17.カーチャン夢のお告げ
僕は夢を見ているようだ……。
なんで夢とわかるかって?
そりゃあ……鍋の蓋に乗って空を飛ぶというおかしな状況だからだ。
母さんなら実際にやりかねないが、現実であれば僕はきっと乗るのを拒否していただろう。
「どうだい、タカシに沙鬼ちゃん。母さんの新鍋蓋は?」
「すごく快適です! 空を飛べるなんて夢のようです」
「飛ぶのは楽しいけど、これ中古じゃなかったの?」
「そうだけど、母さんからしたら新蓋なんだよ。200餅もしたんだから」
中古でも空飛ぶ鍋蓋はお高いようだ。
でも、空から下界を眺めるのはやっぱり楽しいかも。
ただ……嫌な予感がしてならない。
「母さん、スピード違反や事故には気をつけてね。何故か僕が怒られちゃうから……」
「大丈夫だよ。ほら、母さんゴールド免許だから」
「それは運転してないから、捕まることもなかっただけでしょ?」
「そうとも言うねえ」
ま、こんな広い空で他に飛んでる蓋もないし……大丈夫かな。
前回の夢みたいにいきなり警察につかまったりしないだろう。
「それで母さん、どこに向かってるの?」
「猫塚だよ。猫ちゃんの呪いを解きに行くって沙鬼ちゃんに聞いたよ」
「あ、そうなんだ……。でもまだ準備できてないよ」
「偵察しておかないとね」
夢のはずだけど……実際の冒険に役立つのだろうか?
これで猫叉さんを助けやすくなるならありがたいことだ。
「見えてきたよ、近づくのはちょっと危険かなあ」
見ると大きな石の周りにたくさんの石が置かれていて、墓のようにも見える場所だ。
あの場所に猫叉さんの大切なものがあるんだろう。
なんとなく……黒いもやのようなものが見える。
あれが呪い?
「お母様、あのもやを吹き飛ばすことはできないんですか?」
「じゃあ私の鼻息で……」
「だめだよ。猫叉さんの大切なものが壊れるかもしれない」
ちゃんとした方法でないと何が起きるかわからない。
さらに……よく見ると周りに青鬼たちがうろついているのが見える。
すごく危険な場所?
と考えていると、鬼たちがこちらに気づいたようだ。
「母さん、場所は確認できたし逃げよう」
「あいよ!」
僕たちの乗った鍋蓋がUターンして逃げだす。
すると……青鬼達も蓋に乗って飛んでくるのが見える。
これってメジャーな乗り物なのだろうか?
「タカシ、そこに置いてある武器で迎撃しな!」
「あ、うん……。これってバズーカ砲かな」
さっきまではシリアスそうな夢だったのに、また愉快な夢となってしまった。
まあいい……面白そうだからやってみよう。
沙鬼ちゃんは隣で豆の玉が出るマシンガンをぶっ放して鬼を撃ち落としている。
さてこのバズーカは何が出るのか……。
肩に乗せ、狙いをつけて発射だ!
「ひゃっほー!」
「え?」
バズーカから飛び出したのは母さんだった。
青鬼の鍋蓋にうまいこと着地し……それを奪ったようだ。
そしてもちろんこっちの鍋蓋は運転者がいなくなり……。
「きゃあ! 落ちちゃうよー、タカシ君」
「沙鬼ちゃん、捕まって!」
蓋がひっくり返り、僕は沙鬼ちゃんを抱きかかえて落ちていく。
こんなことなら……蓋の運転を覚えておけばよかった……。
そう考えながら落ちていると、なにかの上に落ちた。
どうやら母さんが奪った蓋の上のようだ。
「ふう、間一髪だったね」
「ありがとうございます、お母様」
「そもそも母さんのせいで落ちたんだからね……」
「まあまあ、いいじゃないか。さっそく今から100年前の世界へ跳ぶよ!」
もうわけがわからないので、早く目覚めたいなあ……。
そう考えながら異次元への門をくぐるのであった……。
***
ふう……無事に目覚めたようだ。
とりあえず前後の部分は記憶から消すとして……猫叉さんの呪いを解くのは大変そうだなあ。
ちなみに今日はこの部屋に僕1人だ。
母さんは沙鬼ちゃんと一緒に寝たはずだ。
どんな話をしていたのか、ちょっとだけ気になったり……。
さて……今日やることの確認だ。
まず沙鬼ちゃんが子供たちに勉強を教えるらしいので混ぜてもらう。
紙と鉛筆を用意してと……。
夜は猫叉さんの呪いを解くための準備だ。
晴れるといいけど……。
そうしていると、沙鬼ちゃんが現れた。
「タカシ君、おはよう。朝ごはんができたよ」
「おはよう沙鬼ちゃん、いつもありがとね」
「いいのいいの。お母様のおかげで料理が好きになったから。あとこれ……タカシ君の服がないって聞いて、昨日お母様と作ったんだ。お父さんの使わなくなったやつを仕立て直しただけだけど……」
「わあ、ありがとう」
他の鬼達も着ているような、男ものの着物のような服だ。
母さんがくれた浴衣も汚れてきているので、ありがたい。
「じゃあ着替えたらいつものところに来てね。今着ているのはあとで選択するから置いておいて」
「わかった。すぐ着替えていくね」
着るのは難しくなかった。
シンプルに羽織って、ひもを腰に結ぶだけ。
よし、なんとなくこの世界になじめた気がするぞ。
さっそく食堂へと向かおう。
「沙鬼ちゃんお待たせ。あれ? 母さんは?」
「さっきご飯作り終わったら消えちゃったよ。食べ終わったら呼んでって言ってた」
「そう……」
異世界に来て今日で4日目。
母さんが食事をするところを見ていないや。
召喚されてる時は僕の魔力があればいいらしいので、食べる必要はないんだろうか?
ちょっと気になるけど、とりあえず食べようかな。
「いただきます。今日もおいしそうだね」
「うん、味噌汁に昨日のジャガイモを入れてみたよ」
「そっか。……うん、おいしいよ」
「えへへ、よかったー」
母さんと一緒に作ったんだろうけど、沙鬼ちゃんの料理の腕はばっちりだ。
毎日でも食べたいなあ……。
「そういえばタカシ君、わたし昨日変な夢を見たんだよ。なんか空を飛んで……猫ちゃんの言っていた猫塚まで行く夢なの」
「あ、僕も同じような夢を見たよ。周りに青鬼がいなかった?」
「うん! たくさんいたよ。2人で同じ夢見たってことはお告げなのかも……。夢にしてはやけにはっきりしてたんだよね」
沙鬼ちゃんも夢を見てたんだ。
お告げをしてきたのは、母さんか猫叉さんか……はたまた神様か。
なんにせよ、あの光景は信じてよさそうだ。
「じゃあ……かなり危険な場所ってことだよね。準備して行かなくっちゃ」
「そうだよね。それで、お母様に一緒に来てくださいってお願いしたんだけど……2人でやってごらんって言われちゃった。なんでだろう?」
「うーん……母さんに頼ってばかりだと、ずっと頼ることになるからかなあ?」
「そっか、わたしたちを成長させようとしてくれてるのかなあ」
なんとなくだけど……僕が冒険を楽しめるように気を遣ってくれている気がした。
なんせ母さんの力だと一瞬で解決しちゃいそうだし。
ありがたいかも。
「きっとそうだよ。一緒にがんばろうね」
「うん!」
「ところで……空をどうやって飛んでた?」
「なんか雲に乗ってたよ。気持ち良かったなあ」
「そっか……」
僕の夢とは若干違うようだ。
きっと最後の方の展開も違うんだろうなあ。
ちょっとだけうらやましいと思ってしまうのだった……。
「あと呪いを解く方法をおばあちゃんに相談してみたんだ。そうしたら、昨日お店で聞いた方法で大丈夫そうだって」
「そっか、ヨロズさんはいい方法を教えてくれたんだね」
「うん、だからきっと成功するよ」
なんか安心した。
そして朝ごはんを食べ終わる。
「ごちそうさまでした。沙鬼ちゃん、いつもありがとね」
「ううん、おいしく食べてもらえて嬉しいよ。じゃあ片づけと洗濯してくるね」
「うん、僕はわたがしと野草取りに行ってくるよ」
「わかった。じゃあまた後でねー」
では、母さんとわたがしを召喚だ。
「じゃじゃーん、おはようタカシ」
「おはようもっきゅー」
「おはよう、母さんにわたがし」
わたがしは母さんの頭に乗った状態で出てきた。
あのパーマの上は座り心地がいいのかもしれない。
「母さん、この服ありがとね。沙鬼ちゃんにさっきもらったよ」
「ああ、よく似合ってるねえ。沙鬼ちゃんは器用だよ。ああいう子を嫁にもらうといいよ」
「そんなまだ早いって……。沙鬼ちゃんにはそういうこと言わないでよ」
「沙鬼ちゃんは乗り気なんだけどねえ……」
「えっ!?」
「ふふっ、冗談だよ」
「もー……」
一瞬ドキッとしてしまった……。
仲良くはなったけど、まだ出会って間もないんだし……そういうことは早いよ。
さて、母さんはやることがあると言ってどこかへ行った。
僕は予定通りわたがしと野草取りに行こう。
今わたがしが使える魔法は、魔力回復と怪我治療と棘をとばす3種類か。
「ねえ、わたがしは草を食べて使う魔法をどうやって覚えたの?」
「うーんとね、たかしくんの魔力をもらってると、ぴこーんって閃くんだもきゅー」
「じゃあ魔力たくさんあげたら、他にも閃くかな?」
「かもしれないけど……たかしくんが疲れちゃうもきゅ……」
「必要なことなんだ。だからやってみよう」
「もきゅっ」
やり方はよくわからないけど……わたがしに杖を向けて念じてみよう。
わたがしが能力に目覚めますようにと。
杖から光が出てわたがしを包み込む……。
「もきゅー」
「わたがし、どうかな?」
「なんとなく毛並みがよくなったっきゅ。触ってみてー」
「どれどれ……。あ、ふさふさになってて気持ちいいや」
「僕も気持ちいいもきゅう……」
どうやら簡単に強くなったりはできないようだ。
やっぱりどこかで修業するべきかなあ……。
指導してくれる人が欲しい今日この頃であった。
そして……猫叉さんの天気予報通りもうすぐ雨が降りそうだ……。




