大広間
その笑みは見るものだけでなく、その空間にいたものに恐怖を与えた。
もちろん、抗ったものも多かったがそれだけ。
それだけのことで抗えなかった者の戦意は既に消失を始めていた。
とは言っても、下級兵士のほとんどというだけではあるのだが。
「デス」
黒い小さなものが兵士に飛んでいき、一番前の指揮官に当たりそうだったが、済んでの所で避けたせいで後ろに控えていた兵士に当たる。
「な、なんだ?」
見たことがないだろう呪文は約五秒後に発動した。
その兵士の肌が黒く染まり、その場で呻き声と共に蹲る。
やがて、炭化したように黒くなったそれは簡単に砕ける。
パラパラとバラバラと。
その症状はそれだけで終わらなかった。
砕け粉々になったものは一定の大きさで固まり、他の兵士にまとわり付くように身体中の皮膚から侵入していく。
あとは、想像のとおり、同じ末路を迎え、次の兵士へと襲いかかる。
狙われるのは、下級兵士が多かったが所々で中級兵士にも襲っている。
恐怖は伝染する。
「うあああぁ、やめろぉ、来るなぁ」
遠くにいた兵士にも方向転換をし、襲いかかって来る。
ユイはこの隙にと大広間の中央を堂々と進んでいく。
が、進む先を二人のガタイのいい男二人に遮られる。
「行かせんぞ?」
「あら、あなたたち、恐怖を感じていないのね?素晴らしい忠誠心ね?それとも洗脳だったりするのかしら」
「ふん、恐怖をコントロールするくらいなら朝飯前よ」
「うむ、恐怖とは...おい!恐怖を抑え込め。この黒いのは恐怖に反応する」
その言葉で一気に犠牲になりそうなものは、減っていくが恐怖をおさえられないものかどんどんと犠牲になる。
「次いで、教えてあげるわ。水系統には弱いわよ?それともうひとつ、恐怖も思い出させてあげる」
瞬時に腹に拳を入れ、後ろに回ったユイは首を思いきり横にへし折る。
「シャム!ちゃんとついてきなさい」
シャムは入り口にまだいたのでとことことユイに追い付こうとする。
「な...き、貴様ぁぁ」
大きく振りかぶった剣だったが、ユイは欠伸をしながら、二本の指で挟むことで止め、力を加えることで使えなくする。
「予想してたよりも脆いわね。笑わせてくれるわ、本当に」
その笑顔は先ほどの笑顔よりも黒かった。
「あなたはどんな死に方をお望み?」
あまりのことに流石に堪えられなくなったのか後ろを向いて、逃げようとするが、
「恐怖をコントロールするのは朝飯前ねぇ。あぁ、でも、怖いと思うのもコントロールだもんねぇ。間違ってないか」
黒い粉がその兵士を覆い、あっという間に見えなくなったと思えば、既に炭化していた。
周りでは、水を使って必死に粉を無力化しているが、ユイにとってはそんなことはどうでもいいのである。
「いきましょ」
シャムはついていこうとするが、そこで声をかけられる。
「待てぇぇぇぇぇぇ」
今回は結構早かったと思う。




