おかしなことをしていないだろうか
「あんたが"髑髏面"か」
いきなりそんなことを言われるとちょっとむっとしてしまう。
「名前はピーター・グライムズだ」
ライレさんが連れて来たのは四人の探索者だった。
探索者は何十人という徒党を組むこともあるそうだ。
でも、腕利きこそ小回りのきかない大人数じゃなく、数人で狩りをするものだという。
彼等はライレさんが世話をしている中では一番の有望株らしい。
会うなり失礼な事を言ってきたのはそのリーダーで名前はリンド。
傷だらけの金属鎧を来た大男だ。
「え?」
名乗ったら、不審そうにされてしまった。
「"髑髏面"じゃないのか?」
「……その呼び方はやめてほしい」
何故か小声で他の三人と話し合い始めた。
「二つ名で……」
「本人がそう言っているんだから……」
「いいんじゃない……」
なかなか結論が出ないのを、ライレさんが途中で止めてくれた。
「"髑髏面"ってのは自分で名乗ってるんじゃない。グライムズ本人は嫌なんだとよ」
「そ、そうか。二つ名がつくと喜ぶ奴の方が多いんだけどな」
「グライムズと呼んでくれ」
「わかったよ。グライムズさん。俺らが"グラムタの炎"だ」
なんだろう。"グラムタの炎"って。
「徒党の名前だよ」
ライレさんが耳打ちしてくれた。
「そうか、よろしく。"グラムタの炎"さん」
「いや、さん付けって……」
リンドがすごく残念な顔になった。
この人たちとはどうも噛み合いそうにない。
「コープス・ハンドを一日二十体狩るそうだけど、道具とかどうしてる?」
西門から手ぶらで出ようとする僕をロックが止めた。
"グラムタの炎"の荷運び担当だそうだ。
リンドよりさらに大男だけど、鎧は着ていない。
代わりにものすごく大きな背負子に武器や得体の知れない道具いっぱいに入れて担いでいる。
「呪石は軽いから道具はいらないよ」
「そっちじゃなくて。マジか……足止め用の杭とか使わないのか?」
ロックは信じられない様子で呟いた。
「危険すぎる」
革鎧を着た軽戦士のライスが首を振った。
「あんたが死ぬのは勝手だが、巻き込まれるのはごめんだ」
彼の言葉に、僕はうまく返答出来ない。
「どう言えばいいかな……」
「まーまー、グライムズにまかせようぜ。もしだめで俺らが逃げても恨みっこなしだ」
困っていると、弓兵のエリースがそう言ってくれた。
目つきは悪いけど、いい人らしい。
「それで構わない」
面倒になってきた。早く狩りをすればわかってもらえるだろう。
「コープス・ハンドが三。小が二、中が一。援護するか?」
墓地に近づくとすぐにエリースが緊張した声で教えてくれた。
「大丈夫」
「おい、結局武器はどうするんだ!」
ライスが叫んだ。
僕はホルスターから装填済のウェブリー拳銃を抜いた。
「これでいい」
比較的人体の形を留めているコープス・ハンドの上半身が吹き飛んだ。
.455ウェブリー弾の轟音は"グラムタの炎"を驚かせてしまったらしい。
「なんだ!?」
「魔獣の襲撃か!」
「うわ!いたた……」
「撤退するぞ!おい、グライムズ!」
いえ、僕の拳銃です。ごめんなさい。
「あんな大きな音がするなら教えて欲しかったな」
苦虫を噛み潰したような顔でリンドが言った。
「すみません」
説明が足りなかった。慌てたロックが足を捻ってしまったのだ。
面倒がってはいけない。
「いや、でもすごいな魔法。その道具で発動するのか?」
当のロックは目を輝かせているけれども。
「この道具を呼び出すのが僕の魔法です」
本当にあるのか、そんな魔法。
ものすごくいい加減な事を言っている気がするが、出した言葉は戻せない。
この設定を押し通すのだ。
「ほおおおお!素晴らしいな!触らせてくれないか?頼む!」
「どうかな……。いいですよ」
他人に渡せるのかどうかは知りたかったところだ。
でも、ロックに渡したウェブリーは、僕の手を離れたとたん光の粒になって消えてしまった。
地面に置くのはいいのに、人の手には渡せない。
どうなっているのか、僕の力。
「やはり、魔力を持たない人間には扱えないのか」
ロックは落ち込んでいるが、その設定、もらっておきます。