失望
ブレン軽機関銃はエンフィールド銃と同じ.303ブリティッシュ弾を使う。
湾曲箱型弾倉には三十発が装填済で、予備弾倉も用意してある。
なぜウェブリーやエンフィールド銃じゃないかというと、これが僕の最大火力だからだ。
ヴォールトさんは僕の事をわかった上で黙認すると言ってくれたし、ライレさんには最初から色々とお世話になっている。
こういう人達に、役に立つ奴だと思ってもらいたいのだ。
信用されていないと存在値もうまく集まらないのは痛感している。
手の内を見せてしまうことに不安はある(多分、僕の中に混ざっている人の感情だ)がどうせ見せるなら格好をつけたい。
何のことはない、僕の虚栄なのだが、生前ろくに褒められることもなかったのだからこれくらい大目に見てもらいたい。
弾薬を除いたブレン軽機関銃の重量はエンフィールド銃の倍以上。
反動も強烈なので普通は二脚銃架を付けて運用する。
だが、僕は平気だ。
腰だめに構えた状態でもちゃんと制御できることは試してある。
コープス・ハンドは五体。
どれも比較的人のかたちを留めていて、足も早い。
普通ならかなりの脅威だろう。
でも、薙ぎ払うように銃口を動かしながらトリガーを引くと、鉛と火が彼らの腐った肉体を綺麗に両断してくれた。
「はは……聞いてたよりずっとすげえな。"炎"の奴ら、ちゃんと報告しなかったのか」
「道具を変えたんです。あの人達を責めないでくださいね」
「いくつ道具とやらを持ってるんだ……」
「これが一番強い攻撃ですよ」
ヴォールトさんは鼻をひくつかせている。
「火薬に似た臭い……見た目の印象は東方で発明された"雷火"というものに似ているが」
「見たことあるのか?」
「最近、攻城戦で何度か使われたらしいです。威力は大きいが、取り回しに難があるということで、あまり注目はされていません」
「ってことは、これは魔術じゃないのか?」
ライレさんが混乱しているみたいだ。
「見かけは魔術とは違うように見えますね。でも、それは見かけだけのことですよ」
ヴォールトさんはコープス・ハンドが地面に染み込んで行くのを横に、流れ弾で砕けた木に近づいた。
「大した威力ですが、この木を貫通できずに止まっています。これが"雷火"のような武器なら矢玉が残っているはずですが」
その手が銃創を探る。
「うん。やはり何もない」
僕はちょっと悔しそうな顔をしていたに違いない。
こんなに簡単に種が明かされるとは思っていなかった。
「その道具も、おかしな形の馬車もグライムズ君と同じように強烈に圧縮された霊で出来ています。つまり、グライムズ君は自分の一部を投げつけているわけです」
僕はうなずいた。
「魔術は自然界に偏在する魔素を制御する技術ですから、厳密にはグライムズ君は魔術士とは言えません。しかし、存在そのものが魔術に濃密に関わっているので、使う術も魔術と無関係ではありませんね」
「霊ってアレだろ?コープス・ハンドに取り憑いたりしてるやつだろ?でも、こんなコープス・ハンド見たことねえぞ」
ライレさん、その言い方はひどいなあ。
「一般的にはそう言われていますが、コープス・ハンドは肉体に穢れた過剰な魔素が溜め込まれて動いているだけの存在ですよ。霊は関係ありません」
「え、そうな(のか)んですか」
ライレさんと僕の声がかぶった。間抜けだ。
「ライレはともかく、グライムズ君、それだけ霊を自在に操っているのにそんなことも知らないのか」
ああ、失望されてしまう!