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04.がんばれわたがし!

 町では警察的な人達が走り回っていた。

 脱獄した母さんを探しているようだけど、見つかることはないだろう。

 やがて、旅人長屋に手配書らしきものが張られた。

 母さんの似顔絵そっくりだなあ……あれは誰が見てもわかる出来だ。

 でも僕ってこの世界の字が読めないんだよなあ?


「すみません、あれなんて書いてあるんでしょう?」

「おう、脱獄犯を捕まえた者には5餅の報奨金が出るってよ。ただ、妖怪の恐れもあるから慎重にってなってるな」


 母さんが妖怪扱いされてしまったか……。

 早く何とかして誤解を解かないとなあ。

 とりあえず、仕事を探しに受付へ行こう。


「すみません、簡単な仕事を探しているんですけど」

「簡単なのは野草取りですね」

「じゃあそれやっていいですか?」

「はい、こちらに必要なものの絵が書いた紙と地図がありますのでどうぞ。ただ……もう夕刻です。昼間は安全な場所ですが、夜は妖怪が出る恐れがありますよ」

「わかりました……」


 そういえばいつの間にか遅い時間なのか……。

 宿をとろうにもお金ないし、どこかで野宿かな。

 どちらにせよ母さんを呼んで夕飯食べたいし、町から出よう。


 地図によると、入ってきた門から少し戻ることになるようだ。

 しばらく歩くと、あたりがうす暗くなってきて少し怖くなった。

 町が見えなくなったあたりで母さんとわたがしを召喚する。


「タカシー、ハンバーグ焼けたよー」

「もきゅきゅー!」


 いい匂いをする皿を手にもって母さんが現れた。

 のんきだなあ。


「ありがと、おなかすいちゃったよ。でも母さん……あの町で完全なお尋ね者になっちゃったね」

「そうだねえ、いきなりの困難だけど……負けちゃだめだよタカシ」

「いや、僕は別に……。ま、そのうち誤解を解かないとね」

「よろしくね。さあ食べようか」

「うん、いただきます」


 豆腐ハンバーグにはレタスとニンジンが添えられている。

 おいしいなあ……。


「ほらわたがし、ニンジンあるぞ」

「もきゅう! おいしー」


 わたがしと仲良く食事を食べた。

 母さんは、それをにこにこと眺めている。


「母さんは食べないの?」

「あ、実はさっき食べちゃったんだよ。なんだかおなかがすいてねえ……」

「そっか……」


 一緒に食べたかったけど仕方ないか。

 食べ終わると、あたりはすっかり暗くなっていた。


「ごちそうさまでした。母さん、明りになるものある?」

「えっと、懐中電灯でいい?」

「いや……もっとこの世界にあったものがいいなあ」

「じゃあこれ、手持ち灯篭」


 あ、なんか時代劇っぽい。

 中はロウソクがあるのかなと覗くと、電球っぽいのが見えた。

 これは見なかったことにしよう……。


「あ、タカシ。あっちにも明かりが浮いてるよ」

「え? ほんとだ……空中に浮いてる。あれってまさか……ヒトダマ!?」


 その青いヒトダマ? はゆらゆらとこちらに近づいてきた。

 なんとなく……恐ろしい顔が浮かんで見えるような……。

 これが妖怪?


「フヒヒヒヒヒッ!」

「わ、笑った? 母さん、どうしよう……」


 ヒトダマの顔も醜く笑っている。

 妖怪って言うか、お化けって感じですごく怖い。


「もー、うるさいねえ。えいっ!」

「ヒイイイイイッ!」


 ペチンッという音と共に、ヒトダマが吹っ飛んでいった。

 母さんが持っているのは……ハエ叩き?


「母さん、それは何?」

「これは妖怪叩きと言ってね、弱めの妖怪はこれで倒せるんだよ」

「そ、そうなんだ……」

「タカシも使うかい?」

「いや、遠慮しておく」


 今のところ、ファンタジーらしさにかけている存在は母さんだけだ。

 僕は巻き込まれたくない。

 でも、よく考えたら僕って戦うための装備がないよね。


「ねえ母さん、僕に使える武器ってないのかな? その妖怪叩き以外で」

「そうだねえ……あ、すっかり忘れてたよ。タカシ用のがあったんだ。がさごそ……はいこれ」

「これは……杖?」

「うん、召喚士用らしいよ。これ使えば呼んだ子をパワーアップさせて戦わせることができるんだってさ」


 こっちはまともなデザインの木の杖だ。

 先端に魔法陣のような装飾があって、ちょっとかっこいいかも。

 あ、さっきふっ飛ばされたヒトダマがふらふらと動きだしたぞ。


「わたがし、あいつをやっつけることできるかな?」

「もっきゅー!」

「よし、やっちゃえ!」


 ヒトダマに向かって行くわたがしに杖を振ると、わたがしが少し光った。

 そのまま体当たりをしてヒトダマをふっ飛ばすわたがし。


「おお! 本来ヒトダマに触ると熱いはずなのに、タカシの杖から出る魔力でわたがしが火に触っても平気になってるよ」


 なるほど……ってか、母さんが解説係もしてくれるんだ。

 なんだか知ってることと知らないことがちぐはぐだなあ……。


「もきゅもきーっく!」

「すごいよわたがし!」

「わたがしのラビットキックが炸裂だ! さあヒトダマは立ち上がることができるのか?」


 地面でプルプルしているヒトダマ……の横に寝転んで、プロレスのレフェリーのように実況している母さん。

 なんか雰囲気壊してるんだよなあ……。


「母さん、わたがしがよく見えないからちょっと避けてて」

「あ、ごめんね」

「よし、とどめだわたがし!」

「もっきゅー!」

「ぴいいいいいいい!」


 わたがしがなにかの構えを取ると、ヒトダマが見た目の怖さに似合わない可愛い声で鳴いた。

 もう少し見た目も可愛ければ召喚できるようにしたいんだけどなあ。


「おい、こっちから悲鳴が聞こえたぞ」

「よし、急ごう」


 ん? 誰かがこっちへ来るようだ。

 もしかしてヒトダマの妖怪仲間?


「あれ? あんたたちはさっきの……」

「こ、これはわらびもちさん!」


 それはこの世界で最初に出会った鬼たちであった。

 話を聞くとヒトダマは鬼のペットで、正確には鬼火という名前らしい。

 なんかわらび採りしてたら迷子になったとか……。

 わたがしの初戦闘は不戦勝で終わったようだ。


「それにしても偶然ですなあ。わらびもちさんたちはどうしてこちらへ?」

「ちょっと野草取りしてるんだよ。あ、わらび取り手伝うから野草取りも手伝ってよ」

「なるほど、一緒にやれば効率よさそうですね」


 というわけで共同作業となった。

 鬼火があちこち照らしてくれるので明るくていい感じ。

 妖怪の危険も、鬼がたくさんいるから問題ないだろう。


 そしてたくさんのわらびと野草が集まり、夜が更けていく。

 あったトラブルと言えば、母さんが召喚時間切れで消えた時に鬼がお化けー、と悲鳴をあげたことくらいだ。

 妖怪とお化けは別物らしい。

 そしてなんやかんやあって、鬼の里で泊めてもらえることになった。

 なんかの術で隠してあるらしい道を通って向かう。


「ここが鬼の里かい。のどかでいいところだねえ」

「はい。それではさっそく料理を始めます。お部屋に案内いたしますね」

「あ、料理なら私も手伝うよ。タカシはそこらで遊んでおいで」

「え? うん……」

「では娘に案内させましょう」


 遊ぶと言ってもこんな夜なんだけど……。

 鬼の娘ってどんなんだろう?

 待つ間、母さんを召喚し直しておいた。

 また消えてお化け騒ぎになっても困る。


 そして少し待つと……可愛い女の子が現れた。

 他の鬼は赤いのに、ほんのりピンク色の肌だ。

 青い着物を着て、黒い髪のポニーテール。歳は僕と同じくらいかな?


「こんばんは、あっちで遊ぼう!」

「う、うん……。わたがしも行こうね」

「もきゅっ」


 手を引っ張られて……鬼だけど好みの子なのでちょっと照れてしまう。

 頭にちょこんと出ている角もこう見ると可愛い。


「ねえ、あなたお名前は?」

「タカシだよ。このウサギはわたがし。君は?」

「わたしは沙鬼さきって言うんだ。よろしくね、タカシ君とわたがしちゃん」

「うん、よろしくね沙鬼ちゃん」

「もきゅっ」


 沙鬼ちゃんに連れられて広場へやってきた。

 鬼火があちこちに浮いているので、なんだか幻想的だ。

 そして鬼火には赤と青がいるらしい。


「鬼火綺麗だね」

「でしょでしょ。みんなわたしのお友達なんだ。タカシ君にいいものみせてあげるね。みんなー、あれやって」


 沙鬼ちゃんがそう言うと、鬼火達が一か所に集まった。

 そして、夜空に様々な模様を描いていく。

 お花だったり、ウサギだったり……花火みたいだ。

 あ……浴衣を着て花火を見たいと思っていたのが叶ってる?

 しかも可愛い女の子と手をつないで……。

 これも母さんのおかげかな。


「タカシ君、どうかな?」

「うん! すごく綺麗だよ。いいもの見せてくれてありがとうね」

「えへへ、そんな喜んでもらえると嬉しいな」

「ねえ沙鬼ちゃん、僕も鬼火と友達になりたいな。どこかについてきてくれる子っていないのかな?」

「ついてきてって……そのウサギといい、あなたは式神使いなの?」


 式神? そういえば最初鬼にも言われたっけ。

 母さんは召喚士と言ってたけど、同じようなものだろうか。


「たぶんそんなところかな。僕ね、たくさんお友達を増やしたいんだ」

「そっかぁ、使役するんじゃなくて友達になるってなんかいいね。じゃあ野良鬼火のいるところ案内してあげる。いい子がいるかもだよ」

「うん、お願い!」


 沙鬼ちゃんに連れられて、少し森の中へ入ることになった。

 なんだか夏祭りの後、静かになってからデートしているような気分。

 僕はわくわくしながら、ちょっとだけドキドキもしていた。

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