ライレさんの友達?
カッファはおいしい。
最初はそうも思わなかったのだが、ここのところ毎日と言わず日に何度も飲んでいる。
ただ、どのカッファ売りもだんだん売るのを嫌がってきているように思えてならない。
最初はみんないいのだ。
愛想よく売ってくれる。
でも、砂糖とミルクを増やし始めてからはどうもだめだ。
なぜだろう。甘くて美味しいのに。
たしかに増やし過ぎかなあと思わないでもないが、その分お金は多めに払っているつもりだ。
半分くらいに減らしたカッファに、ミルクと砂糖。
ぬるくて、砂糖がジャリジャリするくらいがいい。それを口で溶かしながら飲む。
「旦那、そりゃもうカッファじゃありませんよ……」
なんでみんなこれをやると心底嫌そうな顔をするのだろう。
解せない。
ついにホール周辺のカッファ売りで売ってくれる人はいなくなってしまった。
おおいぬ亭ではカッファは「異国的すぎる」という理由で出していないし、出していたとしてもあの飲み方は絶対に歓迎されない。
ちょっと落ち込みながらホールに行くと、久しぶりにライレさんがいた。
ありがたい。
この間から相手をしてくれているお姉さんも悪くないけれど、なんだかやたらに顔を見られているようで恥ずかしいことがある。おかげで名前も聞けていない。
さすがに今更お名前はなんでしたかとも聞けないし、困っていたところなのだ。
ライレさんが手招きしている。
お姉さんが何故かその横で不機嫌そうにしている。
なんだろう。僕、何かやったかな?
「よう、グライムズさん。留守してて悪かったな。今日からまた俺が担当するからよ」
「え、ええ」
「クリファが担当してたらしいが、何か変わったことはあったか?」
「いーえ、なんにもありませんでしたよ!」
お姉さんはクリファさんと言うらしい。
不機嫌そうなのでとりあえず謝っておいた。
「クリファさん、ご迷惑をおかけしました。これからも何かあったらお願いします」
僕がそう言うと、クリファさんはなんだか慌てたみたいだった。
「い、いえ!でも名前、覚えてくれてたんですね!」
今聞いたばかりですが。
でも、クリファさんはなぜだか向こうを向いて拳を小さく突き上げていたのでそういうことは言わずにすんだ。
その後、ライレさんの友達だというヴォールトさんという人を紹介された。
なんと、魔術士らしい。
いきなり緊張してしまった。
いつかは来ると思っていたのだけれど、早すぎやしないか。
グラムタ全体でも引退した人を含めて数人しかいないし、もっと大きな街に行ったって王様や貴族様にお仕えしている人しかいない。
まず忙しすぎて会おうと思って会えるものじゃないと聞いていたのに。
青いローブを着てて、すごく眉間にしわがよっている。
気難しそうだ。
「グライムズ君と言ったな。魔術の師はいないというのは本当か?」
「いえ、今はいませんが、故郷で先生から習いました」
「ほう。なんという師だな?」
つっこんできたなあ。
「名前は教えてもらえませんでした。数日だけだったので」
僕が用意していた言い訳を言うと、ヴォールトさんの眉がぴくっと動いた。
数日ってのはやっぱり短すぎるか!
でもそれ以上だと名前を聞かない理由がないし、名前を言ったらそんな魔術士いないとか言われそうじゃないか。
「本当に!本当に、簡単なものだけなので!」
「ふうむ」
ヴォールトさんは目を閉じた。
この人、眉毛と睫毛が真っ白なんだ。
それに、額の上辺りになにかぴかぴか光るものがからみついている。
すごく物騒な光だ。
いきなりそのまぶたが開いた。
「実地で見せてはもらえんか」
やっぱりそうなるよねえ。