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08.カーチャンだもの

 鬼の里を人間達が襲撃しようとしている。

 町でそれを聞いた僕と沙希ちゃんは、急いで鬼の里へ帰還してきた。

 中に入ると、なにか激しい音と悲鳴が聞こえるような……。


「も、もしかしてもう人間が襲撃してきたのかな? どうしようタカシ君」

「まさかこんな早いはずが……見に行ってみよう」


 音は畑の方から聞こえてきているようだった。

 遠くから鬼たちが集まっているのが見える。

 どうやら攻撃を受けたわけではないのかな?

 その騒ぎの中心には、なんとなく予想した通り母さんがいた。


「わあ! わらびもちさんがすごいことしてる。あれも妖術なのかな?」

「いや、あれは……」


 母さんはなにか乗り物を乗り回してヒャッハー言っていた。

 あれは耕運機ってやつかな?

 畑を耕しているようだけど、世界観を壊しすぎだよ……。


「お父さん、ただいま。わらびもちさん何してるのかな?」

「おお沙鬼か、おかえり。畑を耕す妖術を披露してもらっているんだ。なんとも素晴らしいぞ」

「すごいなあ。あ、よく見ると土の色が変わってるけどなにかしたの?」

「ああ、作物が育ちやすい土にしてくれたのだがすごかったぞ。口から土や枯れ葉を吸い込み、鼻から今ある土を出したのだ」

「わあ……わたしも見たかったなあ」


 そんなおかしな光景を僕は見たくないんだけど……。

 でも鬼たちはやけに感動している。

 たしかに魔法とか妖術と思えばすごいけど……なんかずるって感じがしてならない。

 というか母さんっていろんなものを持ってるというか……持ってこれるのかな?


「あ、そんなことより大変なんだよ。人間達がこの隠れ里の入り口を見つけたらしくてさ、攻め込んでくるって言ってたの」

「なんだと……。それが本当ならば長に伝えて話しあわねば……」

「本当です。僕も聞きましたから」

「そうか……では行ってくる。騒ぎになってはまずいからな、まだ他の皆にこのことは言うなよ」


 沙鬼ちゃんのお父さんは真剣な表情で立ち去って行った。

 大丈夫なのかな?

 母さんにも相談したいけど、ノリノリで畑を耕している最中だ。

 もう少しで終わるだろうから、待っていよう。


「ねえ沙鬼ちゃん、鬼と人間って仲悪いの?」

「うーん、なんだか嫌われてるみたいなの。妖怪の中には悪いのもたくさんいるから、ひとまとめに悪者と思われてるみたいなんだ」

「そっか……仲良くできたらいいのにね」

「うん……だからタカシ君とお友達になれてすっごく嬉しかったんだよ」

「そっか、じゃあ僕もいろいろ協力するね」

「ありがとね、タカシ君」


 この世界に来たばっかりで事情はわからないけど、今は沙鬼ちゃんの言うことを信じよう。

 この里の鬼達を見る限り、みんないい人……というか鬼だ。

 あ、母さんの耕運機が止まったようだ。

 そのまま耕運機が消えていく。

 なんか口に入れたように見えたけど、きっと幻覚だろう。

 ちょうど休憩時間にするようだ。


「母さん、お疲れ様」

「あれ? 町へ行ったんじゃなかったの?」

「行ってきたよ。それで大変なんだ……」


 僕は母さんに事情を話した。

 だけど母さんは顔色を変えることもなく……。


「じゃあ母さんに任せとき。タカシは何も心配しなくていいから」

「え? でも……」

「大丈夫だよ。ちょっとお偉いさんのところに行ってくるから、タカシは沙鬼ちゃんと遊んでな」


 そう言って母さんは、沙鬼ちゃんのお父さんと同じ方向に向かって行った。

 どうするんだろう?


「タカシ君、どうしようか」

「長さんのところに行ってみよう。心配するなって言われたけど無理だよ」

「うん、でもきっと中に入れてもらえないよ」

「僕にまかせるもきゅっ」

「そうか、わたがしに中を覗いてきてもらおう」


 小さなわたがしなら潜入できるはず。

 そう考えて、沙鬼ちゃんに長さんの屋敷に案内してもらった。

 そしてわたがしに任せてしばし待つ……。


「あ、そうだ……。ねえタカシ君、言いにくいんだけどさ……よく考えたらウサギってわたしたち食料にしてたりするの……」

「あ……。もしかして危険かな?」


 そうだった。

 最初に鬼と会った時、わたがしは食べられるところだったんだ。

 捕まったら食べられちゃう?


「ど、どうしよう……。連れ戻しに行ったほうがいいかな」

「式神使いは式神と離れても会話できるって聞いたけど」

「僕まだ未熟だからできないや」

「じゃあ怒られるの覚悟で侵入しちゃおっか」


 よし、わたがしのためだから怒られたっていいや。

 と思った瞬間、わたがしが隙間から顔を出した。

 なぜかニンジンのかけらをくわえている。


「わたがし、おかえり。どうだった?」

「お母さんね、目玉焼きやいてたの。それ見てたら突然『曲者!』って叫んでこれ投げてきたきゅ。だから慌てて逃げてきたもきゅー」

「そっか、おつかれさま。無事でよかったよ」

「わたがしはおりこうさんだねー。なでなで」

「もきゅきゅー」


 目玉焼きを焼いてたということは、例の目玉焼き占いぽい。

 それにしても、母さんはわたがしが覗いてたのがわかったのかな?

 でなきゃニンジンなんて投げないよね。


「タカシ君、目玉焼きって何?」

「卵を使った料理だよ。食べたことないのかな」

「うん、卵ってそんな手に入らないし」


 この里にニワトリはいないようだ。

 この世界にいるかはわからないけど、とりあえずこの里では飼育という習慣はないっぽい。


「今度母さんに食べさせてもらうといいよ。おいしいから」

「わあ、楽しみだなあ。でもなんで料理してるんだろう?」

「えっとね、母さんはそうやって占いができるんだよ」

「占いもできるんだ。わたしも今度占ってもらいたいなあ」


 占いと聞いて楽しそうなところはさすが女の子だ。

 でも、結局中で何を話しているのかはわからなかった。

 とりあえず待つとしよう。


「ねえタカシ君、どうしてわらびもちさんはこの里のためにいろいろしてくれるのかな?」

「うーん、なんでだろう? 世話を焼くのが好きなのと、あとこの里でお腹空かせてる子供がいるって聞いたからかな。母さん子供が好きだからさ」

「そっかあ、優しいんだね」


 たぶんそうだよね?

 そしてここに来たおかげで野宿しなくてすんだし、来て正解だった。


「タカシ君はあんなお母さんがいて幸せだね」

「そうだね。ちょっと過保護すぎるところがあるけどさ」

「ふふっ、悪い妖怪に襲われるかもしれないんだもん。過保護なくらいがちょうどいいよ」

「そうかもね」


 悪い妖怪はどんなんだろう?

 鬼は怖いものと思ってたけどいい人達だし、沙鬼ちゃん可愛いし。


「この辺に悪い妖怪はいるの?」

「そうだねえ。この里があるから集団ではいないけど、餓鬼とか暴れ鬼火とかが出るよ」

「そっか、気をつけなきゃだね」

「でもわらびもちさんがいれば平気だよ。だってわたしのお父さんってこの里一番の力持ちなんだよ。そのお父さんに力であっさり勝ったくらいなんだから」

「そうだね……」


 なんで母さんはあんな強いんだろう?

 不思議だけど、まあいいか。

 その強さで今回の危機もあっさり解決してほしいな。

 そしてしばらくして母さんが出てきた。


「母さん、どんな話してたの?」

「うん、まったく問題なさそうだよ。畑行こうか」

「大丈夫なの?」

「うん。タカシも沙鬼ちゃんにも危険はないよ」


 この後は何度聞いても大丈夫と言って微笑むだけだった。

 少し不安だけど……こんな時に嘘をつくはずがないか。

 じゃあ畑に行こう。


「さあ、この畑にはジャガイモを植えるよ」

「ジャガイモですか。以前育てようとしたんですが、枯れちゃったり小さいのしかできなかったんですよね」

「すごくいい土にしたから大丈夫だよ。できたら沙鬼ちゃんにまた料理教えてあげようね」

「はい!」


 沙鬼ちゃんは母さんのことを信用しているようで、襲撃の件はもう気にしていないようだ。

 それより、母さんはずっとここにいるつもりなのだろうか?

 僕は冒険に出かけたいんだけどなあ。


「ではみなさん。これよりジャガイモの育て方を説明するよ。ついでなんで魔法で一気に収穫近くまで育てるからねー」


 鬼たちも集まって、母さんの話を真剣に聞いている。

 魔法で一気に育てるとかできるんだ。

 ちょっと楽しみかも。


「まずこの種イモを切って灰をつけて……」


 母さんの説明を聞いて、鬼たちが畑にみんな土に種を植え始めた。

 僕と沙鬼ちゃんも参加だ。

 小学生の時に作ったのが思い出されるなあ。

 

「わたし畑仕事って初めてだよ。なんだか楽しいねー」

「うん。自分で作ったら食べる時すごくおいしいんだよ」

「楽しみだなあ」


 みんなで植えて、次は水やりのようだ。


「お水は毎日やりすぎないようにね。今回は一気に撒くよ」


 母さんが鼻の穴を片方塞ぐように押さえ、ふんっ! と気合を入れた声を出すと……鼻から大量の水が噴き出た……。


「おお! あんなにもたくさんの水が出たぞ!」

「さすがわらびもちさん! なんと華麗な妖術なのだ……」


 うーん……あの光景がおかしいと思うのは僕だけなのかな?

 この異世界で疎外感を感じる今日この頃。

 あ、畑からもう芽が出てる……。


「さあ、水の次は太陽の光をたくさん浴びさせなきゃね。そいやっ!」


 見慣れた母さんのおばちゃんパーマ。

 それが母さんの手によってはずされ……?

 つるっとした頭がまばゆい輝きを放った。


「な、なんと神々しい光なのだ!」

「太陽とは我らが神の象徴……。それに等しきこの光。もしやわらびもちさんは現人神ではなかろうか?」


 人間の町では妖怪扱いされた母さん……鬼の里では神扱いされちゃった。

 というか母さんってカツラだったの?

 鬼にはツッコミの文化はないのだろうか?

 僕はこの盛り上がった空気の中でつっこむ勇気はない。


「さあ、あとは時を早めるよ」


 母さんは丸い壁掛け時計をポケットから取り出すと、後ろのネジをいじって時計の針をぐるぐる回し始めた。

 すると……畑から出ていた芽が少しずつ成長しているではないか。


「おおお……まさに奇跡だ……」

「神よ、感謝いたします。わらびもち様……」


 鬼たちの盛り上がりは最高潮だ。

 だけどひとつ言わせてほしい。

 あの母さんのやっているのが魔法だなんて……僕は絶対に認めない!

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