05.鬼とお友達
沙鬼ちゃんに連れられて、森の中へと入った。
ちょっと怖いけど、鬼の里の中は結界があって安全らしい。
「ほらほら、あちこちに鬼火が飛んでるよ」
「ほんとだ……。ねえ、沙鬼ちゃんはどうやって鬼火とお友達になったの?」
「そうだねえ、とりあえず話しかけてみることかなあ」
うーん……どの子に話しかけてみよう。
あ、なんか向こうの方に小さくて震えてるような子がいるぞ。
ちょっと近寄ってみよう。
「ねえ君、僕とお友達になってくれないかな?」
「ぴるるる?」
何を言っているかわからないけど、鬼火は怯えているみたいだ。
何故かわからないけど、この子が気になってしまう。
「タカシ君、その子は生まれた時から火が弱いみたいなの。鬼火にも強いのと弱いのがいるんだよ」
「生まれた時から……」
つまり僕と同じじゃないか。
僕はこの世界に来て元気になったけど、この子はずっと弱いまま死んでいくのだろうか。
「ねえ、僕と一緒に来ないかな? 僕と一緒にいたら魔力を分けてあげられるんだ。だから元気になれるかもしれないよ」
「ぴるる……」
「あ、この子タカシ君が気になってるみたいだよ」
近くに来たちっちゃい鬼火……顔がなんとなく可愛らしい。
最初に見た鬼火は怖かったけど、個体差があるんだな。
「僕ね、今からいろんなところを冒険するんだ。一緒に来てくれたら嬉しいんだけどな」
「ぴるー……」
「たぶんね、僕じゃ役に立てないよって言ってるみたい」
「そんなことないよ。こんなたくさんいる鬼火の中で、君が一番気になったんだ。別に役に立たなくても構わないんだ。一緒にいてくれればいいからさ」
そう言うと、鬼火は僕の杖にふわふわと飛んできて乗った。
これはお友達になってくれるってことかな。
「よし、じゃあ名前をつけなきゃね。赤い鬼火だから君の名前は……うめぼしだ!」
「ぴるっぴー!」
「わわ!? 鬼火が消えちゃったよ」
うめぼしは僕の体に入るように消え、僕の右腕には『火』の文字が浮かんできた。
「これでお友達になれたんだ。呼びだしてみるね。うめぼし、召喚!」
「ぴぴるるー!」
「わあすごい! タカシ君ほんとに式神使いなんだね。その子と仲良くしてあげてね」
「うん! わたがしも仲良くするんだよ」
「もっきゅー」
無事鬼火を仲間にしたので、また沙鬼ちゃんと手をつないで帰った。
わたがしは僕の頭の上、うめぼしは真上をふわふわ飛んでいる。
「ねえタカシ君、わたしともお友達になってくれる?」
「うん、もちろんだよ。また遊びに来るね」
「わーい、約束だよ。指きりしよっ」
この世界でも約束は小指をからめてするらしい。
この世界で初めての女の子の友達……嬉しいな。
そしてまた楽しく会話しながら母さんのいる場所まで戻った。
「わあ、なんだかいい匂いがするよ。タカシ君のお母さんって料理上手なんだね」
「うん、すごくおいしいはずだよ」
「楽しみだなあ」
「あ、タカシー。おかえりなさい。一緒に食べようよ」
もうそろそろ寝る時間だけど、なんだか宴会のように盛り上がっている。
というわけで、僕と沙希ちゃんも並んで食事に混ざった。
わらびと野菜がいい感じに煮こまれているようだ。
「タカシ君、おいしいね。お母さんに料理教えてもらいたいかも」
「きっと頼んだら教えてくれるよ」
「そうなんだ、お願いしてみようかな」
母さんは昔、娘も欲しいと言っていた気がする。
だから大喜びで教えてくれるだろう。
しばらく料理を楽しんでいると、なにか周りがざわざわし始めた。
「タカシ君、なにか始まるみたいだよ」
「なんだろう? あれ……母さんだ」
「ではこれより、私わらびもちによる一発芸をお見せいたします」
「いいぞー! わらびもちさーん!」
母さん何するんだろう……。
たしかに盛り上げ役は得意だったけどさ。
「とうっ!」
「おおっ! 跳んだぞ……そして浮いている!」
「すごい! わらびもちさん最高だ!」
母さん飛べるんだ……。
でもなんだか……空中からロープでぶら下げているような浮き方なのが気になる。
見えない誰かがいるんじゃなかろうか。
そして、母さんの頭で赤いランプが点滅を始めた。
あ、そろそろ召喚時間の終わりみたいだ。
「なんだ? 頭が明るく光っているぞ!」
「鬼火より明るい。あれは我らの知らない妖術なのか?」
「な!? わらびもちさんが消えたぞ……気配も感じられない。まさか幻術もお使いになるのか?」
召喚時間が終わって帰っただけです……。
どうしよう……このままだとずっとざわざわしたままだよ。
さっき消えた場所に召喚できないかやってみようかな。
こっそり杖を持って……聞こえないように母さん召喚とつぶやく……。
「じゃじゃーん! カーチャン登場……ってあれ?」
あ……無事空中に魔法陣が出たのだけど、なぜか上下逆さまだった。
そのまま頭から落下する母さん……。
あ、ちゃんと着地して頭だけでバランスをとっている。
母さんはすごいなあ。
「急に現れたと思ったらあのような体勢で着地するとは!」
「なんと素晴らしい芸なのだ!」
「わらびもちさん好きだー!」
会場は盛り上がっているようなので、結果オーライと言うことで……。
それにしても鬼たちって、人間とほとんど変わらないんだなあ。
「タカシ君のお母さんっていろいろできるんだね。憧れちゃうなあ」
「そ、そうかな……」
「うん! わたしもあんな大人になりたいなあ」
「あはは……」
わりと可愛い沙鬼ちゃんがあんなパーマのおばちゃんに……。
想像したら……沙鬼ちゃんの可愛い顔なら似合うかもと思った。
なんか鬼のイメージにも合うし。
でもあんなおかしな芸はしてほしくないなあ。
あ、母さんがこっちへやってきた。
「タカシー、どうだった?」
「母さんって飛べたんだね。いつの間にできるようになったの?」
「そうだねえ……あれは母さんがNASAで働いてた時の話なんだけど……」
母さんの趣味である創作話が始まった。
嘘だとわかっているけど、入院してる時はこれが楽しかったなあ。
でも今日は横で沙鬼ちゃんが目を輝かせながら聞いている。
この子はなんでも信じちゃいそうな気がするぞ。
「……というわけで、仙人の元で厳しい修行を積んだ末に飛べるようになったんだ」
「そうなんだ……」
うーん、NASAは嘘だろうけど……仙人の話は本当っぽいかも。
母さんの話で嘘じゃなさそうと思ったのは初かもしれない。
これもファンタジーな異世界に来たからかな。
「わらびもちさんすごいです!」
「あら、ありがとね。ねえねえタカシタカシ、この子は誰だい?」
「沙鬼ちゃんだよ。さっきまで遊んでたんだ」
「あらまあ、こんな可愛い子と友達になっちゃって」
「きゃっ、可愛いだなんてそんな……」
鬼相手だけど、母さんは普通に接しているなあ。
僕は小説を読んで異世界に憧れてたからあっさり受け入れたけど、母さんもこの状況を受け入れているのがすごいかも。
「ねえ沙鬼ちゃん、タカシと何して遊んだの?」
「一緒に鬼火を見に行ったんです。タカシ君すごいですね。鬼火とすぐに友達になったんですよ」
「へえ、そうなんだ。あ、そこに浮いてるのがそうかな? 名前は何にしたの?」
「うめぼしだよ」
「そうかい、またおいしそうな名前だねえ。沙鬼ちゃん、これからもタカシと仲良くしてやってね」
「はい!」
母さんは予想通り沙鬼ちゃんを気に入ったようだ。
やっぱり鬼だからって関係ないんだな。
この後、3人で仲良く話をした。
沙鬼ちゃんは母さんに明日の朝料理を教わる約束をしていた。
そして夜も遅いということで沙鬼ちゃんは部屋へ戻り、僕と母さんも寝室へ案内された。
畳の部屋に布団、見慣れた感じの和風の部屋だった。
布団に入ると、明りの鬼火たちが消えていく。
そして寝る前にわたがしとうめぼしも送還しておこう。
「タカシ、今日はいろいろあったけど疲れてないかい?」
「うん、なんかこの体全然疲れないんだ。異世界ってすごいね。それにいろいろあって楽しかったよ」
「そうかい、よかったよ。タカシがこの世界で楽しんでくれるかが心配だったんだ。もうすぐ母さんいなくなるけど、1人でも大丈夫だよね?」
「え? 最初もそんなこと言って消えたけど、呼んだらすぐに戻ってきたじゃない」
「ふふ、そうだったね」
冗談だよね?
いつかは母さんから自立しないといけないけど、さすがに早すぎる。
母さんの頭上のランプがまた点滅している。
なにか言っておかなきゃいけない気がする。
「母さん、僕を産んでくれてありがとうね」
「うん……生まれてきてくれてありがとう、タカシ」
「こうやって違う世界に転生したわけだし、生まれ変わりとかもきっとあるよね。次生まれる時も母さんの子供がいいな」
「そうしたいな……」
そして母さんは消えていった。
異世界に来て初めての夜……なんだか寂しいな。
でも……明日もきっと楽しくなる予感がしているんだ。
こうして、異世界での最初の日は終わりを告げるのであった。




