10.カーチャンの幻影
「きゃあああああああっ!」
黒鬼火は沙鬼ちゃんに襲いかかろうとしている。
僕の力じゃあ助けられないのだろうか……。
と思った瞬間……静寂が訪れた。
周りを見ると、時間が止まっているかのように動きが止まっている。
なんだこれは?
戸惑っていると、空中に透明な映像のようなものが現れた。
あれは……パジャマ姿の母さん?
『タカシよ、ホースの力を使うのだ』
「え? 何言ってるの母さん。沙鬼ちゃんが危ないんだ、助けに来て!」
『ホースはいつもタカシと共にある』
母さんは某映画に影響されたのだろうか……。
ふと自分の手を見ると、いつの間にかホースを握っている。
そのホースの先は……母さんの鼻の穴に刺さっていた……。
『さあ、今こそホースの力を解き放て』
「母さん、前々から言おうと思ってたんだけど……僕もうちょっとファンタジーらしく過ごしたいんだ。だからこれはちょっと嫌かな……」
『そうかい……盛り上がると思ったんだけどねえ』
母さんが少し寂しそうな顔になった。
そうか……僕の冒険を盛り上げようとしてくれているのか。
ちょっとフォローしよう。
「えっとね、その出現の仕方は嫌いじゃないよ。盛り上がるイベントだと思う。ただこのホース以外の解決方法がいいなあ……」
『なるほど、ちょっと待ってね』
そう言って母さんは懐からメモ帳を取り出した。
何が書いてあるんだろう?
この緊迫感のない待ち時間は、後で記憶から消去しよう。
しばらく待つと、シナリオが決まったらしい。
『よし、いいのがあったよ。じゃあさっきのシーンからやろうね』
「うん……。じゃあえっと……母さん。沙鬼ちゃんが危ないんだ、助けに来て!」
『残念だけど、まだその時ではないのだ』
「そんな……じゃあ僕いったいどうしたら……」
『タカシ、よくお聞き。お前には秘められた力があるのじゃよ』
「僕に?」
よし、なんだか盛り上がってきた。
この状況を突破できる力……できればかっこいいやつがいいな。
『タカシの魔力を一気に分け与えることで、使役する者を強化できる。その名も滋養……』
「待って母さん! 僕が使う技だし、名前は自分で決めてみるよ」
『そうかい……。もうすぐ時が動き出すよ。沙鬼ちゃんはお前の手で助けるんだ。いいね?』
「うん、ありがとう母さん。僕やってみる」
『タカシ、お前はコロモテンプラサクサックー族の末裔……しっかりね』
なんかそれっぽいことを言いつつ、母さんは消えて行った。
よし、急いで沙鬼ちゃんを押して黒鬼火の攻撃を避けさせよう。
僕が沙鬼ちゃんに飛びついた瞬間、時は動き始めた。
「きゃああっ! あれ? タカシ君……助けてくれたんだ」
「沙鬼ちゃん大丈夫? 今あいつらを倒すから待っててね」
さっき教わった技を使ってみよう。
ただ、そういうのはもっと早くに教えておいてほしかったな。
あ、魔力を一気にってことは危険なのかも?
「わたがし、うめぼし。僕の魔力を受け取って! 限界突破!」
僕の体からなにかが杖を通して流れていく感覚。
これが魔力の流れ?
「みなぎるもきゅー!」
「燃え盛るぴー!」
わたがしとうめぼしが輝いている。
どうやら成功したようだ。
ただ……僕は立っていられないほどの疲労感に襲われた。
あとは任せよう……。
「わたがしー……流れ星きーっく!」
大ジャンプしたわたがしが、黒鬼火にキックをお見舞いする。
かなり効いてるようで、くらった黒鬼火は地面でぴくぴくしている。
だが、他の黒鬼火が僕たちに狙いを定めてきたようだ。
「うめぼしふぁいやー。たかしくんは僕が守るぴー!」
次はうめぼしの活躍だ。
うめぼしの体から出た炎が黒鬼火にまとわりついて、動きを鈍らせているみたい。
「タカシ君、大丈夫?」
「うん……僕の妖力をわたがしとうめぼしにあげたんだ」
「そっか、すごいんだね」
「うん、あとは任せよう……」
僕は沙鬼ちゃんに抱えられるという情けない状態だが、これで守ることはできそうだ。
「わたがしぱーんちっ! きーっく!」
「うめぼしの赤い火は黒い火なんかに負けないのぴー!」
「2人ともがんばれー」
どうやら今は、基礎能力が大幅に上がったような状態らしい。
そのうち必殺技を覚えて欲しいな。
黒鬼火は攻撃を受け続け、かなり小さな炎となった。
「よーし、わたしの水の術で倒しちゃうね。可哀想だけど……この子達を放っておくと大変なことになりそうだもん」
「そうだね……お願いだよ沙鬼ちゃん」
悪くなった妖怪は倒すしかないんだろうな。
沙鬼ちゃんに辛い役目を押しつけるのが申し訳ないけど……。
「さきちゃん、待ってほしいぴー! うめぼしが悪い炎を燃やしてみるの」
「え? わかった。がんばってね、うめぼし」
「ぴるるるー!」
うめぼしが仲間を救おうとやる気を出している。
応援しつつ見守ってみよう。
うめぼしは黒鬼火を包むように重なり、優しく輝き始めた。
「瘴気を燃やすぴっ。みんなっ、正気に戻って。浄火の炎よ燃え盛るぴー!」
うめぼしがまぶしく輝いて燃え盛り、見ているだけで熱くなっていく気がする。
やがて光がおさまり……うめぼしの周りには小さな3つの青い火が浮かんでいた。
よかった……成功したんだ。
あれ? なんだか眠いや……。
「あ、タカシ君……しっかり……」
「もきゅもまじっきゅあー!」
その声を聞きながら、僕の意識は落ちていった……。
***
なんだか心地よい揺れを感じる……。
誰かにおんぶされているのかな?
「あ、タカシ君気がついたみたいです」
「タカシ、大丈夫かい? よくがんばったねえ」
「僕気絶しちゃってたの……? あの後どうなったんだろう?」
「わらびもちさんが来てくれて、今里に帰ってるところだよ」
そうか……母さん来てくれたんだ。
きっと危ない時は助けようと、どこかで見ていてくれたのかもしれない。
「ごめんね沙鬼ちゃん、危険な目にあわせちゃったよ」
「ううん、ちゃんとタカシ君が助けてくれたもん。かっこよかったよ」
「うんうん、タカシは立派だったよ。次からはもっともっと強くなればいいさ」
「ありがと……」
たしかにもっと強くならないとなあ。
どうやって修行したらいいんだろう?
「早く強くなりたいよ。どうしたらいいの?」
「あせっちゃだめだよ。たくさん遊んで、たくさん冒険してればいいよ。そうしたらいつの間にか強くなってるからさ」
「タカシ君、わたしと一緒にまた遊びながら特訓しよう」
「うん、よろしくね沙鬼ちゃん」
そうだよね。
僕はまだこの世界に来たばっかりなんだ。
たくさん経験を積んでいこう。
それより、沙鬼ちゃんの前でお母さんにおんぶされているのは少し恥ずかしいかも。
「母さん、僕もう歩けるから降ろしてよ」
「いいじゃないか。久しぶりのおんぶだし」
「でも……」
「タカシ君、あまり無理しちゃだめだよ」
「そうそう。それにね、タカシがもっと大きくなったらもうおんぶできなくなっちゃうんだ。だから今はこうさせておくれ……」
なんだか寂しそうに言う母さん。
たしかにもうこんな機会はないかもしれないのか。
じゃあ、好きにさせてあげようかな。
「タカシ君はこんないいお母さんがいてうらやましいなあ」
「そういえば沙鬼ちゃんのお母さんは?」
「わたしが小さい頃に病気でね……」
「あ、ごめん……」
「ううん、いいの」
家にいなかった時点で察しておくべきだった。
僕ってまだまだ駄目だなあ。
「沙鬼ちゃん、私をお母さんだと思っていいよ」
「母さん何言って……」
「ほんとですか! ぜひ呼びたいです!」
「ああ、呼んでくれると私も嬉しいから」
「ありがとうございます、お母様」
呼びたいんだ……。
人の気持ちって難しいなあ。
「実は私ね、娘が欲しいなあと思ってたんだ。だから嬉しいんだよ」
「じゃあわたしのことを娘と思ってください」
「ふふっ、いきなりこんなに可愛い娘ができちゃったよ」
「可愛いだなんて……えへへ、お母様ー」
盛り上がっている女性陣。
ま、楽しそうだからいいか。
僕の転生生活2日目は、こうして終わるのであった。




