兄弟
意外とすんなりかけた。
すっかり暗くなった町の屋根を伝い伝って、ユイは走る。
「シャムに手を出すなんて、絶対に許さないんだから」
その表情には、怒りと悲しみが見てとれる。
太一のことを少し思い出してしまったのだろう。
『反応が止まったな』
少し進んだところで黒神龍が呟き、ユイは小さく頷く。
「シャムは大丈夫よね」
『うむ、一応人質のつもりなのだろう。危害を加えた気配はない』
しばらくして人影が町の外で見つかる。
どちらかと言うと中性的な魔族と口に布を巻かれ声のでないシャム。
魔族の方は出るとこは出てないので恐らく男だろう。
「え、えと、僕はダモンです。一応魔族の四天王をやらせていただいてます。えと、そのこの子を殺されたくなかったら死んでもらえませんか。もちろん、死んでいただけるのであれば、この子にはなにもしませんし。僕、あまりそういうことはしたくないんですよ」
少しキョドキョドしながらもダモンと名乗る。
「お前みたいなくそやろうに名乗る名は持ち合わせてない。死にたくなかったら、さっさと消えろ」
ユイはというと切れぎみである。
既に髪は黒く、戦闘体勢にはいっており、隙さえあればいつでも飛びかかりそうである。
「でも、命令なんですよぉ。あなたを殺さないと僕も帰れなくて。どうか、死んでください」
「しつこい」
そう言って、素早く近づきとどこからか取り出した刀をただ、まっすぐに振る。
それは、ダモンの左腕を落とす。
「あ、痛い。やめてくれませんか、。それなりに体力はある方なんですけどやっぱり体が...」
最後まで言い終わる前に、またもやユイは素早く近づき
右腕も落とす。
シャムの抱える腕が落ち、シャムを保護する。
後ろへと下がらせ、ダモンを見るが痛がっている素振りも我慢している素振りも見せない。
「い、痛いんですよ?分からないですか?こう見えても結構痛いんですよ?」
再び、加速する。
今度は遠慮なく首を落とすことにしたようで刀に横に一閃と切り裂く。
当たるという確信はした。
しかし、頭はダモンの首を通じてしっかりと胴体にくっついている。
「どうなっているの?」
『もう一人、来るぞ」
突如、聞こえる黒神龍の声。それに反応し、その場から跳ぶ。
先程までいたとこに衝撃が走り、そこにはえていた草は根こそぎなくなっている。
「今のを避けるかぁ。ったく、なにしてんだよ、兄者。こんなやつ、さっさと殺しちまおうぜ」
「そ、そんなこといっても、あんまり殺しとかしたくないから自殺を勧めてたんだけど」
「兄者、腕落ちてんじゃねえかよ。ほらよ」
あとからやって来た魔族は、腕をガモンに向かって放り投げる。
「人の腕を乱暴に扱わないでよ」
文句を言いながら、腕を受け取り、もとの位置へと持っていくと、不思議なことに腕が治る。
ならばと、ダモンを黒炎で燃やしにいくがまたもや、腕に当たる。
「あぁ、これ消えない火だ」
そう呟き、くっつけたばっかりの腕を引きちぎり、どこかへ投げる。
ユイがその腕を目で追った数秒でダモンの腕は元通りになっていた。
「いつもそうだ。いつも兄者は、戦おうとしない。だから一方的になるのによぉ」
もう一人の魔族は持っていた大きいハンマーのようなものを肩でとんとんする。
「俺はガモンっつうんだ。名前は覚えてなくてもいいぜぇ。どうせ、直ぐに死ぬんだからなぁ」
そう言うと、ガモンは一方的にこちらへと走ってくるのであった。




