもいない。
これは珍しい。
朝食時間をずらして来たつもりなんだけど。
「グライムズさん!ご用ですか!」
あ、クリファさんに見つかった。
いい人なんだけど、ちょっと苦手なんだよな。
「おい、俺の依頼の詳細を説明してるとこだろ!」
クリファさんと話してた人が文句を言った。
そりゃそうだ。
「大丈夫です。そちらを先にどうぞ」
「ええ~~大した話じゃないですよ……」
「もういいわ!」
あ、怒って行ってしまった。
クリファさんひどいな。
「いいんですか、ちゃんと説明しなくて」
「いいのいいの、あの人前にも受けた依頼なのにいちいち聞いてくるのよ」
そして片目をパチっとつぶった。
「困っちゃうのよね~~」
どういう意味なんだろう。何か意味ありげなんだけど。
僕のほうが困る。
「わかりました」
わかってないけど。
「今日は依頼じゃなくて鎧を買いたいのでその店を教えてもらいたいと思って」
「そうなの?そうよね、危ないものね。うーん」
考え込んでしまった。
「教えてもらえませんか?」
「いや、そうじゃないんだけど、道が難しいのよね……そうだ!案内するわ!」
「いえ、地図で教えてもらえれば」
「ジェスティ!わたし、グライムズさんに頼まれて道案内してくるから、しばらく頼んだわ!」
「先輩!そんなことで席をあけてたら怒られますよ。ホール長がトイレから戻ったら……」
「さあ、いきましょう!」
僕はクリファさんに手を掴まれて強引にホールから連れ出された。
凄い腕力だ。
探索者をやったら成功するんじゃないかな。
鎧を売っている店はホールからそんなに遠くなかった。
案内なんかいらなかったと思う。
でもなかなか着かない。
入りにくかったりするわけじゃない。
クリファさんが明らかにわざと店の前を素通りするからだ!
「あの」
「なになに?趣味は英雄物語の収集よ?」
「いや、そうじゃなくて、この辺何回もぐるぐる廻ってませんか?というか、お店ってここですよね?」
なんでばれたの?みたいな顔をされてもな……。