27.絶対カーチャン防衛ライン
青鬼の襲撃まで間もなくだ……。
戦える鬼たちは里の中で待ち構えている。
子供や戦えない女性は長の屋敷の安全な場所に隠れているらしい。
僕と沙鬼ちゃんも子供ではあるけど、戦いに参加させてもらうことにした。
この戦いを終わらせる条件はひとつ。
里の中心で術の準備をする母さんを守ることだ。
その母さんは座禅を組んだ状態で空高くに浮かんでいる。
目を閉じて集中しているのだろうか。
周りには百を超えるの鬼火が浮かんでいる。
戦える赤鬼は約80人。
さくらの占いによるとやってくる青鬼は150人。
個々の戦力も青鬼の方が上らしいので、このままでは負けてしまうだろう。
それをひっくりかえすのに重要なのが、さくらの使う幻視の術だ。
赤鬼がたくさんいるように幻覚を見せるらしい。
あとは僕と沙鬼ちゃんとわたがし……小規模だけど、少しは役に立つだろう。
無理はせず後方でサポートに徹しろと言われている。
というわけで予想される襲撃地点から離れた場所にいる。
なお、隠れ里を覆っている結界に弱い箇所を作ってあるらしい。
瘴気に犯された鬼は思考が単純化しているので間違いなく引っ掛かると予想されている。
「くるぞ!」
さくらがそう言った次の瞬間。遥か前方で大きな音がした。
青鬼たちが結界を破って侵入してきたのだろう。
さくらの幻視の術は罠という形で地面にかけてあり、青鬼たちは見えないなにかと戦い始めているようだ。
そこに赤鬼たちが不意打ちをかけていく。
殴ることで幻覚は切れるらしいので、確実に倒せる相手から攻撃を仕掛ける必要があるそうだ。
「たかしくん、ぼくもいってくるもきゅっ!」
「よし、任せたよ。今回は角を折らないようにしてあげてね」
「もきゅっ」
「しっかりね、わたがし」
わたがしを僕の杖に乗せて魔力を込める。
そして魔力のゴムをひくようにわたがしを引っ張る。
わたがしカタパルト……これをはるか上空に向ける。
「じゃあわたがし、行って来い!」
「もっきゅー!」
僕が手を離すと、わたがしは遥か上空へ飛んでいく。
そして上空から、全力で青鬼にキックをするはずだ。
高速で最前線に降っていくわたがしが見える。
うまくやってくれるといいけど……。
――タカシ君、成功したっきゅ。もどして――
「よし、わたがし召喚!」
目の前に魔法陣が現れ、わたがしが顔を出す。
こうやって不意打ちしていけば少しずつでも敵の戦力を削げるはずだ。
「わたがし、様子はどうだった?」
「なんかね、幻覚にかかってた鬼たちが少ない見たいで苦戦してたっきゅ。青鬼が味方を遠慮なく殴ってるのも見えたっきゅ」
「ふむ、幻覚とすぐに気付いた切れ者がおるようじゃな。儂も前線に行ってくる。タカシよ、飛ばしておくれ」
「わかった、気をつけてね」
「うむ」
先ほどのわたがしと同じ要領でさくらを前線に飛ばす。
さくらは任せて大丈夫だろう。
わたがしを発射して前線の手伝いをしているとしよう。
――たかしくん、うめぼしだぴー。右の方が押されてて、怪我人も出てるみたいなの――
あ、うめぼし。偵察してくれてるんだね。
じゃあ向かってみるよ。
「沙鬼ちゃん、こっちに来て。危ないみたいなんだ」
「わかった」
こっちの方向でいいのかな?
ねえうめぼし、母さんの様子はどう?
――準備にはまだ時間かかりそうなの。待ち時間は少し偵察できそうだっぴ。方向はそっちでいいよー――
まだ戦いが始まってそんなたってない。
もっともっと時間を稼がなきゃならないようだ。
やがて怪我をして下がっている赤鬼が見えてきた。
さらには近くで戦闘中の赤鬼と青鬼も……。
まずは怪我人の手当てが先だ。
「わたがし、怪我がひどそうだから僕の魔力を使って回復して」
「わかったもきゅっ。魔力ちゃーじー!」
わたがしを杖に乗せて怪我人のそばに近寄る。
魔力を多めに使って治ってもらうのがいいだろう。
「もきゅもっきゅあー!」
「おお……怪我が治っていくぞ」
「ありがたい……これで戦えそうだ」
よし、治ったようだ。
近くで戦っていた青鬼は、沙鬼ちゃんが水鉄砲の術で邪魔をしている。
怪我人が治った今、ここはもう大丈夫だろう。
うめぼし、次行った方がいい場所はあるかな?
――えっとね……ぴぴぃっ! なんか強そうな黒い鬼がいるの。あ、さくらさんが向かって行ったよ――
黒い鬼って……まるで凶悪になった黒い鬼火のようだな。
他の青鬼より瘴気にひどく犯されているんだろうか?
さくら、大丈夫かな?
――このように強き鬼がいたとはな……。足止めだけで精いっぱいじゃ。幻視の術をかける余裕もない。全体的に不利になるやもしれぬ。タカシよ、こちらへ妖力を渡しに来てくれぬか――
わかった! すぐ行くよ。
「沙鬼ちゃん、さくらが大変そうなんだ。そっちへ行くね」
「さくらちゃんが? 急いで行こう」
「わたがしは移動しながら僕の回復をお願い」
「わかったのー。もきゅもまじっきゅあー!」
うめぼしに誘導され、さくらのいる場所にたどり着いた。
たしかに黒い鬼がいる……。
そして他の鬼より遥かに大きく……怖い。
「すばしっこいやつよ……しかしその妖力。相手に不足なし」
「この戦闘狂どもが……。儂はお前なんぞと戦いとうないわ」
さくらは余裕そうに攻撃をかわしているが、僕には必死な感じが伝わってくる。
よし……離れた場所からさくらに魔力を渡そう。
杖をさくらに向けて念じて……。
「む? 妖力が増しただと。面白い……戦いとはこうでなくてはな」
黒鬼は嬉しそうだ……そんなにも戦いが好きなんだろうか。
さくらは大丈夫なんだろうか?
――これでしばらくはもちそうじゃ。こやつは儂に任せて他の鬼を補助せよ。幻視の術にかかった鬼はもう少ないはずじゃ――
わかったよ、しっかりね。
よし、わたがしに攻撃に参加してもらおう。
沙鬼ちゃんは、倒れている青鬼に眠りの術をかけて回っているようだ。
全体的にはどうなってるんだろう? わかるかなうめぼし。
――なんとなくだけど……たぶん優勢だぴー。なんかね、聞いてたより青鬼の数が少ない気がするっぴ――
そうなんだ、なら安心だね。
でも青鬼が不意打ちのために外にいるなんてことは……。
不安だから見に行ってみるべきか。
ここはわたがしに偵察を頼もう。
「沙鬼ちゃん、僕気になることがあるから少し下がるね」
「うん、わたしはここでみんなのサポートしてるね」
「うん、気をつけて」
少し安全なところまで下がってと。
「わたがし、里の外に青鬼がいないか偵察してきてくれるかな?」
「わかったもきゅ。とばしてー」
わたがしを杖で里の外まで投げ飛ばす。
さて……どうなっているのかな。
少し待つとわたがしから連絡が来た。
――もきゅっ! 涯炎さんたちが青鬼の一部を気絶させてるもきゅっ。涯炎さん強いもきゅー――
そうか……涯炎さんたちも手伝ってくれてるんだ。
じゃあ、母さんの術が届く範囲にその倒した鬼を連れて来てもらわないと。
わたがし、涯炎さんに倒れた鬼を中に連れてきてって頼んでおいて。
――まかせるもきゅー――
よし、これでいい。
無事伝言を終えたわたがしを召喚し直し、沙鬼ちゃんのいたあたりへ戻る。
倒れている青鬼の数は増えているようで、うめぼしの言うとおり優勢なのかもしれない。
あとは母さんの準備とさくらの戦っている黒鬼か。
僕は僕のできること……みんなの回復とサポートで走り回ろう。
それからしばらくたち、ついに母さんの準備ができたようだ。
最後の仕上げで、僕の魔力を全部母さんにあげにいくとしよう。
「母さん、この里は守られるよね?」
「もちろんだよ。タカシが平和に暮らせる場所をちゃんと守るからね。さあ、最後の仕上げだよ」
「うん、母さんと協力して術使うの初めてだね。いくよ! 限界突破!」
もともと空中で光っていた母さんの光がさらに増す。
「タカシの成長がよくわかるよ。タカシ元気でね……さようなら……」
「え?」
今何かおかしなことを言った気がする。
え? ちょっと待ってよ……。
「いくよ! 母慈愛浄化!」
母さんから出た光が周りの鬼火たちにはいっていく。
そして鬼火たちが倒れている青鬼や、戦っている青鬼に向かって飛び込んでいく。
これでみんな正気に戻るんだろうか。
――タカシ……終わったと思うて油断した……。黒鬼がそちらへ向かう。気をつけよ――
さくら? 大丈夫なの?
まずは黒鬼を何とかしないと……。
「タカシ君、お母様が!」
「え?」
母さんを見ると、いつの間にか地面で倒れている。
力を使いすぎたんだろうか?
そこに黒鬼がやってきてしまった。
「小賢しき術を使いおって……。これで計画は駄目になった。我ももう死ぬだろうが……その女だけは許せぬ。死ねええええいっ!」
「母さん!」
黒鬼は母さんめがけて走って行く。
僕が母さんを助けなきゃ……。
魔力はさっき使いきったけど……なんとか体が動いて走ることができた。
そして……間一髪のところで黒鬼と母さんの間に立ちふさがり……。
僕は黒鬼の攻撃をまともに受け……意識が飛んだ。




