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26.ネズミカーチャン

 夜も更けたころ、とある豪華なお屋敷の主が顔を真っ青にして悩んでいた。


「なぜあの化け猫は逃げることができたのだ……。下手をしたら恨んで殺しに来るやもしれぬ。さらには赤鬼襲撃の失敗で青鬼たちにも顔向けができん」


 この男こそ、青鬼に手を貸して赤鬼の里を襲撃させた元凶である。見返りとして猫叉を自由に操れるようにしてもらい、多くの財宝も受け取っていた。


「こうなれば逃亡しかない。金さえあればどうとでもなる。用心棒を雇い、明日の朝一番で遠くへ逃げよう」


 男は屋敷の隠し扉を抜け、財産の隠し場所へと赴いた。そこには、これまで悪どいことで稼いだ大量の金がある……はずだった。


「な、なんだこの大量のお餅は……。わしの金はどこへ……」


 金や金銀財宝に溢れていたはずのその部屋は……見渡す限りの白いお餅で埋まっていた。男は大慌てでお餅を漁るが、金は一切見当たらなかった。


「まさか使用人の誰かが……。いや、この部屋は特殊な術がかかっていて入れるはずが……」


 男が呆然と立ち尽くしていると、外から悲鳴が聞こえてきた。


「火事だー! 逃げろー!」


 その悲鳴はかなり前から聞こえていたのだが、金探しに夢中だった男はまったく気づいていなかった。男が部屋の外を見ると、火の手がすでに回ってきており、逃げ場はもうないように見えた。


「むうう……。もしやあの化け猫の仕返しか? しかしこの部屋にいれば安全なはずだ……。妖怪どもに特殊な結界を張ってもらったから燃えぬはず。さらにこの着物にも熱を遮断する効果があるはず。周りが燃え尽きるまで耐え抜こう」


 男の言った通り、隠し部屋の周りで火は止まっていた。しかし……部屋の全方位から迫りくる火はどんどん勢いを増していく。さらに部屋の温度が増していくが、特殊な着物を着た男はそれに気づかない。


「む? なにか狭くなっているような……。こ、これは! お餅が膨らんでおる。このままではお餅に押しつぶされる!」


 火の熱により、大量に置いてあったお餅がどんどん膨らんでいき……男は餅に包まれてしまった。着物のおかげで火傷はしないものの……どんどん息苦しくなっていく。


「い、いくら悪どいことをして生きてきたとはいえ……こんな死に方は嫌じゃー!」


 男の悲鳴はお餅の中へ吸い込まれていくのだった……。



 数時間後……屋敷はすべて燃え尽きた。

 不思議なことに燃えたのはその屋敷だけ……周りに火の手が回ることは一切なかった。

 逃げることができた使用人たちは、主の死体を探そうと燃え尽きたがれきを漁っていた。

 そして……異様に巨大なお餅を発見するのだった。

 外側からは結界に守られていた隠し部屋だが、膨らんだ餅により内側からは破壊されて崩れ落ちていた。


「こ、この巨大な餅のようなものはいったい……」

「う、動いてないか?」

「まさかこの中におられるのでは? おい、みんなで食べながら餅をどけよう」


 食べる必要などなく、ちぎって捨てればいいのだが……なぜかおいしそうなそのお餅の魅力に皆は勝てなかった。

 やがて……餅の中から屋敷の主が息絶え絶えで助けられるのであった。


 かなりの大火事であったが、死者は0という奇跡的な状態であった。

 屋敷も財産も全て失った主と使用人たちは、しばらくの間そこにあるお餅を食べることで何とか生き延びることができたという。


 それから数日後……悪から金を奪って貧乏人に配る義賊、怪盗ネズミカーチャンという人物が現れることになる。

 でもそれはまた……別のお話。



   ***



「というわけなんだよ。悪って言うのは滅びるもんなんだねえ」

「命で償わせるつもりじゃったが、あまりにも愉快な光景だったので許してやることにしたわ」

「そっか、母さんもさくらもお疲れ様」

「妖術の使い手がそろうとすごいことができるんですね」


 さくらをたすけた次の日の朝、僕と沙鬼ちゃんは母さんの話を聞いていた。

 相変わらずおかしな話だけど、今日は楽しく聞くことができた。

 いくら悪人とはいえ、人を殺すのはきっとよくないんだ。

 母さんのおかげでさくらがそういったことをしないでくれたことに感謝。

 でもひとつ気になることは聞いておこう……。


「でも母さん、怪盗ネズミカーチャンって言ってたけど……数日後にまた行くの?」

「いや、もう分身に任せてあるから自動で現れるよ。例え今日私が死んだって問題ないさ」

「そっか……。でも母さんが死ぬなんて怖いこと言わないでよ」

「ああ、ごめんね……」


 よし、さくらの件はこれで無事解決だ。

 この里を青鬼が襲撃してくる件について考えよう。


「じゃあこの里を守ることについて話し合いたいんだ。母さんもさくらも協力してくれる?」

「もちろんだよ。沙鬼ちゃんも守らないといけないし」

「お母様……」

「儂も構わぬぞ。タカシにも沙鬼にも世話になった。恩は返さねばな」

「2人ともありがとう」


 後は具体的な作戦だけど……正直って僕には何も思いつかない。


「でもどうしたらいいんだろう? 母さんいい手はある?」

「母さんに任せとき。すごい術があるからね。それを使って青鬼全員を正気に戻すよ」

「そんなことできるんだ。それ使えばすぐに終わる?」

「いいや、術を使うのにかなりの時間がかかるんだ。その間はみんなに凌いでもらわないといけないよ。しかも青鬼を殺さないように時間を稼ぐんだ。当然赤鬼だって殺されないようにしなくちゃ」

「なるほど……」


 そう簡単には解決しないようだ。

 でも……時間さえ稼げば何とかなるんだったら希望はありそう。


「じゃあ僕と沙鬼ちゃんで一緒に行動しようか。みんなの怪我を治したりしよう」

「うん、わたしは弱った青鬼を眠らせたりするね」

「わたがしもがんばるもきゅっ」

「うめぼしもっ!」

「あ、うめぼしはこっちの術を手伝っておくれ。全鬼火に手伝ってもらう予定なんだ」

「わかったぴー」


 鬼火を使って青鬼を正気に戻すみたいだ。

 僕とうめぼしがやったようなことを母さんが一気にやるのかな?

 あとはさくらか……実力がわからないから任せた方がいいのかな。


「さくらは何をしてもらおうか?」

「儂は幻視の術が得意じゃ。時間稼ぎにはうってつけなので任せてもらおう」

「すごいんだね。じゃあお任せするよ」

「うむ、見ておけ」


 よし、さすが長生きしている猫叉のさくらだ。

 これで僕たちにできることは全部かな?


「あとは青鬼がいつ襲撃してくるかだよね。占いでわからないのかな?」

「儂に任せておけ。これまで儂の占いは正解率9割ほどだったが……昨日タカシの母より教わった占いで確実に当てることができる」

「そっか……じゃあやってみてくれる」

「うむ……」


 母さんに教わった占いってやっぱりあれなのかな?

 さくらはどこからともなくちっこいフライパンとうずら卵を取りだした。


「出でよ火球」


 さくらが術を使うと、空中に火の玉が現れた。

 そこにフライパンを当てて熱する、後ろ足だけで立つさくら。

 なんかかっこいい……そしてすっごく可愛い。


「さくらちゃん可愛い……後ろから抱っこいしていい?」

「占いが終わるまで待っておれ」

「うん……」


 猫好き沙鬼ちゃんもさくらの可愛さに釘付けだ。

 料理する猫なんてまず見れないぞ。

 さくらは熱くなったフライパンに卵を割って落とす。

 ジュージューという音と共に、香ばしい香りが部屋に立ち込める。


「むむ!? これは……」

「わかったの?」

「青鬼たちの襲撃は……今夜のようじゃ」

「そ、そんな急に?」


 涯炎さんは止めることができなかったようだ。

 急いで準備を整えないと……。


「タカシ、母さんは長のところで話をしてくるよ」

「うん、よろしくね」

「儂も行こう。あの長が子供のころに遊んだ覚えがあるからのう」

「じゃあさくらもよろしく」


 こんな急だとは……心の準備が追いつかないかも。

 僕ですらこうなんだから沙鬼ちゃんはもっと不安だろう。


「沙鬼ちゃん、僕が絶対に君と里を守るよ」

「うん……ありがとねタカシ君」

「とりあえず準備はしたし……母さんを待とうか」

「あ、そうだ。お母様は鬼火たちに手伝ってもらうって言ってたよね。里の外にいる鬼火にも協力をお願いしに行こう」

「あ、そうだね」


 まだできることはあるようだ。

 鬼火が増えれば母さんの負担も小さくなるかもしれない。

 僕と沙鬼ちゃんは里の外の鬼火の森へと赴くのであった。

 青鬼の襲撃予定は刻一刻と迫っていた……。

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