09.冒険へ行こう
さて、これまで見たものは夢だったことにしてと……。
じゃがいもは明後日にみんなで収穫するらしい。
というか人間の襲撃の件はどうなったんだろう。
「母さん、こんなのんびりしてていいの? この里危ないんじゃないかな。僕不安すぎてさ……」
「うーん、じゃあ教えておこうかね。母さんの占いによると、襲撃隊は明日の朝ここに来るんだよ。でも母さんがちゃんと追い返すから安心していいよ」
「安心って……母さんそんなことできるの?」
「もちろんだよ」
自信満々に言う母さん。
まあ、そう言うのなら任せておこうかな。
「そうだ、明日の朝5時に予約召喚しておいておくれ」
「予約?」
「うん。呼ばれてないと追い返しに行けないからね。その杖でそれっぽくしてくれればいいよ」
「えっと……5時に母さん召喚予定。えいっ!」
なんかいろいろ光ってそれっぽくなった。
便利な杖だ。
「ありがとねタカシ。じゃあ今日は沙鬼ちゃんと遊んでおいで。母さんもいったん戻って休むよ」
「わかった、お疲れ様」
「あれれ? わらびもちさんが消えちゃったよ」
「母さんは休む時に消えるんだ」
「そうなんだー、不思議」
ややこしくなるから、母さんを召喚できるのは黙っておこう。
さて、遊びに行って来いとは言われたけど……どうしようかな。
「ねえ、沙鬼ちゃんは普段何して遊んでるの?」
「うーん……お散歩したり妖術の特訓かなあ。同年代の友達がいないから1人でだけどね」
「そっか。今から僕と冒険に行かないかな?」
「冒険? 楽しそうだから行くっ!」
というわけで里を出て、冒険することにした。
いざとなれば母さんを呼べばいいし、危険もないだろう。
「タカシ君、冒険ってなにするの?」
「定番は悪い妖怪退治したり、宝探しなんだけど……」
「そっかぁ……じゃあ悪い鬼火が出るところに行ってみる? わたしの友達たちが困ってるらしいんだ」
「うん、いってみよう」
「わたがしがやっつけるもきゅー」
というわけで、里から少し離れた森へやってきた。
中は薄暗く、太陽の光が届きにくいようだ。
「ねえ沙鬼ちゃん、どうして悪い鬼火といい鬼火がいるの?」
「えっとね、昔すごく悪い大妖怪がいたの。もう倒されたんだけど、その大妖怪の瘴気が残ってて、それに当たると悪くなっちゃうみたいなんだ」
「えっと……その瘴気に当たると沙鬼ちゃんも悪くなっちゃうの?」
「瘴気はそこらへんにないから大丈夫だよ。ただこの森に悪くなった子が住みついちゃってるんだ」
大妖怪というと魔王的な存在かなあ?
倒されたってことは、この世界はそれなりに平和っぽい。
「これだけ薄暗いならうめぼし呼んでもいいかな?」
「うん、ここは大丈夫。明るくしてくれるしね」
「よーし、うめぼし召喚!」
僕の腕にある『火』の文字が輝き、赤い鬼火が出現だ。
「うめぼし、一緒に冒険しよう」
「わかったぴー」
少し進むと、黒い光がふわふわ飛んできた。
これが悪い鬼火かな?
「タカシ君、どうしよっか。1匹ならそんな強くないよ」
「じゃあ僕にやらせて。わたがしとうめぼしの特訓もしたいんだ」
「わかった、応援してるね」
わたがしはやる気まんまん、うめぼしは少し怯えているようだ。
じゃあまず戦闘経験のあるわたがしからだ。
「じゃあわたがし、あいつをやっつけろ!」
「もっきゅー!」
「わたがしがんばってー」
わたがしに向かって杖を振ると、わたがしが光に包まれた。
これで鬼火に触っても熱くないはず。
「わたがしきーっく!」
「いいぞー、わたがしー」
わたがしの先制攻撃が炸裂だ。
黒鬼火はふっとんでいく。
そして怒りの表情を浮かべ、小さくなった。
弱ったのかな?
「わたがし、とどめだー」
「もきゅっ!? たかしくんきをつけてっ!」
「えっ?」
縮まっていた黒鬼火が急に膨らみ、そこから火の玉がたくさん飛んできた。
やばい……避けられるだろうか。
「ひゃああっ!」
「ぴぴるるー!」
避けれないと思った瞬間、うめぼしが僕の前に飛んできて火の玉を防いでくれた。
「うめぼし、ありがとう。大丈夫?」
「ぼくも火だから平気ぴー!」
見るとわたがしは余裕で避けていて、沙鬼ちゃんも大丈夫なようだ。
黒鬼火は技を使った直後だからか、動かない。
「たかしくん、僕を投げてほしいきゅー!」
「よーし、わかった!」
わたがしが僕の杖の先端に乗ってきた。
僕は杖をフルスイングだ。
そしてこの杖からわたがしに魔力を流せるはず。
「わたがし、僕の力をあげるよ!」
「もきゅっ! わたがしー……どろっぶきーっく!」
「ぶおおおおおぉぉぉ!」
黒鬼火は、なんとも恐ろしい悲鳴をあげて地面に落ちた。
豆粒くらいの大きさの炎になっている。
「タカシ君、とどめをさすにはこの状態で水をかければいいの。わたし水を出す妖術使えるけどどうする?」
「うーん、なんだか可哀想かも。でもほっておくと悪いことするんだよね」
「ここまで弱ったら、回復に時間かかると思うよ」
「じゃあ見逃してもいいのかな? だってこの子がこんなになったのは、悪い大妖怪のせいなんだよね」
「うん、いいと思うよ。タカシ君優しいなあ」
瘴気とやらを取り除けたらいいのにな。
ちっちゃい黒鬼火はふわふわっと逃げていった。
「よし、よくやったねわたがし。あとうめぼしも」
「余裕だきゅー」
「怖かったぴー」
「ふふっ、タカシ君たちみんなすごいなあ」
沙鬼ちゃんに褒められて照れちゃう僕。
これならなんとか戦闘できそうだぞ。
「たかしくん、あっちのあたりにおいしそうな草があるもきゅっ」
「じゃあ採っていこうか。あれ食べたら魔法が使えるんだよね」
「そうだもきゅー」
「タカシ君、魔法ってなあに?」
「あ、妖術みたいなものだよ」
「そっかー、わたがしすごいんだね」
魔法と妖術は同じものだと思うんだけど……。
この世界では、もう妖術に統一したほうがいいのかな?
とりあえず、いくつかの野草を採って僕のかばんに入れておいた。
そして先に進んでいると、うめぼしが怯え始めた。
「ぴぴっ……たかしくん、なんか怖い雰囲気がするぴー」
「うめぼしがそう感じるってことは、悪い鬼火が近いのかな」
「うん、それもたくさんだぴー」
「タカシ君、たくさんだと危険だから戻ったほうがいいかも……」
「そうだね……あ……」
すでに遅かったようで、僕たちはいつの間にか黒鬼火に囲まれているようだ。
10匹以上いるだろうか……。
「こんなにたくさん……しかも一緒にいるなんて今までなかったのに……。どうしよう、逃げ切れるかな。森の中だと早駆けの術は危険で使えないよ」
「うーん、母さんを呼ぼうかな」
ほんとは僕だけの力で戦ってみたいけど、沙鬼ちゃんを危険な目にあわせるわけにはいかない。
僕は杖を振って母さんを呼び出した……が……。
――ぐーすかぴー……んごー――
頭の中に、なんとも間抜けなイビキが聞こえてきた。
もしかして寝てる?
「タカシ君、どうしたの?」
「母さんは今来れないみたいなんだ。ここは僕がなんとかするから、沙鬼ちゃんは逃げて」
「だめだよそんなの……一緒に戦おう!」
「う、うん……」
そうするしかないのかな。
沙鬼ちゃんはいろんな妖術使えるみたいだし大丈夫かな。
よし、やるぞー!
「わたがし、1匹ずつ確実に仕留めていこう。うめぼしは沙鬼ちゃんを守って」
「やるもきゅー!」
「まかせるぴー!」
鬼火もじわじわと距離を詰めてきている。
よーし、先制攻撃だ。
わたがしは僕の杖に乗ってきている。
「たかしくん、さっきの草をちょうだいっ!」
「よし、魔法やっちゃって!」
トゲのたくさん付いていた草をわたがしに渡す。
見た目は痛そうだけど、わたがしは平気でむしやむしゃしている。
「いくぞー、わたがしにーどるー!」
わたがしの口からたくさんのトゲが飛び出した。
それが複数の黒鬼火に向かって、誘導されるかのように飛んでいく。
まさに魔法みたいだ。
黒鬼火たちは少しひるんで、こちらを警戒している。
「チャンス! よーし……水鉄砲の術!」
沙鬼ちゃんが手でなにかの印を結ぶと、そこから水が噴射された。
命中した黒鬼火は落ちたようで、ちょっとかっこいいかも……。
母さんの鼻水噴射とはえらい違いだ。
「よーし、なんとかいけそうだ。慎重に行くよ、わたがし」
「うん、わたがしにーどる!」
「水鉄砲連射の術!」
黒鬼火の数が少しずつ減っていく。
時々火が飛んでくるが、うめぼしが防いでくれている。
というか火がうめぼしに吸い込まれていく感じなので、そんな能力があるのかもしれない。
「よーし、なんとか倒せそうだ」
「ぴるっ!? たかしくん、なにか変な感じがするぴー!」
「えっ?」
ふと見ると、弱って小さくなった黒鬼火たちが集まっている。
まるで合体でもしそうな……と考えていると、ほんとに合体した。
3匹の大きな黒鬼火が僕たちの前に浮かぶ。
「な、なんだかすごく強くなったみたいぴー!」
「タカシ君、わたしもうすぐ妖力切れちゃうから逃げよっ。数少ないからいけるよ」
「そ、そうだね……」
悔しいけど、ここは逃げよう。
しかし……黒鬼火はすごいスピードで僕たちを取り囲んだ。
そしてあたりに黒い炎が立ち上る。
「こ、これは結界を作ろうとしてる!? タカシ君、逃げられないよ」
「じゃ、じゃあ戦うしかないね」
「もきゅっ、白い花の草をちょーだい!」
「わかったよわたがし」
言われた草を渡すと、わたがしがむしゃむしゃして光り出す。
「もきゅもまじっきゅあー!」
「わあ、妖力が回復したよ。わたがしありがとう」
「もきゅっ!」
わたがしは芸達者だ。
これならいけるかもしれない。
「じゃあ結界を作ってる今のうちに、あいつに集中攻撃だ! あれをしよう、わたがし」
「もきゅきゅー! わたがしどろっぷきーっく!」
「水鉄砲の術ー!」
2つの攻撃が決まった!
と思ったのだが、たいして効いていない?
「タカシ君、結界が完成したみたい。来るよ!」
「くっ……わたがし、続けていくよ」
「もきゅっ!」
黒鬼火たちは、沙鬼ちゃんに飛びかかろうとしている。
やはりあの水鉄砲が効いていて、嫌がっているのかもしれない。
守らなきゃ!
「ぴるるる! ……ぴいいいーっ!」
「さきちゃーん! もきゅっ……」
沙鬼ちゃんをかばって、わたがしとうめぼしが吹っ飛ばされた。
あと1匹は僕が止めなきゃ!
沙鬼ちゃんの前に立って杖で防ぐ……が吹っ飛ばされてしまった。
もしかしてこれって……大ピンチ?




