63話
嵐のような濃いキャラに精神力を大分持っていかれましたが、私は元気です。
名付けもようやく最後だ。
時間的には短い筈なのに、やけに濃厚な一時だったわ。
「最後になってしまって悪いな、要塞ガニの長よ、だがこの順番で寵愛や序列が決まるということではない、安心してくれ」
要塞ガニは大丈夫です、というようにカチカチとハサミを鳴らした。
可愛いなオイ。
まさか巨大なヤドカリに癒される日が来ようとは。
もう人化なんかしなくていいんじゃないかな?
このまま彼には――彼だよな?――癒し系路線で進んで欲しい。
「ではお前の名前は『エンケラドゥス』だ。要塞ガニは正しく移動要塞、巨体を活かした壁役や運搬役で頼ることも多いだろう、これからも励んでくれ」
“『名付け』による特殊進化条件を達成しました。個体名:エンケラドゥスは進化します”
癒し系来い、癒し系来いッ!
なんかくじ引きしてるような気になってきた。
ネレイドやルーナが外れという訳では絶対にないが、疲れる性格であることは確かなのだ。
ここで更に疲労感を追加するようなキャラが来てしまったら、俺は心労で倒れるぞ。
名付けられた要塞ガニは殻に引っ込むと、カタカタと揺れだした。
いーやしけい! そーれ、いーやしけい!
頑張れー、癒し系に生まれ変わるんだエンケラドゥス!
む、でも待てよ?
ネレイドとルーナの時は、俺はこういうキャラに成れ、みたいなこと考えてなかったよな?
なのにエンケラドゥスにだけ性格を強要するっておかしくないか?
うん、おかしいな、俺の願望で配下の進化をねじ曲げてはいけない。只でさえ人化という形でねじ曲げているんだから、これ以上は余計だ。残酷ですらある。
ごめん、エンケラドゥス。俺もう無茶言わないから、無事に進化してくれれば、お父さんそれだけでいいから!
めりめりべきべきと激しい音を起ててエンケラドゥスの殻が縮んでいく。
おいおい、ちょっと大丈夫? まさか俺の願望が変な影響与えちゃったんじゃないだろうな。
だったら不味い、とんでもないことをしてしまった!
配下モンスターとはいえ生きているのに、俺が、俺の欲望でこれから進化するモンスターを危険に晒すなんて……!
頼む、無事に、無事に生まれてくれ……ッ!
俺の祈りは天に通じたのか、それとも通じなかったのか……。
パーン! と限界を迎えたかのように、殻が爆発四散した。
「エンケラドゥス!!」
「まさか、こんなことが、ありんすか……」
「……ぅそ……」
殻の中には何も無かった。空っぽだった。殻だけが飛び散ったのだ。
もちろん、殻が吹き飛んだ跡にも何も残っては……。
いや待て、なんだ、あれは?
海に浮いているエンケラドゥスの殻。めちゃくちゃ重たい要塞ガニの殻がなんで浮いてるんだっていう疑問もあるが、それより意味が分からないのは、その殻に乗っかっている幼児。
幼児……?
幼児!?
コール画面越しでもわかる、天使のように愛らしい顔、ガーネットのような瞳はくりくりと動いていて、見るもの全てに興味を引かれているようだ。張りのある健康的な肌は小麦色。ふわふわの癖ッ毛な色素の薄い赤毛が日の光に透けて金色に見える。
犯罪的に可愛い褐色赤毛の幼児がそこにいた。
幼児は視線を彷徨わせ、コール画面に気がつくと
「パパぁーッ!」
とんでもねぇことを叫びやがった。
「……なんでありんすか、この童は?」
「……ふゆかぃ……」
ネレイドの表情が凍り付き、ルーナの殻が凶悪にガチガチと開閉する。
だけどパパは無いだろ! 俺だって予想外だわ! 確かに無事に進化してくれれば、無事に生まれてくれればって思っ……。
それだよ……。
いつの間にか出産を案じる父みたいな気持ちで進化を見守ってたわ。
俺の意思がダイレクトに影響してるじゃねぇか。しかも天使みたいに可愛い幼児? 癒し枠もしっかり埋めてきてやがる……!
要塞ガニの武骨な姿からどうやってこんな幼児捻り出すんだよ?
あぁ、だから殻が爆発四散したのか。あんな進化したらなんでも有りじゃねぇか。
いやね、精神年齢的にはおかしくないんだよ、幼児でも。配下モンスター達は全員、幼児どころか生後数ヵ月の赤ん坊だから。
そうかなるほど、じゃあ進化先が幼児でも何もおかしくは無いな! ってそんな訳はないんだよ。
カロンやエウロパは当然、フォボスもネレイドも精神年齢は高く、下手したら俺よりも大人だ。
ルーナは、まぁ、アレよ、数少ない例外よ。彼女は大人ではない。
「パパ?」
おぅ、ちょっと現実逃避してた。
どうしよう、この幼児。もうエンケラドゥスって名前負けしちゃってるよ、もっと可愛らしい名前にしてあげれば良かった。
今さら変えられないけど。
しかし幼児か。
体が幼児サイズというだけで要塞ガニの利点が何一つ活かされない訳だが。
俺が癒し枠を望んだばっかりに、一人のモンスターの長所まで潰してしまったというのか。
「パパぁ……、うぇぇ……」
馬鹿な!? 泣き出しただと!? 何だこれは、何が起こったというのだ!?
どうすんのよ、どうすんのよ俺!?
「ワダツミ様、落ち着きなんし。ワダツミ様が返事を返さなかったのんで、不安になったんでありんしょう」
「そうなのか、ネレイド、よく分かるな」
「幾株のサルガッソの母ともなれば、多少とも分かるもんでありんす」
悲報、ネレイド子沢山。
そりゃそうか、領域で増えるように俺が配置したんだもんな。
……ハッ! ということは、他のメンバーも……、エンケラドゥスでさえ……?
「要塞ガニの童は、ぬし様がそう望んだ故、あぁなったんでありんすよ」
うぅ、やっぱりか……。本当はどういう性格だったんだろう?
もう今の形になってしまって、元の性格を知る術は無い。
これはもう俺の手には余る。ここは頼れる味方、スバルさんの助けを請おう。
……っとその前に、挑戦者撃退してからステータス確認してなかったし、スバルさんを呼びつつステータスを見ておこうか。
《ステータス》
名前:ワダツミ・グラコウス
レベル 25
職業:ダンジョンマスター
HP:4300
MP:12000
SP:4300
攻撃力:4300
防御力:4300
素早さ:4300
スキル
『ダンジョン操作(中級)』
『配下モンスター覚醒』
『大海洋魔法』
『威圧外交』New!
『土木工事』New!
称号
『新米ダンジョンマスター』
『放浪のマスター』
『魔物処刑人』
『魔人統率者』
『孤島の主』
『DP富豪』
『水仙人』
『現場監督』New!
『進化の探求者』New!
『幼児愛好家』New!
所持DP:388500
誰がペドフィリアだゴラァ!! 風評被害も甚だしいぞ! 訴えるよ! 訴えて勝つよ!
俺の願望と変な妄想がエンケラドゥスを幼児に変貌させたことは認めよう、だがそれはある意味予測不能の事故で、俺が幼児を愛でたいからではない!
他にも突っ込みどころのあるスキルや称号があるけど、そこだけはハッキリ主張させてもらうぞ!
「パパ、パパぁ~……」
「お、おう、ここにいるぞ、今迎えに行くからな~」
「パパぁ!」
わぉ、一瞬で笑顔に。
なんというエンジェルスマイル!
そしてなんという冷気、いや殺気。ルーナさん、殻から瘴気が漏れてますよ。そのガチンガチンやるの止めてぇ!?




