07.初めての妖術
変化の術で人間に化けた沙鬼ちゃんは相変わらず可愛かった。
ピンク色の肌は小麦色となり、なんとも健康的だ。
角が見えなくなり、もうどこからどう見ても人間にしか見えない。
「どうかなタカシ君、人間に見える?」
「うん、すごく可愛い……」
「え!? そ、そうなんだ……嬉しいなあ」
「もきゅっ、可愛いきゅ」
「わたがしもありがとー」
ついつい本音を口に出してしまってなんか照れる……。
土饅の町へは結構長歩くことになるはずだけど、これなら楽しく行けそうだ。
「ねえタカシ君、早駆けの術とか使える?」
「え? 僕術とか使えないんだ……」
「そっか、じゃあ教えてあげる。わたし妖術が得意なんだよ」
「僕にできるかなあ……」
「じゃあまずタカシ君に妖力があるか確認させてね」
そう言うと沙鬼ちゃんはおでこを僕のおでこにあててきた。
か、顔が近い……どきどきしちゃうよ。
「わあ……タカシ君の妖力すごくたくさんあるよ。これならいろんな妖術を使いこなせると思う」
「そうなんだ……なんか嬉しいな」
妖力と言うのは、魔力と同じなのかな。
たしか僕は召喚士として魔力がたくさんあるみたいだし。
妖術ってのはきっと魔法のことだよね。
「じゃあ見本を見せるね。こうやって足首をつかんで呪文を唱えるんだ……」
沙鬼ちゃんが呪文を唱えて手を離すと、足首あたりになにか模様が浮かんでいた。
そして沙鬼ちゃんが走ると、すごいスピードで遠くまで駆けて行った。
「おーい! こんな風に早く走れるようになるんだよ」
「沙鬼ちゃんすごーい! 僕もやってみたい」
「じゃあ戻るねー!」
またも沙鬼ちゃんはすごいスピードで戻ってきた。
僕にも使えるといいな。
呪文を教わり、沙鬼ちゃんと同じようにやってみる。
すると……僕の足首にも同じ模様が現れた。
走ってみると……足がすごい速さで動いた。
「タカシ君すごーい! こんなすぐできるなんて才能あるんだよ」
「そうかな。でも嬉しいや」
異世界に来ると、いろんな能力が身に着くというのが定番だ。
だから僕もこうやっていろいろできるのかもしれない。
よーし、ますますこの世界が楽しくなってきたぞ。
「じゃあタカシ君、競争だよー」
「ええ? ちょ、ちょっと待ってよー」
「もきゅー、置いてかないで」
「あ、わたがし。僕にちゃんとつかまってるんだよ。じゃあいくぞー!」
「速いもきゅー!」
そして、本来数時間かかるはずの道のりを30分程度で移動できた。
早駆けの術便利だなあ。
「あれが土饅の町なんだね」
「あ、でも通行手形が必要なんだ。沙鬼ちゃん持ってないよね?」
「うん……じゃあ外で待ってようか」
「ごめんね、手形手に入れる方法聞いてみるよ」
門番さんに聞いてみたところ、旅人長屋で登録済みの風来人は1人まで一緒に町へ連れて入れるらしい。
わりとあっさりしている。
昨日の母さんの捕物劇はいったいなんだったのか……。
というわけで、沙鬼ちゃんと一緒に町へ入った。
「わあ、ここが町なんだ。なんだかいろいろあるね。おいしそうな匂いもしてるよー」
「沙鬼ちゃんの術のおかげで時間もあるし、用事済ませたら一緒に見て回ろう」
「わーい」
まずは旅人長屋へ野草を届けに行こう。
受付のお姉さんにカゴを渡してしばし待つ。
「ねえタカシ君、壁に貼ってある絵ってわらびもちさんじゃない? えっと……おたずねもの?」
「ああ……母さんちょっとトラブルに巻き込まれて、誤解されてるんだ」
「そっか……大変だね」
「うん、でも母さんは大丈夫だよ。それより沙鬼ちゃんは字が読めるの?」
「うん、少しだけね。あの里の中で字が読める……人って少ないんだよ」
「じゃあ沙鬼ちゃん頭いいんだ」
「えへへー」
じゃあますます沙鬼ちゃんについてきてもらってよかった。
可愛いし、頭もいいし、いろんな術使えるんだなあ。
なんとなく幸せを感じていると、受付の女性が戻ってきた。
「お待たせしました。たくさん採ってこられたのですね。ではこちらが報酬の50飯8米となります」
「あ、どうもありがとうございます」
小さな袋に入れられた小銭を渡された。
このまま財布代わりにさせてもらうとしよう。
それにしても……お金の単位は昨日餅と言うのは聞いたけど、飯と米もあるんだなあ。
「わあ、それがお金なんだね。初めて見たよ」
「そっか……これどのくらいの価値なんだろう?」
「タカシ君も知らないんだ」
うーん、とりあえず適当な店で値段聞いて判断してみようかな。
あ、そういえば昨日見たお店……雑貨in土饅に行ってみようかな。
あそこの店主……ヨロズさんははおせっかいぽかったから、いろいろ教えてくれる気がする。
沙鬼ちゃんを連れて、店の前まで行ってみた。
「おや、これは昨日のおぼっちゃんではないですか。お買い物ですか」
「あ、はい。それで実は……僕お金の価値をよく知らなくて教えてくれないかなと思いまして」
「なるほど、お任せください。ぼっちゃんが持っている小銭は飯と米ですね。この2つはよく使われているものですよ。さらには高価な餅もありまして……」
聞いた結果をまとめると、餅は飯の100倍の価値。飯は米の10倍の価値。
1餅はなんとなくだけど、僕の元の世界で1万円くらいらしい。
だから手持ちの50飯8米は、5080円くらいだろうか。
結構たくさんもらえたみたいだ。
これも野草集めを手伝ってくれた鬼のおかげだね。
「なるほど、ありがとうございます」
「いえいえ、ではなにか見て行かれませんか?」
「あ……じゃあ物を入れる袋とかありませんか? 僕と、このうさぎが背負えるようなやつ」
「もきゅっ!」
「おや、その子は式神でしょうか? そうですね……そのように小さいのはないですなあ。ぼっちゃんにはこちらがおすすめです」
ヨロズさんが持ってきたのは、シンプルに肩にかけるひも付きの袋だった。
丈夫そうだしこれでいいか。
あと、わたがしのかばんを作るために同じ素材の布を見繕ってもらう。
裁縫道具は母さんが多分持ってるだろう。
「じゃあこれでいくらですか?」
「そうですね……ぼっちゃんの旅出を祝って、それはさしあげましょう」
「ええ? そ、それは悪いですよ」
「ではこうしましょう。他にも何か買っていただけませんか? そう、例えばこちら……」
タダより高いものはないと聞いたことがあるのでちょっと怖い。
ヨロズさんが奨めてきたのは、青い石がついたネックレスのようなものだった。
「わあ……綺麗な石」
「でしょう? どうですかぼっちゃん、これを彼女さんにプレゼントされては」
「え? わたしに……?」
「えっと……その……」
彼女じゃないんだけどなあ……。
でも沙鬼ちゃんが綺麗と言っているこの石をプレゼントしたい気持ちもある。
ただ……この商売人が高いものを売りつけようとしている恐れが……。
「これはメノウの石と言いましてね。女性に人気の品なのですよ。そうですね……20飯でいかがでしょう」
「20飯か……」
「タカシ君、悪いからいいよ。お金って貴重なものなんでしょ」
意外にもまともな値段設定だった。
かばんをくれるってことを考えると格安かもしれない。
沙鬼ちゃんは申し訳なさそうにしてるけど、ぜひもらってほしい。
「じゃあそれ買います!」
「はい、ありがとうございます」
「タカシ君……」
「ではこちらが商品となります。ぜひまた雑貨in土饅をごひいきに」
「はい、ありがとうございました」
というわけでお金を支払って店を出た。
沙鬼ちゃんはメノウ石のネックレスを首に着けてご機嫌だ。
「タカシ君、こんなに綺麗なものもらっちゃってほんとにいいのかなあ?」
「うん、術を教えてくれたお礼だよ。気にしないでいいからね」
「わかった。大切にするね!」
プレゼントするっていいもんだなあ。
さて……次は沙鬼ちゃんと一緒になにか食べたいなあ。
「沙鬼ちゃん、なにか食べようよ。なにがいい?」
「うーん、どれも見たことないものばっかりだよ。タカシ君の食べたいものでいいよ」
「じゃあ……お団子にしよう」
団子屋さんで1飯払ってみたらし団子を2本買った。
さて、この世界の食べ物はどうなのかなあ。
「わあ! これすごく甘くておいしいよ。ありがとね、タカシ君」
「どういたしまして」
うん、問題なく美味しい。
そして沙鬼ちゃんの笑顔が可愛い。
これって……デートだよね?
ドキドキしながら歩いていると、旅人長屋の方が騒がしいことに気がついた。
ちょっと行ってみよう。
「おい、聞いたか? なんでも鬼の里の入口が見つかったらしい。もしもの時に備えて討伐隊が派遣されるらしいぜ」
「おう、それで風来人たちにも声がかかってるみたいだな。なんでも活躍すると金がたんまりだってよ」
「でも鬼って強いんだろう? ちと怖いよなあ」
なんだろう……鬼の里を討伐隊が襲撃?
人間と鬼は仲が悪いのだろうか?
沙鬼ちゃんを見ると、顔色が悪く怯えている。
「沙鬼ちゃん、急いで帰ろう!」
「そ、そうだね……。でもどうしよう……」
「大丈夫、きっと母さんが何とかしてくれるよ」
根拠があるわけじゃないけど、沙鬼ちゃんの不安を和らげたくてこう言ってみた。
それに……あの母さんはなんでもやってのける気がするんだ。
僕と沙希ちゃんは、足に早駆けの術をかけて鬼の里まで猛ダッシュするのだった。
この世界のことはまだよくわからないけど、争いは止めたいよね。




