名乗りをあげよう
コープス・ハンドはいいお金になる。
リー・エンフィールド銃だとほとんど撃ち漏らしがない。
.303ブリティッシュ弾がもったいないので弾が余り気味になるウェブリーに切り替えてみたけど、一撃なのは同じだ。
近づかなければいけないので周りを見てからじゃないと危ないけど。
ブレンガンは全然出番がない。制圧射撃をするほど敵がいないし、弾はリー・エンフィールド銃と同じだからバラバラ撃ちまくるとすぐに足りなくなる。
でも、普通の探索者だと倒しにくくて嫌な怪物らしい。
おかげで全然人と遭わずにすむ。
僕にとってはお金がつまった袋みたいなものだ。
午前中だけで二十ほどの呪石を拾って狩りを切り上げることにした。
戻って昼食にしよう。
急いで戻ると、ニータの食堂はもう開いていた。
今日は昨日にも増して客がいない。
一人いる客は……客なのだろうか?何も前に並べずにカウンターごしにニータに深刻そうに話しかけていたけど、僕が入って来ると舌打ちしてすぐに出ていってしまった。
なんなんだろう。
「こんにちは。食事をしたいんだけど」
「いらっしゃい」
ニータは笑ったけど、ちょっと疲れてるようだ。
「何かあったの?ああ、昨日店を教えてくれて助かったよ」
「そりゃよかったね。今日は何にする?って言ってもスープとパンくらいしかないけどね」
「それでいいよ」
答えてくれないみたいだ。
スープとパンは昨日と同じようにおいしかった。
僕は同じように三回注文しなおして全部食べた。
「よく食べるね。あたしだって飽々してるのにさ」
「おいしいよ」
ニータは笑っていたけど、何か言いたそうだった。
「何?」
「あのさ……ここにはもう来ないほうが良いよ。ほんと、ろくなもんないし」
「何かあった?」
ニータは笑顔を消して頭をガリガリかいた。
「腕ききの探索者さんがこんなとこ来てるとさ、変に勘ぐる奴が多いのよ。さっきの奴なんか俺と逃げようって……バカじゃないのって言ってやったけどさ」
勘ぐる。何をだろう。
「"髑髏面"なんて二つ名の奴がまともなわけない、とかね。そもそも手を出されないってのね」
二つ名。あだ名みたいなものかな。
え、僕のこと!?
「"髑髏面"か、怖いね。あはは」
「"青獅子"のライレが見込んだ男ってね。この街じゃ強い探索者は何やっても許されるみたいなとこあるからさ」
僕が"髑髏面"でライレさんが"青獅子"。
ちょっと冗談っぽく言ってみたけど、全然笑ってくれなかった。
ああ、別の食堂を探さなきゃいけないか。
これ以上しつこくすると存在値が下がってしまいそうだ。
「ごめんね。ニータさん」
僕は謝った。
「あんたが悪いんじゃないんだけどね……」
「もっと強い探索者になったらまた来るよ」
「え?」
「悪い評判のない強い探索者にね」
「あ、ああ。待ってるよ」
「僕の名前はピーター・グライムズ。覚えておいて」
「ピーター・グライムズか。変わった名前だね。でも似合ってると思うよ」
「ありがとう。ではまたね」
僕はグラムタの路上に歩み出た。
また目標が出来た。
グラムタに、この国に、僕の名前を覚えさせてやる。
僕は"髑髏面"じゃなく、ピーター・グライムズだ。