13.しゃべる猫
青鬼は、人に見つからないよう草むらに隠して寝かせておいた。
わたがしに回復魔法も使ってもらったし、たぶん大丈夫だろう。
では水煎の町へと出発だ。
「タカシ君、走れそうかな?」
「うん、全然平気だよ」
「そっかぁ、丈夫なんだね」
「わたがしのおかげだよ」
「もきゅっ」
この後は何も問題なく、水煎の町が見えてきた。
入口は、配達する荷物と一緒にもらった手形があるのであっさり通れた。
町並みは、土饅の町とそんな変わらない。
さあ、この町の旅人長屋を目指そう。
「こんにちは、配達に来ました」
「あ、土饅の町からですね。お待ちしていました。確認するのでお待ちください」
待つ間、仕事がないものか確認してみよう。
といっても、沙鬼ちゃんに読んでもらうんだけど……。
「うーん……討伐依頼があるんだけど、鬼に襲われたからってのが目立つね。さっきのやつかも」
「そっか、悪いのは青い鬼って伝えなくちゃ」
「うん、わかってくれたらいいなあ……。でも退治はされちゃうんだよね」
「そうだね……鬼火みたいになんとかできたらいいのに」
うめぼしは悪くなった鬼火を元に戻せた。
あれと同じことが鬼にもできたらいいのにな。
「タカシさーん、お待たせしました」
「あ、はーい……」
「荷物は間違いなく揃っているようです。報酬はこちらになりますのでどうぞ。あと道中で問題はありませんでしたか?」
「青い鬼に襲われました。地図で言うとこの辺りで……」
「そうですか、やはりあのあたりは危険なのですね。鬼退治の依頼を強化する必要がありそうです」
倒して眠らせたことは告げずに、逃げ出したことにしておいた。
でもそのせいでまた被害が増える恐れもあるので、なんだか後ろめたい。
あとこれは言っておかないと。
「すみません。僕こないだ赤い鬼にあったんですが、迷子になってたところを助けてくれたんです。だから危険なのは青い鬼だけの気がするんです」
「そう……ですか……。では一応それも調査しておくことにしますね」
「お願いします。いい妖怪もいるみたいなので」
受付の人は若干困った顔をしていたけど、こういうのは言っておくのが大事だ。
少しでもわかってくれるといいなあ。
ちなみに報酬は3餅……約3万円だった。
多めにだすと言われてたので、なんとなくお金持ち気分だ。
「ところで土饅の町への配達もあるのですが、もし戻るのでしたらお願いできませんか? 今日はこの町でも人手不足なんです」
「あ、じゃあ戻る時までに人が決まってなければ引き受けますね」
「はい、お待ちしております」
帰りも同じ仕事をすれば、いいお金稼ぎになりそうだ。
労働の喜びに目覚めそうな僕。
「じゃあ沙鬼ちゃん、2人でした仕事だし半分こしよう」
「いいのかな? わたし着いてきただけだよ」
「もちろんだよ。沙鬼ちゃんに教わった術のおかげでここまで来れたんだしさ」
「そっか……じゃあ遠慮なく。でもわたしお財布持ってないから、タカシ君に預かっててほしいな」
「じゃあ里に帰ったら渡すね」
鬼は人間のお金が要らないのかもしれないけど、あって困ることもないだろう。
では外に出ようかな……と思ったところで、受付のお姉さんが見覚えのある紙を壁に張っていた。
大妖怪カーチャンの手配書だ……あれも配達してきた荷物にあったんだなあ。
こうやって母さんが世界に広まっていくらしい。
ま、大丈夫だろう。
外に出てお昼ご飯にしよう。
「沙鬼ちゃん、お昼ごはん何が食べたい?」
「うーん、見たことないものばっかりだからお任せするよ」
「あ、おそばやさんがある。あそこにしよう」
「うん、楽しみだなあ」
この世界の食べ物は見慣れたものばかりだ。
味も問題ないし、いい世界だ。
沙鬼ちゃんは初めて食べるらしく、おいしそうだ。
持ち帰り用もあるみたいだし、母さんにもお土産で買って帰ろうかな。
『どうせならそば粉がいいなあ』
「え? 母さん?」
「あれ? タカシ君どうしたのかな。お母様が恋しくなった?」
「あ、いや……なんでもないよ……」
「うふふっ、変なの」
幻聴だと思うことにしよう……。
そばはおいしくいただき、そば粉をお土産に買って出た。
「おいしかったなあ。人間の食べ物っていろいろあるんだね。わたしさっきもらったお金でいろいろ食べに来ちゃうかも」
「それもいいかもね。でも町に入るには通行手形がいるから……土饅の町に戻ったらどこかで手に入れよう」
「うん、よろしくね。それで今からどうしよう?」
「少し町を見物していこうよ。母さんにあげるいいものも見つかるかもしれないし」
「うん、そうしよー」
というわけで、お仕事が終わった今デート気分だ。
適当に歩いていると、呼びこみっぽいおっちゃんが声をかけてきた。
「坊っちゃんにお嬢ちゃん、ぜひ見て行かないかい? なんと喋る猫が見られるよ」
「タカシ君、見世物小屋だって。わたし猫ちゃん見たいかも」
「そうだね、行ってみようか」
2人分の料金20飯を払って入ってみた。
ほかにもたくさん人が入ってたし、詐欺とかじゃあないはずだ。
ちょうどもうすぐ始まるらしい。
「沙鬼ちゃんは猫好きなの?」
「うん、だってとっても可愛いんだもん。飼いたいけど里にはいないんだよね」
「そっか、でも喋る猫ってことは妖怪なのかな?」
「かもしれないね。あ、始まるみたいだよ」
舞台に布がかぶされた箱のようなものが運ばれてきた。
運んできたのは、足を大胆に露出したような着物を着た綺麗な女性。
頭には猫耳のヘッドバンドをつけている。
「お待たせいたしました。ただいまより、喋って妖術を使いこなす猫を見ていただきます」
その言葉に観客たちが歓声をあげる。
なんだか男の客が多い気がするけど、この司会のお姉さん目当てなのかもしれない。
ミニスカートのような着物が気になるけど、僕は猫を見に来たんだと自分に言い聞かせる。
「それではご覧ください!」
「にゃおーん!」
布が取られると檻があり、その中に猫が入っていた。
司会のお姉さんが檻を開けると、なんとも可愛らしい猫が出てきた。
毛色はピンクと白と黒があるようで、これも三毛猫の一種なんだろうか?
「わあ、可愛いね。珍しい色してるー」
「そうだね。あれ? 尻尾が2本あるよ」
「ほんとだ。やっぱり妖怪なのかなあ」
あの色はこの世界でも珍しいようだ。
尻尾が2本と言うと、猫叉を思い出すなあ。
「にゃおーん、明日の天気は雨だにゃー」
「おお、喋ったぞ!」
「明日は雨と言ったぞ。当たるのか?」
手で顔をごしごししながらそう喋る猫。
猫叉と言えばかなり長生きしているイメージだが、なんとも可愛らしい声だ。
「ううー、可愛いよお。お友達になってくれる猫探しに行こうかな……」
「僕もお友達に欲しいなあ」
「あ、タカシ君ならすぐになれるかもだねえ」
「もきゅっ、喋れるようにもなるんだよ」
「あはっ、それいいかも」
よく考えたら、僕のところには喋れるウサギがいるんだった。
しかも妖術も使えるぞ。
さて……この猫叉はどんな妖術を使うのかな?
「にゃおーん! 猫分身の術だにゃあー!」
「おおお!? どんどん増えていくぞ」
「しかもこっちに来たぞ! 触っていいのか」
猫叉は何匹も、何十匹にも分身して客席の方へ跳んできた。
もしかして観客全員分いるのかな?
もちろん僕と沙鬼ちゃんのところにもやってきた。
「きゃーん! すごく綺麗な毛並みで気持ちいいー」
「にゃおーん」
「可愛いなあ」
「もきゅう……」
猫に触れてハイテンションな僕たち。
わたがしが若干寂しそうなので、あとで沙鬼ちゃんと一緒にたくさんなでてあげるとしよう。
僕は猫を抱きあげてじっと見つめてみた。
猫も僕を見つめているようだ。
「なにやらお前さんから強い力を感じるぞ……」
「え?」
「可能であれば……」
「さあ! もふもふタイムは終了です。猫ちゃんたちが戻りまーす!」
「にゃおーん!」
猫叉が何か言いかけたけど……司会のお姉さんの声で戻って行ってしまった。
いったいなんだったんだろう?
「タカシ君、わたしすごく幸せだよー。この町に来てよかったー」
「う、うん……。一緒に来れてよかったよ」
周りを見ても、みんなとても癒された顔になっている。
不思議なことを言われたのは僕だけなんだろうか?
「次はどんな妖術を見せてくれるんだー」
「もっともっとやってー」
ふと、聞いたことのあるような声がした。
見ると、母さんによく似た人が客席にいた。
世の中には似た人が3人はいるらしいので、きっとそうなんだろう。
「では次は、火に包まれた鉄の箱からの脱出劇をお見せいたします」
「そんなのできるのか!」
「すげー!」
この後も素晴らしい演目が続き、僕たちは目を奪われた。
さっき言われかけた言葉は気になったけど、きっとたいしたことではないのだろう。
そして1時間ほどでショーは終了した。
司会のお姉さんに檻に入れられて運ばれていく猫叉。
舞台から見えなくなる瞬間、僕の方を見ている気がした。
そしてこう聞こえてきたんだ。
『助けて!』って……。




