人に見られていると困ることもある
かなり早く起きたので朝食はラウンジで摂ることにした。
持ってきてもらうのも気が引けたから。
パンと見たことの無い赤いスープ。燻製肉とサラダもついていた。
赤いスープは酸っぱくてもしかしたら腐っているんじゃないかと思ったけど、これはこういうものらしい。
誰かこないうちにと思って急いで食べて、外に出たらまだ薄暗かった。
失敗したなあと思ってなんとなく歩いていたら、カッファ売りというのに会った。
大きな銅のボトルに熱い茶色いお茶みたいなものを入れて売り歩いている。
僕は薄暗いのを幸いとカッファを買ってみた。
鎖でボトルにつながったカップに入れてくれる。
ああ、歩きながら飲むってわけにはいかないみたいだ。
カッファは苦くておいしいとは思えなかったけど、追加でミルクと砂糖を入れられるし、香りはとてもいい。
特におなかがふくれるわけじゃない。
でもこういうものを買って飲むというのは、なんというか、贅沢な感じがする。
一人でにやけていると、存在値が5上がった。
こういうのが人間の楽しみというものなんだろうな。
色々な楽しみを見つけて行かなければ。
熱いカッファをゆっくり飲んでいたら、道に人が増えてきた。
僕はカッファ売りにいくらか多めのお金を払ってホールに向かった。
朝早いからどうかと思っていたけど、ライレさんはもういた。
ライレさん以外の職員さんとも話したいけど、取り合ってもらえないかもしれないと思うと積極的になれない。だめだなあ。
「今日は早えな。ちょうどいい、頼みがあるんだ」
特別な駆除とかだろうか。
「今日もコープス・ハンドの駆除を頼むんだが、それを共同でやってくれねえか」
「一緒に駆除をするんですか?ライレさんと?」
「俺も行ってみたいが、忙しくてな。こっちで行かせるメンバーは決めてある」
何でだろう。僕が何かおかしいことをしたのかな。
あまり狩りの方法を見られるのは嬉しくないんだけど、これは拒否することはできないんだろうか。
僕はまだ人間に何が出来て何が出来ないのかわかっていない。
うっかり人間じゃないことがばれてしまったらこのグラムタにいられなくなってしまうかもしれない。
僕がずっと黙りこんでいたので、ライレさんは心配になったらしい。
「コープス・ハンドを大量に狩ってるやつがいるってのが上に知れてな。真似できるものならさせたいそうなんだ。グライムズさんはいつもどおり狩りしてくれればいい。邪魔はさせねえよ」
「ひ、秘密があるんですけど」
僕はあきらめて白状しようと思った。隠し通せる気がしない。
でも、ライレさんは別の意味に取ったみたいだ。
「ああ、狩りの方法はいろいろ秘密があるのはわかる。でも有効な狩り方ならそれを共有してほしいのさ。コープス・ハンドの増え方が最近異常なんだ。旧墓地を迂回する新街道を作ろうかって話が出てたくらいで……そこに現れたのがあんただ。ぶっちゃけ、俺はあんたが普通の探索者が真似できるような狩り方をしてるとは思ってねえんだが、上にそれを説明させてほしいんだよ。魔術士かなんかなんだろ?」
魔術士。僕は見たこともないけど、そういう人がいるというのはなんとなく聞いたことがあった。
魔術士に何が出来て、何が出来ないか僕は知らないけど、そういう魔術士なんだと説明したらなんとか押し通せないかな。
僕はかすかな希望にすがってみることにした。
どうせ他に道はないんだ。
「わかりました。一緒に行く人を紹介してもらえますか」