28.カーチャンの真実
僕はどこかの病室にいた。
目の前のベッドには知らないお婆さんが寝ている。
あれ? 鬼と戦っていたはずなのにどうしてこんなところに……。
すると、看護師さんらしき人が部屋に入ってきた。
「タカシ君、ひさしぶりだね」
「え?」
会ったことないはずだけど……声に聞きおぼえがあるような。
どこだっただろう?
「どなたでしたっけ?」
「神様……って言えばわかるかな?」
「あ……あの時の」
異世界に最初に行く前にお話した神様か。
でもなんでまた……。
「思い出したみたいだね」
「はい、でもなんで僕こんなところにいるんですか? まさかまた死んじゃったんじゃ……」
黒鬼に思いっきり殴られたからなあ。
あれは死んでも仕方ない攻撃だった。
「大丈夫、あなたは生きているわ。ここに来てもらったのは重要なことをしてもらうため。お母さんに最後の挨拶をしてもらうためだよ」
「お母さん?」
「あなたの目の前にいるでしょう?」
「え……」
目の前いにいるお婆さん。
たしかにそう言われると似ているけど……僕の母さんはもっと若かったはずだ。
「今から説明するから、落ち着いて聞いてね」
「はい……」
「タカシ君が死んだ後……お母さんはタカシ君が違う世界で幸せになることを願ったの。わたしはそれを叶えてあげることにした。それで……」
話をまとめるとこうだった。
母さんは僕が行く異世界でちゃんと幸せになれるか確かめるために、意識を異世界に飛ばす能力をもらったらしい。
そして……母さんの人生30年をかけてその世界を平和にしたらしい。
現実と異世界では時の流れが違うようで、100年前に悪い大妖怪を母さんが倒したという話は冗談でなく本当だったようだ。
僕の前に現われる時は見た目を若くしていたとか。
「そして平和が確認された世界にあなたを送り込んだのよ」
「その間……母さんはずっとこうやって寝ていたの?」
「ずっとじゃないわ。ちゃんと普段の生活もして、あいた時間で戦っていたの。とても充実した顔で生活を送っていたわ。そこは安心して」
「そうですか……」
母さんは僕を幸せにするために、残りの人生を費やしてくれたみたいだ。
申し訳ないけど……嬉しいかな。
「その後はタカシ君も知っているとおりよ。異世界に行ったばかりのタカシ君を心配して、お母さんは様子を見に行った」
「それはわかったんですが……母さんにお別れって言うのは……」
「あなたが異世界に行った時点でね、お母さんの命は尽きる直前だったの。だからお母さんは必死にあなたが平和に過ごせる場所を探したはずよ。そのために無理をしてちょっとだけ時期が早まったみたいだけどね。
最後に青鬼全員を助けるための術を使ったことか……。
あれはすべて……僕が平和に暮らせる場所を守るためだったんだ。
僕は改めてベッドで寝ている母さんを見る。
「母さん……ありがとうね」
「……タカシ……幸せにね……」
「母さん、僕の声が聞こえてるの?」
「お母さんはずっと前から……この現実では意識不明なの。でも……きっと聞こえて、無意識に返事をしたんでしょうね」
母さん……意識不明になった状態でも僕を助けてくれてたんだ。
でも、このままお別れなんて嫌だよ。
「神様、現実で母さんが死んだら……もうあの異世界にも来れないの?」
「そうなるわね。そしてあの世界にいるお母さんの力は……タカシ君への最後の贈り物。あなたはその力をもらって、あの世界で最強の存在になれるの。ずっと平和に暮らして……幸せになれるための力だよ」
「僕そんなのいらない……。いらないから母さんともっと過ごせる時間が欲しいよ」
「タカシ君……」
まだ親孝行してないんだ……。
沙鬼ちゃんと一緒にするつもりだったプレゼントもまだ用意できてないんだ。
「神様、なにか方法はないの? 母さんが僕のためにしてくれたように……僕も何かしたい」
「そうだね……タカシ君の召喚士としての力を使えば何とかなるかも」
「どうすればいいの?」
「あなたの魔力を全部使ってね……お母さんを召喚したままにしておくの。あなたはそれ以外に召喚や魔法を使うことはできなくなるけどね。そしてお母さんも普通の人間並みの力しか出せなくなるの」
それなら問題ない。
あ、でも……。
「えっと……わたがしやうめぼしも?」
「うん、召喚はできなくなるね。でも解放してあげればいいんだよ。今より弱くなるけど……きっとあの子たちはあなたのお友達でいてくれる」
「じゃあそれで……お願いします!」
「わかった……じゃあやり方を説明するね」
神様からの説明をしっかりと覚えておく。
少しでも間違えれば、母さんとは2度と会えなくなるんだ。
「じゃあまたあの世界に送るね。しっかり幸せになるんだよ」
「はい、おねがいします」
目を閉じると……意識がどこかへ落ちていく。
さあ……母さんを助けるんだ。
目を開けると……僕の顔を覗き込む沙鬼ちゃんの姿が見えた。
あれ? でもなにか違和感がある。
「タカシ君! 目覚めたんだね。良かったよー」
「あの致命傷を治すとはすごいものよのう」
「もっきゅー!」
僕の怪我を治してくれた?
わたがしは致命傷を治すことはできないはず……。
僕は沙鬼ちゃんの顔をじっと見つめて気づいた。
角が……ない?
「沙鬼ちゃんもしかして僕のために?」
「うん、わたがしに使ってもらって怪我を治したよ」
「そんな……角は鬼にとって大切なものなのに……」
「わたしね、角よりタカシ君の方が大切だよ」
「沙鬼ちゃん……」
沙鬼ちゃんの笑顔は、本気でそう思っている顔だ。
たしかに逆の立場なら僕もそうするかもしれない。
だからこそ……すごく嬉しい。
「ありがとうね……沙鬼ちゃん」
「うん、それよりお母様が倒れたままなの……」
「そうだ! お母さんを助けないと」
なんとか立ち上がって見ると、母さんと青鬼が倒れていた。
「ねえ、僕がやられた後どうなったの?」
「タカシ君を殴った後倒れちゃったみたい。体が青く戻ったから、時間差で瘴気が抜けたのかもね」
「そっか……それよりまず母さんだ」
「もきゅう……ぼくの魔法じゃ全然効かないの……」
母さんを治せるのは僕だけだ。
そのための準備をしないと……。
「ねえ……わたがし、うめぼし、さくら。母さんを助けるためにはね……。3人との契約を解除しないといけないんだ。もう僕の魔力をあげられないけど……いいかな?」
「もきゅっ……? それでお母さんが助かるならがまんするもきゅっ」
「僕もだぴー」
「儂も問題はない。猫塚の結界強化という目的は果たしたしの」
「みんなありがとう……」
嬉しいな……召喚できなくなるのは悲しいけど、お別れじゃない。
よし、急いでやってしまおう。
「わたがし……うめぼし……さくら……契約解除!」
僕の腕にある『兎』『火』『猫』の文字が消えていき、そこから飛び出した光がそれぞれの元へと戻った。
あと残ったのは『母』の文字だけだ。
最後にこれを唱えれば母さんは起きるはず……。
「母さん……永久召喚!」
母さんの体が光り輝き、顔に生気が戻ってきた。成功したかな?
やがて動きだし……僕の方を見た。
「あれ? 私死んだはずじゃ……。ここは天国? だとしたらタカシがいちゃいけないよ。母さん失敗したのかな?」
母さんは困ったような泣きそうな顔になっている。
「違うよ母さん。ほら見て、母さんのおかげでこの里は無事だったよ」
「あ、ほんとだ……。でもおかしいねえ」
「何もおかしくないよ。ほら、布団で休ませてもらおうよ。ほら、おんぶするからさ」
「じゃあお願いしようかねえ。……なんかタカシ……また大きくなった?」
「まだまだ成長してるからね」
逆に母さんは小さくなった気がする。そして思ったより軽い……。
沙鬼ちゃんの家へ連れて行き、布団に横たえるとすぐに眠ったようだ。
「お母様無事でよかった」
「ありがとね。沙鬼ちゃんが僕を助けてくれたおかげだよ。その角を使ってくれなかったら母さんも助けられなかった」
「そっか……じゃあ使って正解だったね」
角をなくした責任……僕に取れるだろうか。取っていいんだろうか?
いや……責任を取るなんて考え自体が失礼かもしれない。
それとは関係無しに言おう。
「沙鬼ちゃん、こんな時に言うのもなんだけど……聞いてくれる?」
「うん、なにかな?」
「僕……沙鬼ちゃんの事が好きなんだ! 結婚を前提におつきあいしてください!」
「えええ!? け、結婚っていきなりだね……」
「嫌……かな?」
沙鬼ちゃんは顔を真っ赤にして大慌てだ。
いい返事をもらえると思っているけど……僕の思い上がりじゃないといいな。
やがて沙鬼ちゃんはこう言ってくれた。
「ふつつかものですが……よろしくお願いします」
人生初のプロポーズは成功のようだ。
母さんへのプレゼントは予定を変えて……孫の顔を見せてあげるんだ。




