22.鬼の角
次の休憩場所へも、問題なく到着した。
少し休んで、これから猫塚へ向かう。
ここからは危険がありそうなので慎重にだ。
「タカシ、母さんは消えてるね」
「え? うん……」
「そいっ!」
母さんが消えた……。
これもなにかの術かな。
「お母様はいろんな術を使いこなせるんですね。わたしもその術練習してるんですがなかなか……」
「コツがあるんだよ。今度教えてあげるね」
「ぜひお願いします」
声は聞こえるけど……そこに人がいるようには全く思えない。
きっとすごい術なんだろう。
僕と沙鬼ちゃんもそれが使えれば、簡単に猫塚に行けたのになあ。
「じゃあ母さんはいないものと思ってね。がんばるんだよ」
「うん、がんばるよ」
「はい、お母様」
というわけで、今からは沙鬼ちゃんと2人で冒険だ……ということにしておこう。
目立たないように早駆けの術は使わない方がいいかなと思ったが、早駆けの術をかけた状態で歩くという手段もあるらしい。
付近に警戒しながら歩いて行く。
「ねえうめぼし、空から偵察してもらえるかな? でももし危険だったらすぐ降りてきてね」
「わかったぴー。実はうめぼしね、透明になれるんだよ」
「そうなんだ、すごいんだね」
「いってくるぴー」
うめぼしが上に登りながらすーっと消えていった。
なんだかお化けっぽいなあ。
「そうだったよ。鬼火ってね、昼間は消えてるでしょ。だからあの術を普通に使えるんだよ」
「なるほど、得意な術なんだね」
うめぼしが強くなって、昼間も活動できるようになったおかげで大活躍だ。
念話もできるはずだし、これで安全に行けそうだ。
でも油断はせず……慎重に行こう。
――たかしくん、向こうの方に青い鬼さんがいるの。でもなにか変だぴー――
少し進むとうめぼしから連絡が来た。
どんな風に変なのかな?
――なんかね、2人の青鬼さんが角のない青鬼さんをいじめてるように見えるの――
角のない青鬼?
もしかして一昨日僕らを襲った青鬼だろうか。
沙鬼ちゃんにも説明しつつ、うめぼしに誘導してもらって近づいてみる。
岩陰から様子を伺うと……。
「おい角なし、何度も言わせるな。早く角を折ったやつを倒しに行け」
「1人で行って勝てるわけもないだろう。それに怖いんだ……」
「ふん、角を折られて腑抜けたか。そんな奴は死んだほうがマシだ。人間に殺されに行くか、今ここで我らに殺されるか……好きな方を選べ」
なんだかかわいそうな状態となっている。
鬼が角を折られるのはかなり屈辱的なことなんだろう。
「あの青鬼はやっぱりわたし達を襲った鬼だね」
「みたいだね。ねえ、折れた角って元に戻せないの?」
「凄腕の治療術師さんならできるかもしれないけど……鬼にはいないかなあ」
「そっか……」
母さんならできるだろうか?
なんとなく……ごはん粒でくっつけそうな気がする。
それはちょっとかわいそうかな。
「なんだかかわいそうだから助けようか。角の折れた鬼は弱気になってそうだからお話できるかも」
「そうだね。じゃあまたわたがしがある程度弱らせてくれたら、わたしが眠らせるよ」
「もっきゅー。今日はさきちゃんが捕まってないから余裕っきゅ」
「でも2匹いるからね。うめぼしにもなんとかできないか聞いてみる」
うめぼし、青鬼の片方を倒せるかな?
――うーんとね、僕が鬼たちの気をひくから、わたがし先輩に両方倒してもらうのがいいと思うっぴ――
なるほど。
じゃあ合図したら頼むよ。
「わたがし、うめぼしが気をそらせてくれるから一気に倒しちゃって」
「わかったもきゅー」
「じゃあ僕の杖に乗って、魔力をあげるよ」
「みなぎるもきゅー!」
わたがしに魔力をチャージしつつ……。
うめぼし、準備できたからお願い。
――了解だぴー! 火の粉の術ー!――
すると空中から赤いなにかが出現して降ってきた。
透明なうめぼしはあの位置にいるみたいだ。
その火の粉は青鬼たちに降り注ぎ……。
「あちちちち! な、なんだこれは?」
「人間どもの襲撃か? くうっ……上か!」
「この程度の火など……水膜の術で……」
角のない鬼も巻き込まれて熱がってるけど、まあ仕方ないか。
青鬼たちが上を向いている今がチャンスだ。
わたがしへの魔力チャージもきっと十分だろう。
「たかしくん、ぼくの体を後ろに引っ張ってみてほしいもきゅっ」
「ん? こうかな……」
わたがしの体を引っ張ろうとすると、やけに力が必要だ。
杖から出る魔力がわたがしを引き戻そうとしているみたい。
例えるなら……ゴムがついたわたがしを引っ張ってる感じ?
「たかしくん、はなしてー」
「よし、いくよ!」
「わたがしカタパルトー!」
わたがしが勢いよく吹っ飛んでいった。
僕も戦闘に参加した気分でちょっと嬉しい。
「ぐおおおおっ!?」
「わたがし三角跳びー!」
「ぬおおおおっ!」
「勝利だもきゅっ!」
なんかあっさり勝利したようで、青鬼2人は倒れた。
気絶しちゃったようで、沙鬼ちゃんが眠らせるまでもなかったようだ。
後に残るのは、角の折れた青鬼のみ。
話しかけてみよう。
「あの……こんにちは」
「む? 人間……式神使いか。仲間を倒したのは貴様らか? というか……一昨日我の角を折った小僧ではないか」
「ちょっとお話をしたくて……いいですか?」
「ふむ? かまわんぞ……」
一昨日はあんなにも乱暴だったのにおとなしい。
角を折られて弱気になっているんだろうか?
「まずその……角を折ってしまってすみません」
「なぜ謝る? 我はお前たちに害をなそうとした。それを打ち倒すのは当然のことだろう」
「まあそうですけど……。それを他の鬼たちに責められていたので……」
「角は鬼の誇りだからな。だが……感謝している。折られた角より瘴気が逃げ……我は正気を取り戻せた」
「そうなんですか……」
沙鬼ちゃんに教わった、妖怪を狂わせる例の瘴気か。
青鬼の本来の性格は落ち着いているんだな。
「それより女子供がここで何をしている。ここは我らの隠れ里近く。お前たちはそれなりに強いようだが、それも不意打ちあってのこと。下手をすれば殺されるぞ」
「あの……このあたりにある猫塚ってところに用があるんです」
「猫塚だと? 最近監視を命じられたあの場所か。何の用か知らぬがやめておけ」
夢で見たように、青鬼が周りにいるのは間違いないようだ。
それでも行かなきゃいけないけど、この青鬼の言うことももっともだ。
今のところ少ない敵に不意打ちしかしてないもんなあ。
この鬼さん協力してくれないものか。
僕が言葉に詰まっていると、沙鬼ちゃんが青鬼さんに話しかけた。
「あの……他の鬼たちも角を折れば正気に返るのではないですか?」
「そうかもしれぬが……鬼の誇りを折るなどできぬ。お前たち人間……おや? お前は上手く化けているが鬼だな」
「あ、はい……。やはり鬼同士ではばれてしまうのですね」
「ならばわかるだろう。角を失った鬼がいかに虐げられるか」
「はい……」
角ってすごく大事なんだなあ……。
なんだか申し訳ない気分。
「同胞たちを正気には戻したいが、角を折る以外の方法を探す。そして小僧、角を折られたことは恨んではいない。そんな顔をするな」
「あ、はい……」
「我はこうして正気に返れたので感謝している。だが、他のものはどう思うかわからぬのでな……うかつなことはできぬ」
「そうですか……」
角を折る以外で正気に返すか。
うめぼし、ちょっと降りてきて鬼火みたいに瘴気に返せるかやってみて。
――わかったぴー、周りも安全が確認できたからおりるっぴ――
あ、見張っててくれたんだ。
ありがとうね。
そしてうめぼしが降りてきて姿を現す。
「これは鬼火か……。昼間も活動できるとはな。そのウサギといい、なかなかの使い手のようだ」
「瘴気にやられた鬼火を戻したことがあるんです。だからそこで寝ている鬼もできるかも」
「ふむ……試してみてくれ」
「ぴぴーっ!」
うめぼしは倒れている青鬼の角にまとわりついた。
うまくいけばいいんだけど……。
「ぴぃ……。鬼火より瘴気がだいぶ多いの。戻せるけど……たかしくんの妖力のほとんど使うと思うっぴ……」
「そっか……それをするとまた動けなくなっちゃうね」
「妖力があればいいのか?」
「あ、はい……」
「ならばこれを使え……煎じて飲めば妖力がたちどころに回復する」
青鬼さんが差し出してきたのは……こないだわたがしが折った角だった。
すごくいい薬になるとは聞いたけど……。
「でもこれ大事なものなんじゃ……」
「構わぬ。この2人は我の大切な友人。正気に戻せるならば……角などいらぬ。さて、申し訳ないが遠くへ離れて安全な場所で行なおう」
「えと……」
「案ずるな。猫塚より離れることとなるが、この2人が正気に返れば我らが協力しよう」
その提案はありがたい。
青鬼さん3人が協力してくれれば結構簡単かも。
「それならぜひお願いします」
「うむ。ではこいつらは我が担いで行く。早駆けの術!」
青鬼さんは大きな他の鬼たちを軽々と担いで走りだす。
僕と沙鬼ちゃんも慌てて術を使ってついて行く。
青鬼さんは後ろを振り向き、いかつい顔で微笑んできた。
「小僧、名を聞かせてくれ」
「あ、タカシって言います」
「そうか……いい名前だ」
「でしょー」
「む? 今どこかから声がしたぞ?」
「きっと気のせいですよ。それよりあなたのお名前は?」
「我が名は涯炎。よろしくな、タカシ」
なんかこの世界に来てから聞いた名前で一番かっこいいや。
でも僕の名前も負けちゃいないと思う。
『名前の由来はね……高い志を持ってほしいから……高志だよ……』
今も隠れて見守っているであろう人の言葉を思い出した。
ついつい声が出ちゃったみたいだけど……この名前をくれてありがとうね。




