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03.カーチャンの捕物劇

 土饅の町に近づくと、なんとなく時代劇のような街並みだった。

 ここは和風なファンタジー世界なのだろうか?

 さあ、母さんを召喚だ!


 呼びだした母さんは、手にハンバーグではなく薄い本のようなものを持っていた。


「母さん、何持ってるの? ハンバーグは?」

「ハンバーグは食べる直前に焼くから寝かせてあるよ。これはね、土饅の町の地図だよ。さっき買ってきたの。簡単な案内も書いてあるよ」

「そ、そんなのあるんだ……」


 どこで買ったのか聞きたいけど、やめておこう。

 なんだか母さんがいると、異世界って気がしないなあ。

 時代劇を模したテーマパークにでも来た気分だ。

 町の入り口まで行くと、和風な格好の門番が立っていた。


「む? お前たち見ない顔だな。おかしな格好だが異国のものか?」

「まあそんなところかねえ」

「まあいい、通行手形はあるのか?」

「あるよ。はいこれタカシの分ね」

「あ、ありがと……」


 木で作られた、将棋の駒を大きくしたようなものを渡された。

 何が書いてあるかは読めないけど、通行手形と書いてあるのかもしれない。

 母さんってばいったいどこでこんなものを……。


「ふむ、本物のようだな。お前は通っていいぞ」

「どうも……」

「お前の分はと……。む? これは偽物じゃないか。おい、こいつをひっ捕えろ!」

「あーれー……」


 なんかよくわからないけど、母さんが連れて行かれてしまった。

 あれは警察みたいなものなんだろうか?

 うーん……僕は町に入れたけど困ったぞ。


 とりあえず物陰に来てみた。

 もしかしたら召喚したら出てくるかもしれない。


「母さん、召喚……」


 あ、出てきた……。

 便利だけど、これって脱走的なあれ?


「あー、びっくりしたよ」

「なんで母さんだけ連れて行かれたんだろう?」

「うーん、手形買うお金が足りなくてね。タカシのは本物だけど、母さんの分は手作りしてみたんだよ」

「そりゃあ捕まっちゃうよ……」


 母さんってば大胆なことをするなあ。

 というかいつどこで買ったんだ……。


「母さんお尋ね者になっちゃったね……」

「とりあえず変装しようかねえ。こんなこともあろうかと用意しておいたんだよ。ほら、タカシのもあるよ」

「あ、これって浴衣?」

「そうだよ。一緒に花火大会いくために作ったやつ。やっと着てもらえる時が来たねえ」

「うん……嬉しいかも」


 元気になったら花火大会に行きたいって言ってたんだ。

 残念ながら行けなかったけど、これを着れるのは嬉しい。


「はい、できたよ。似合ってるねえ。父さんの若いころにそっくりだよ。初デートは夏祭りでねえ……。母さんが今着てるのはその時のだよ」

「そうなんだ……。母さんも似合ってるよ」

「ふふっ、ありがとね。これで変装はばっちりだね」

「もきゅっ……ぼくめだつかもきゅ」

「あ、わたがしか……」


 たしかにウサギを肩に乗せていたから覚えられているかもしれない。

 悪いけどわたがしは戻しておこう。


「わたがし、また後で遊ぼうね。送還……」

「もきゅっ!」


 さて、町を探索しなくっちゃね。

 母さんの持っている地図を見せてもらおう。


「タカシ、どこ行きたい?」

「うーん、なにかお金を稼げる仕事したいよね。普通はこういう世界に来たら、冒険者ギルドってところで仕事探すんだけど」

「あ、これとかそれっぽくないかい? 旅人長屋だってさ。妖怪退治の猛者来たれ! って書いてあるよ」

「妖怪がいるんだ……」


 最初に出会った鬼も妖怪の類だったのかな?

 この世界は和風なファンタジー世界と確定したようだ。

 というわけで、そこへ向かってみることにした。


「妖怪かあ。妖術とか使うのかな? さっきの鬼も母さんが火をつけた時そんなこと言ってたね」

「そうだねえ、でも何が出てきてもタカシはちゃんと守るからね」

「うん、頼りにしてるよ」

「これでタカシが大活躍して、大金持ちになって有名になるといいなー」


「もしもし、あまり欲を出さない方がいいですよ」


 のんびり会話しながら歩いていると、突然横から声をかけられた。

 見ると、小さめのおっちゃんが話しかけてきたようだ。


「なんだいあんた?」

「ああこれは失礼。楽しそうに会話しているのでつい話しかけてしまいました。妖怪を舐めていると足元をすくわれますのでお気をつけを」

「大丈夫。言われなくてもわかってるよ」

「これは失礼しました。ちょっとした親切心でついいらぬおせっかいをしてしまったようです。このお店……雑貨in土饅どまんを営む私がね」


 その男が立っている後ろはお店のようだ。

 雑貨屋ってことはいろいろ売ってるのかな?


「なんだい、お店の客引きかい?」

「ははっ、これは手厳しい。しかし見ていきませんか? 妖怪退治に役立つ道具も取りそろえておりますよ。私、この店の店主でヨロズと申します」


 じゃあお店の名前も万屋よろずやにしたらいいのになと思った。

 まあ、名前にケチをつけても仕方ない。

 なんにせよお金もないので、ここはスルーだ。


「気が向いたら来てみるよ」

「お待ちしております。そちらのおぼっちゃん……先ほど言われたように大活躍の予感がいたします」

「ほほー、さすが商売人は口がうまいね」

「いえ、これは本心ですよ。それでは……」


 母さんは僕のことを褒められてご機嫌だ。

 僕もなんとなく嬉しい。

 小説の主人公のように大活躍できたらいいな。

 あ、なんか走ってくる足音が聞こえるぞ。


「おい、こっちだ! さっきの偽手形持ちを見つけたぞ。変装してやがる」

「やっと見つかったか! おかしな妖術を使うから気をつけろよ」

「あーれー……」


 唐突に現れた警察……というか岡っ引き? に母さんが連れて行かれてしまった。

 変装したけど、あの特徴的なパーマで目立つんだろうなあ。

 また召喚してもいいんだけど、これを何度も繰り返されるのはちょっと面倒だ。

 きっと大丈夫だろうと信じて、僕一人で旅人長屋へ向かおう。

 あ……でも僕字が読めないんだったな。

 

 とりあえず地図に書いてある文字と同じ看板を発見した。

 きっとここでいいんだろう。

 中へ入ると、割と大きな場所でたくさんの人がいた。

 とりあえず受付的なものはと……。


「すみませーん、初めて来たんですが」

「はい。えっと……見たところまだお若いですよね? 18歳以下は保護者がいないと登録できないんですよ。どうしてもいない場合は、少し難しめの試験を受けていただくことになりますが」

「ちょっと探してきます……」

「あ、連れてこなくてもこちらに署名していただければ大丈夫ですので」

「はい、じゃあもらってきます」


 結局母さんがいないとだめなようだ。

 保護者が登録に必要って、ファンタジーっぽさがまた薄れるなあ。

 さて……召喚ではなく普通に探してみようかな。

 町の門番さんに聞いたところ、裁きを受けるまで牢屋に入れられているとか。

 地図で場所を教えてもらい、そこに向かう。


「出してー、タカシが心配なんだよー」


 あ、わかりやすく声が聞こえてきた。

 見ると、木で作られた格子から母さんが顔をのぞかせている。


「母さん、大丈夫?」

「あ、タカシ。ここから出しておくれよ。呼んでくれたら出られるからさ」

「うーん……それだとまた捕まっちゃうよね。なんとか許してもらえないの?」

「お金を払うか、裁きで許されればいいらしいけどね。今偽物の手形を売りつけられたって主張してるから、それが認められれば出られると思うよ」

「うーん……お金なら僕がなんとかしてみようか。ここにサインしてくれる?」


 母さんに事情を説明して、登録用紙に記入をしてもらった。

 ついでに僕の情報をすべて書いてもらう。

 これで登録できるはずだ。


「じゃあ行ってくるね。お金ってどのくらい必要なの?」

「5餅だったかな? でも結構大金らしいから、ちゃんと説明して出ることにするよ」

「お金の単位って餅なんだ……。まあ旅人長屋に行ってみるよ」

「気をつけるんだよー」


 そして旅人長屋へ戻り、登録を済ませた。

 保護者の署名が本物かどうか、嘘を判別する術があるらしかったけど無事合格できた。

 これで僕も今から冒険者……的な何かだ。

 風来人って呼ぶらしい。

 簡単な仕事はないか聞こうとしたところ、外から騒ぎ声が聞こえてきた。


「脱獄だー! 術を封じる牢屋から女が逃げたぞー」


 あ……そう言えば一定時間がたつと母さんは戻っちゃうんだったか。

 すっかり忘れてたなあ。

 脱獄までしたら完全なお尋ね者だよね。

 この町ではもう母さんを呼びだせないなあと思うのであった。

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