火の始末はしっかり
すごい火力だ。
黄燐手榴弾ってこんなものだっけ?
って、違う!
羽虫に火がついているんだ!
「これは大火になってしまうんじゃないか……」
やばい。
なんとかしなくちゃ。
その間にも半分焼け焦げたジャイアントワスプが狂ったように僕の脇をかすめて飛んで行った。
火柱の真ん中でギチギチいっているのは女王蜂だろう。
人間ほどもありそうで、体の半分は太った白い腹だ。
「あれ、水分多そうだな」
僕はどうしていいかわからず、極めてどうでも良いことを考えていた。
「あれが潰れたらぱっと火が消えたりして」
後から考えると蜂のお腹は水の入った袋じゃないし、もし入っていても火のついた黄燐は水では消えない。
「てりゃあ!」
あ、ミルズ型手榴弾、投げてしまった。
結果として、飛び散った破片がうまく燃え広がらない方向に行ってくれたこと、それに森が燃えにくい種類の木でなおかつ乾燥していない時期だったことで火事は避けられた。
手持ちのミルズ型手榴弾五発と黄燐手榴弾でめちゃくちゃに爆砕された蜂の巣は無残としか言いようのない状態になったけどね。
僕に消防士は向かないな。
轟音と火柱を見てライレさんたちが来たときには何もかも終わっていた。
「女王の体はそこそこ貴重な薬の材料になる。出来ればここまではやってほしくなかったぜ……」
燃え残っているのは頭だけだ。
それもライレさんがつつくとぱさりと崩れて消えてしまった。
一緒についてきた探索者の人たちも呆然としている。
「何がどうなったらこんなことに……」
「魔術士ってスゲェ……」
誤解ですよ。
僕は魔術とか使えませんから。
「まあ、素材は惜しいが危険もなくジャイアントワスプが退治出来たんだし、助かったぜ」
ライレさんがお礼を言ってくれた。
「あ……はい、どうも……」
火をつけるのはともかく、消火のほうは同じことをやれと言われても多分出来ないだろう。
自分としては今回の依頼は失敗した感じしかしない。
「なんだ。不景気なツラしやがって。ちゃんと報酬は弾むからよ……んん??」
ぽんぽんと僕の背中を叩いたライレさんが不審そうな顔になった。
「お前、服が切れてるぞ。血は出てないが」
手で探ってみると、本当に脇腹のあたりが結構長く切り裂かれていた。
多分、やみくもに飛んでいったジャイアントワスプの顎がうまく当たってしまったのだろう。
全く気づかなかったのに、意識するとかすかに痛い。
「街に戻る前に着替えますね」
「おう、あまり離れないようにな」
僕は森に少し入った所で"ファントム"を呼び出して換えの軍服を出した。
しかし危ないところだった。
僕が負傷するとどうなるのかな。
そんな事を考えながらシャツを脱ぐ。
何かがひっかかった。
あれ?
脇腹に手を当てると、そこには傷があった。
落ち着け、僕。
傷は浅い。
血は全く出ていない。
シャツを見てもどこにも滲んでいないから間違いない。
かすっただけで済んだのかな。
いや、これはけっこういってるぞ。
脇腹の死角にあって、うまく見えない場所だ。
僕は手で傷をまさぐった。
"ファントム"のミラーでなんとかならないか。
かなり珍妙な格好で脇をミラーに写してみた。
まるでノミで彫ったような一直線の傷がある。
深さは指の爪の幅ほどで、大したことはないが血が出ないようなものでもない。
その傷は人間の肉を削ったものじゃなく、大理石についた模様のように見えた。
ぐらり、と視界が揺れた。
僕は着替えを済ましてライレさんたちのところに戻った。
ショックがないといえば嘘になるけど、自分がまだ人間じゃないのはわかっていたことだ。
普通に食事をしたり、話したりすることは出来ても、僕はやっぱり亡霊なんだ。
でも、この体が肉で出来ていないのなら、内臓はどうなんだろう。
食べたり、(汚い話になるけど)排泄したりは普通にしているのだから。
それも見せかけなんだろうか……。
「戻りましょう」
「おう……なんかあったか?」
鋭い人だ。
僕の感情は読みにくいはずなんだけど。
答えに困っていると、勝手に口が動いた。
「ほっといてやれよ。個人的な、哲学的な悩みさ」
この!喋るなよ!
「お、おう」
ライレさんを驚かせてしまった。
文句を言いたいけど、あいにく相手の名前も僕は知らないんだ。




