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死に絶えた村

夜風に乗って彼は飛ぶ。

足元には村だったものの残骸が広がっている。

父は村が「悪い奴ら」に狙われている、と村人に言っていた。

奴らは邪神を崇拝し、村ごと生贄に捧げるつもりなのだと。

最初は相手にされていなかったが、村人が少しづつ失踪して行くにつれ、信じる者も増えていった。

父とその信奉者は無人になった家を取り壊し、村を囲む防壁を作っていった。

村人が少なくなり、村が小さくなるにつれ、その壁は何度も作り直された。

最後は父、村長の家を囲むだけになり、それは壁というよりは粗末な檻に似ていると彼は今になって思った。

彼は記憶と人格を砂粒のようにこぼしながら逃げ出した家に戻ってきた。


なぜ戻ったのか。

理由を頭の中で探せない。

このままでは死ぬ。

亡霊として死ぬ。

なにか執着するものを見つけなければ。

扉に鍵はかかっていなかった。

室内は乱雑に引っ掻き回され、壊れた食卓の下に父が転がっていた。

顔は紫色から黒に近く、息はない。

彼が逃げたことに気づき、怒りのあまり倒れたのであろう。

だが、彼は特に何も思わない。


地下への扉の奥で何者かが呼んでいる。

瀕死の獣のように彼は階段を降り、地下牢の前を通り過ぎる。

その奥には父が生贄と自分以外には立ち入らせなかった赤い扉がある。

彼は何の抵抗も無くそこを通る。

自然岩の洞窟。

しかし無残にも入り口は潰れている。

土砂の山を薄青く照らして、"それ"が浮いている。


小さな、白い神像。

「亡霊か。しかし儂の前に来れば貴様も同じだ。願いを言え」

はっきりとした冷たい声を"それ"は発した。

父はこれに願いを聞き届けてほしくて生贄を捧げ続けたのだ。

部屋の隅に山になった骨があった。

「生きたい。せめて、何かになりたい」

彼は亡霊に出せる限り大きく叫んだ。

羽虫にも足りない小声であったが、神像にはそれで十分だったのだろう。

「やっと儂に叶えられる望みを言ったか。前の神主め、不老不死にしろだの地上の王にしろだの言いおって」

神像は憤懣遣る方ない様子で言った。

「儂は冥婚の神だぞ」


「本当を言えば貴様の望みも的外れだがな。一応聞いておくが、冥府におとなしく逝って惚れた女と添い遂げたいとは思わないか」

幼馴染の赤い服と白い顔が目の裏によぎる。

だが、彼は力を使い果たし、消滅寸前だった。

願い直しは出来ない。

「わかった。今時流行らぬのかな、冥婚など」

早くしてほしい。

「専門ではないからな。文句を言うでないぞ」

彼は巨大な目に見えない手につまみ上げられた。

「ひどくスカスカな亡霊じゃのう……。何も持っておらん。練り直すにも材料が足らんわ」

このまま消滅するしかないのか。

「そうじゃな。よいか、小僧。この地下には昔大きな都があってな。無論とんでもない大昔に死に絶えておるが、そこの死人どもには貴様と違ってしぶといやつもおる。そのうちの一人と貴様を混ぜる」

待って。そんなことをしたら僕は。

「やつの車と武器もつけてやる。さあびす・・・・というやつじゃ」

異論は聞かれないらしい。

何の抵抗も出来ない。

恐ろしい苦痛とともに彼は引き裂かれた。


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