18.カーチャンの昔話
さて、今からお勉強時間だ。
ちびっ子たちに混ざって、沙鬼ちゃんに字を教わる。
僕のリクエストで、まず数字を教えてもらった。
これだけでもかなり過ごしやすくなるはずだ。
そして字も少しだけ教わり、賢くなった気がする。
なお、わたがしもちょっとだけ字が読めるようになった。
偵察してもらう時に便利かも。
そして……教えてもらうだけでは悪いので、簡単な計算をちびっこに教えてあげた。
こんな感じでお昼まで過ごした……。
お昼ご飯はなんだろうと思っていると、母さんが現れた。
「みんなー、給食のおばちゃんが来たよー」
「わー、いい匂い」
「おばちゃん、今日のお昼は何―?」
「フライドポテトだよー」
「わーい!」
母さんはいつの間にか子供達に懐かれているようだ。
そんな暇があったとは思えないけど、母さん子供好きだからなあ。
お昼はフライドポテトに目玉焼きとサラダ、なんとも洋風だ。
給食のおばちゃんは配膳を終えると、僕に話しかけてきた。
「タカシ、勉強はどんな感じだい?」
「うん、文字が少し読めるようになったよ」
「それはよかったねえ。母さんが教えてもいいんだけど、沙鬼ちゃんに教わる方が嬉しいだろう?」
「それはまあ……って、そんな変わらないよ」
「ふふっ、照れちゃってさ」
この会話は沙鬼ちゃんに聞かれてないようで一安心。
本音としては、沙鬼ちゃんの方がいいに決まっている。
「母さんは一緒に食べないの?」
「私は職員室で他の先生と食べるよ」
「そんなのないでしょ……」
「これから作るんだよ。タカシも学校の先生になるってのはどうだい? いい職業だと思うよ」
「うーん、僕は冒険したりする仕事がいいな」
「そうかい……」
将来は公務員になるのがいいよって言ってたっけなあ。
元の世界ならともかく、この世界ではもっと違うことをしたい。
「じゃあ行くね。また片付けに来るから」
「うん、ありがとね」
他のちびっ子や沙鬼ちゃんも、母さんにお礼を言って見送った。
やはり一緒には食べないようだ。
とりあえず食べよう。
ちびっ子達は大喜びでフライドポテトを食べている。
「これすごくおいしいー」
「わらびもちのおばちゃん最高だなー」
「ずっとこの里にいてくれたらいいのに」
「タカシお兄ちゃんに頼もうぜー」
みんなが僕を囲んで、ずっといてよとお願いをしてきた。
僕的には冒険の準備の拠点という気分なので、いつかは出て行こうと思うけど……これは言いにくいぞ。
「たかしおにーちゃん。ここにいてくれたらわたしが結婚してあげるー」
「わー、プロポーズだー。みきちゃんだいたーん」
なんだかモテモテだ。
でもこれも母さんのおかげと思うと、そう素直に喜べない。
やっぱり早めに独り立ちしなきゃいけないな。
「みんな、タカシ君困ってるよ。ご飯の時はあまり騒がないの」
「だってわたし、たかしおにーちゃんの奥さんになりたいんだもん」
「みきちゃんにはまだ早いよー」
「うー……。あ、わかったー。さきおねえちゃんもたかしおにいちゃんが好きなんだ。だから取られないようにしてるんだー」
「そ、そうじゃなくて……」
沙鬼ちゃんは顔を真っ赤にしている。
このちびっ子達はおませさんだなあ。
僕の顔もなんだか熱くなってる気がする。
「なんか2人ともまっかっかだー」
「やっぱりあやしいー」
「2人はふーふだー」
「お熱いねえもう」
子供達にからかわれる中、いつの間にか母さんも混じっていた。
面白そうなところにはいつの間にか現れるんだから……。
そのおかげで僕はちょっと冷静になれた。
ちょっと注意しよう。
「みんなやめてよ!」
男が怒ったからか、まだよく知らない人だからかはわからないが、みんなシーンと静まり返った。
母さんは何故か嬉しそうな顔で僕を見ている。
「僕は別にいいんだけど、沙鬼ちゃんに迷惑だよ。嫌がってる人をからかうのはよくないよ。みんな沙鬼ちゃんに謝って」
「えっと……さきおねえちゃんごめんなさい……」
「僕もごめんなさい……」
「ううん、いいんだよ。みんな……」
よし、なんとか丸く収まった。
あのままだったら、ずっと子供達にからかわれる日々になりそうだったのでこれでいい。
そしてみんな普通におしゃべりをしつつ、お昼を食べ始めた。
母さんはいつの間にか消えているようだ。
あ、沙鬼ちゃんが僕の隣にやってきたぞ。
「タカシ君、ありがとね。みんなを静かにしてくれて」
「ううん。怒鳴っちゃったからなんか申し訳ないや」
「いいの。たまには怒ることを大事だもん。わたしじゃ上手く怒らなくてさ……。タカシ君頼りになるね」
「そう言ってもらえると……」
「あとね……」
沙鬼ちゃんは僕の耳元に口を近づけてこう言った。
「実はわたし……からかわれて嫌じゃなかったんだ」
そう言われ、沙鬼ちゃんの顔を見ると少し照れつつ微笑んできた。
僕はきっと真っ赤になっているんだろう。
顔がすごく熱い……。
この光景を子供達に見られないよう、慌てて後ろを向いた。
心臓はどきどきだ……。
僕はこの後、沙鬼ちゃんの顔を見ることができずに食事を終えた。
食事時間が終わり、給食のおばちゃんが片付けにやってきた。
この後もほんの少しだけ勉強をするようだ。
しかし、食べた後は眠い……。
何人か寝てしまったあたりで、また母さんがやってきた。
「はーいみんな、お昼寝の時間だよー。布団敷くねー」
「わーい」
まるで幼稚園のようだ。
母さんも子供達もあたりまえのようにやり取りをしていて、なんか不思議。
僕と沙鬼ちゃんも手伝って布団が敷かれた。
「はいみんな、喧嘩しないように場所決めようね。私は真ん中だよ」
「わたし、おばちゃんの隣がいいー」
「僕はさきおねーちゃんのよこー」
母さんも寝るみたいだ。
みんな楽しそうに寝る場所を決めていく。
僕は……あまった場所にしよう。
そう思っていると、僕の着物の裾を引っ張るちっちゃな手があった。
「たかしおにーちゃん、お隣いいかなあ?」
さっき僕と結婚すると言っていた、みきちゃんのようだ。
沙鬼ちゃんも母さんも誘いを断らずに寝ているようなので、僕もそうしよう。
「いいよ。どこにしようか」
「わーい、じゃあここが空いてるよー。おててつないで寝ようねー」
「う、うん……」
ちょっとドキッとしたが、周りを見るとみんな手をつないでいる。
こうやって寝る習慣があるんだな。
でも手が汗ばんじゃいそうだなあ……。
さて、今夜は寝るのが遅くなるだろうから……しっかり寝ておこう。
雨……やむといいなあ。
「さあ、みんなが眠れるように昔話をしてあげようかねえ。どんな話がいい?」
「悪い妖怪をやっつける話がいいー」
「はいはい、昔々……」
なにか始まるようだ。
この世界のことなんて知らないだろうから、創り話かな?
「100年前、悪い大妖怪ママヌハハーンというのがいてね。妖怪を率いて人間と戦ってたんだ」
「鬼たちも?」
「そうだよ。その大妖怪は全ての妖怪を操れたんだ。だから戦うのが嫌な妖怪も戦わされたの」
「こわいなあ……」
沙鬼ちゃんの言っていた悪い大妖怪のことだろうか。
その妖怪の瘴気のせいで悪いままの妖怪がいると言っていた。
「その妖怪を倒すために1人の女性が立ち向かったんだ」
「女の人なんだ。かっこいいね。名前は?」
「その名も美人妖術師カーチャンだよ」
「カーチャンは妖怪を妖術で倒したんだね」
「そうだよ……それは熾烈な戦いだったんだ」
もう少し名前はどうにかならなかったのか……。
でも、戦いの部分は面白く語ってくれている。
ただ……僕の想像の中では母さんが戦っているせいで、いまいち盛り上がらない
「そして無事大妖怪は倒されましたとさ」
「じゃあ世界は平和になったんだ」
「それがまだなんだよ。大妖怪がいなくなって、他の妖怪たちは戦う必要がなくなった。でも……人間達は妖怪を皆殺しにするべきと考えたんだ」
たしかにその状況では、今まで戦っていた妖怪も危険と思うかもしれない。
なんとも切ない話だ。
「そして事情のわかっているカーチャンは人間達を説得した。でもわかってもらえなくて……。おや? もうみんな寝ちゃったんだね」
続きは気になったが、僕ももう眠い。
また今度聞かせてもらうとしよう……。
珍しくまともな話だった。
実話をどこかで仕入れたのかもしれないな
母さんの声を聞きながら、僕の意識は沈んでいった。




