隠れ鬼
もうひとつ連載しているテンプレっぽいのがなんとなく終わりが近づいて来たみたいなので調子に乗ってまたまたよくある感じのを書いてみます。
ちゃんと終わらせてから書けや!と言われたら返す言葉もないですが、そこをなんとか読んでやってください。
ろくな人生ではなかった。
そんなはっきりとした独白が生まれたわけではない。
なぜなら彼は死にかけていたから。
なぜなら彼は後悔に苛まれていたから。
なぜなら彼は人生というほどの人生を持っていなかったから。
彼は暗い穴の底から夜空を眺めていた。
美しいなどと思っていたわけではなく、頭を動かすことも出来なかったために。
元々乏しい命の最後の一欠片が時間と共に消えて行く。
「僕は死ぬ」
声は出ていなかったに違いない。
わずか十歳で死ぬ彼を憐れむ者はいない。
彼の村の住人は父を除いて死に絶えた。
ほかでもない父が殺し尽くした。
父は狂っていた。
意識が混濁する。
彼には過去というほどの過去がない。
七歳以前には普通の子供であったはずである。
しかし、先日偶然に抜け出せた地下牢で三年間、無明の闇に閉じ込められているうちに過去も現在も未来もわからなくなってしまった。
「……を捧げてみたよ。何も起こらなかった」
「やつも外れだった」
「だめだった」
彼の幼馴染の少女、兄、姉を殺した後に父が地下牢で述べた独り言である。
母は彼は生まれる時に死に、彼、彼女らは最も親しい者たちであったが、もう彼には顔も名前も思い出せない。
「もうお前しか残っていない。明日お前を捧げる」
何の感情もない父の声が意識の表面に悪意に満ちた波紋を広げる。
その後すぐに逃げた。
三年間つけられていた枷を外し、"捧げる"前にかならずさせる沐浴の準備を父がしているうちに家の裏に逃げたのだ。
死ぬことはともかく、自分から何もかも奪い尽くした父にこれ以上何もしてやりたくなかった。
その後のことはよく覚えていない。
逃げられる心配をさせないほど衰弱しきった彼がどうやって狂気に満ち、壮健な父から逃げることが出来たのか。
おそらくふらついているうちに林の中で何か動物が掘った穴に落ちたのだ。
驚くほど優しい風が頬を撫でた。
彼は、彼の意識は穴を登って行く。
「死んだんだ」
彼は言ったつもりだったが、周囲にそれを聞く者はいない。