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20/29

20.月の光に照らされて

 黒鬼火のいる森で修業をした後、里で夕御飯の唐揚げを食べた。

 鬼たちは相変わらず、食べたことのない食事で大喜びをしていた。

 喜ぶ顔を見るのはいいけど、母さんが鬼たちの食文化を大変なことにしている気がする……。


 さて、もうすぐ夜だ。

 雨はやんだが、空は曇ったまま……。

 このままでは満月は出てこないだろう。

 母さんに頼るしかないのかなあ。

 僕はかなり疲れていたので、沙鬼ちゃんに起こしてもらう約束をして少し寝ることにした。




 そして……疲れ切っていたおかげかおかしな夢を見ることもなく目覚めた。

 準備は沙鬼ちゃんがしてくれているので、目をこすりながら外へ出る。

 空は真っ暗で星も月も見えない。

 まだ曇っているんだろう。


「タカシ君……満月見るの無理かなあ」

「あきらめずに待ってみよう。準備はしっかりしておこうね」

「うん……」


 手順をもう1度確認しておこう。

 沙鬼ちゃんはお茶碗に入れられた清めの水を、僕は升に入った清めの塩を持つ。

 これを満月の光に掲げ、1時間月の光をためるのだ。

 これで呪いを解く力が増加するらしい。


「こう持って……こうかなあ? 腕がもつかなあ」

「光が当たればいいから、楽な姿勢を見つけておこう」

「わたがしが癒すもきゅっ」

「うめぼしはみんなを照らすねー」


 おそらく僕たちは大丈夫だ。

 問題は月が出るかどうかなんだ。

 いざとなれば母さんに頼るしかないけど……どこに行ったんだろう?


「沙鬼ちゃん、母さん知らない?」

「さっきお鍋の蓋を磨きに行くって言ってたよ」

「そっか……」


 嫌な予感がするな……。

 お鍋の蓋で空を飛んで、雲の上まで連れて行かれる恐れがある。

 断るための理由をしっかりと考えておこう。

 もっとそれっぽい方法を使ってほしいし。

 そう考えていると、母さんがやってきたようだ。


「タカシー、月を見に行きたいんだよね?」

「行きたいというか……ここで見たいんだよ」

「母さんにちょっといい考えがあるんだけど……」

「そうなんだ。ところでさ、僕が高所恐怖症って知ってる?」

「そう……だっけ? 体がよくなったら飛行機に乗ってみたいって……」

「あ……」


 たしかに僕は病院のベッドでそう言った……。

 しまったなあ……断り方を間違えちゃったよ。

 母さんがちょと寂しそう。

 なにかいいフォロー方法は……。


「タカシ君、飛行機ってなあに?」

「えっとね……空を飛べる道具だよ」

「そんなのあるんだ……わたしもそれで飛んでみたいなあ」

「そっか……あ、そうだ。母さん、僕猫さんを無事に助けたら高所恐怖症を克服してみるよ。だから沙鬼ちゃんと一緒に飛んでみたい」

「そ、そうかい? じゃあなにか考えておくね」


 母さんの顔に笑顔が戻った。

 沙鬼ちゃんのおかげで助かったよ……。

 この際、鍋の蓋でも我慢しよう。

 さて……他に月を出す方法はないかなあ。


「沙鬼ちゃん。風を起こす妖術で雲を動かしたりはできない?」

「風は起こせるけど……さすがにそこまでの力はないよ。里で術を使える鬼を集めたとしても無理だと思う……」

「そうだよね……」


 そう簡単にはいかないか……。

 ふと横を見ると、母さんがポケットから扇風機を出しかけているのが見えた。

 うん、あれも却下。

 顔の前で手を振って、それはだめとジェスチャーで伝える。

 なぜか投げキッスが返ってきたので素早く回避。

 口で言うしかないか。


「母さん、術ならともかくもともとこの世界にないものは使わない方向でよろしく」

「なるほどねえ……わかったよ」


 納得してくれたようで、扇風機はしまわれた。

 さてさて……どうしたものか。


「これがだめだったら……月の光を作りだせる術者を探すしかないかなあ」

「そうだね……。でもどこを探せば……」

「うーん……」


 あ、母さんがフライパンを持って素振りを始めた。

 頭の上には生卵が乗っている。

 目玉焼きを月に見立てるって……ないなあ。


「あ、そうだ! タカシ君、猫さんにもらった毛を使ってみようよ。解決するかも」

「そうか! あれがあったね。ぜひやってみよう」


 猫叉さんが困った時に使えと言っていた3本の毛だ。

 これで奇跡が起こるかもしれない。


「じゃあこの……白い毛にしようかな。ふいてみるね」

「うん、お願い」


 沙鬼ちゃんが白い毛を手に乗せ、ふっと息を吹きかけた。

 毛はふわふわと空中を漂い、沙鬼ちゃんと2人でそれを見守る。

 やがて毛がたどり着いた場所は……母さん?

 あ、鼻に入った……。


「ふええ……」


 なんだか嫌な予感がする……。


「ふええええっくしょいいいいぃぃ!」


 大地を揺るがすようなくしゃみを母さんがして、空気が震えた。

 そして母さんの向いている先……上空に突風が吹き荒れる。

 僕と沙希ちゃんはたまらず地面にしゃがみこんだ。


 そして風はやむ……。

 沙鬼ちゃんもわたがしもうめぼしも無事なようで一安心。


「あ、タカシ君。空を見て!」

「え? わああ……月だ!」


 何故かはさっぱり分からないが、いつの間にか雲が消えて月が出ていた。

 うん、ほんとになんでなんだろうなあー。


「タカシ君、なんで雲が晴れたのかなあ」

「わかんないけど、きっと猫さんが奇跡を起こしたんだよ」

「そっかー」

「あははははー」


 沙鬼ちゃんと2人で棒読み風に会話をする。

 どうやら沙鬼ちゃんも先ほどの出来事をスルーしているようだ。

 なんだか心が通じ合った気がする……。


「さて、さっそく月の光をためようか」

「うん!」


 清めの水と塩を満月に向かって掲げる。

 これで1時間待てばいいはずだ。


「あ、でも時間どうやって計ろうか」

「たかしくん、うめぼしにまかせるぴー。火時計の術―!」


 うめぼしが浮かんでいる周りに、12個の火が灯った。


「たかしくん、これが全部消えたら1時間だぴー」

「ありがとう、うめぼし!」

「ぴぴぃーっ!」


 わかりやすくていいなあ。

 綺麗なので時間つぶしにもなる。


「ねえタカシ、もう大丈夫そうだから母さんは寝るね。がんばるんだよ」

「あ、うん。いろいろありがとね」

「おやすみなさい、お母様」

「うん、おやすみねー」


 母さんは僕らを心配していてくれたんだなあ。

 なんだかぞんざいに扱った気がして、少し申し訳ない。

 そうだ、今のうちに沙鬼ちゃんと話しあおう。


「沙鬼ちゃん、お母さんへのプレゼントを話しあいたいな」

「あ、そうだね。何がいいかなあ」

「といっても何も思いついてないんだけどね……。ねえ、沙鬼ちゃんだったら何が欲しい?」

「えっと……わたしだったらなんでも嬉しいかな。タカシ君にもらったこのペンダント……すごく嬉しかったよ」

「そっか……」


 僕がプレゼントしたペンダントを、沙鬼ちゃんは常に身につけているようだ。

 なんだか照れるな……。


「わたし思うんだ。タカシ君からのプレゼントだったら、お母様はなんでも喜ぶよ。だからあまり悩まずに決めていいんじゃないかなあ」

「そうかもね……」

「タカシ君が最初にお母様が欲しそうと思いついたやつ。それにしようよ」

「うん……母さんが欲しがっているもの……」


 僕は遠い記憶を呼び起こしてみた……。

 小さい頃、何が欲しいか母さんに聞いたことがあった。

 確かあの時はこう言われた。


『母さんはね、タカシとゆうすけが元気なら他には何にもいらないんだよ』


 元の世界で先に死んじゃった僕は、この願いを叶えられなかったんだろうか?

 いや、まだ間に合うはずだ。

 僕がこの世界で元気に過ごすこと、それが一番のプレゼントなんだ。

 そして僕が元気に働いて稼いだお金で買ったもの……これはこじつけだろうか?

 いや、いいはずだ。


「沙鬼ちゃん、母さんが常に身につけてくれるものを買いたいな」

「それ素敵だね。髪飾りとか……アクセサリーかなあ」

「髪飾りいいかも……。どんなのが母さんに似合うかは、一緒に決めてほしいな」

「うん! 一緒に見ながら決めようね」


 そんなわけで、さんざん悩んでいたのが嘘のようにあっさりと決まった。

 猫叉さんを助けたら買いに行こう。

 さて……まだまだ時間はあるな。

 沙鬼ちゃんとたくさんお話をしよう……。


「ねえ沙鬼ちゃん」

「なあに?」

「僕ね、沙鬼ちゃんのことがいろいろ知りたいんだ」

「そ、そっか……嬉しいな。わたしもタカシ君のこと知りたいよ」

「じゃあ……2人で自分のことを交互に言っていこうよ……」


 沙鬼ちゃんのことを色々知ることができた。

 前にも聞いたように、沙鬼ちゃんのお母さんは病気ですでに亡くなった。

 その病気は治療法がまだ分からないらしい。

 だから沙鬼ちゃんはたくさん勉強して、たくさん術も覚えた。

 その病気を治せるようになることが夢らしい。

 なんだか立派だなあ……。


 そして長いようで短く感じた1時間が過ぎ去る。


「たかしくんにさきちゃん、あと少しで1時間だぴー。がんばってー」

「もきゅもきゅー」

「うん、ありがとね。でも念のため……時間が過ぎても少しこうしてようか」

「そうだね、たくさん光を浴びたらきっと効果も増すよね」


 そして時間となった瞬間……僕の持っている清めの塩が一瞬光輝いたように見えた。


「タカシ君! 今このお水……光った気がする」

「うん、この塩もそう見えた。だからきっと成功だよ!」

「やったね、これで猫ちゃん救えるんだね」

「そうだよ、じゃあ大事に保管していこうね」


 清めの水と塩をこぼれないようにしてかばんにしまって……これで準備完了だ。

 あとは猫塚に向かうだけ。

 明日は冒険だ!

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