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62話




「……という訳で今から君達に『名付け』を行う」


 目の前に開いたコール画面に、サルガッソ、ミラージュクラム、要塞ガニの代表の顔が見える。


 待ち望んだ『名付け』に、三名とも興奮しているようだ。


 サルガッソは海草がゆらゆら揺れてるだけだし、ミラージュクラムはデカい二枚貝が映ってるだけだけど。

 因みに要塞ガニは更に馬鹿デカいヤドカリみたいな感じだ。カニから進化したのにね。確かカニとヤドカリって別系統の生き物だったと思うんだけど。

 まぁ、そこら辺はいいか。異世界だし。


 さて、カロンとエウロパは天体、衛星から名前を取った。スバルさんやポーラも星の名前だ。俺もそうらしいし、ここは天体シリーズで統一しとこうか。


 『名付け』に必要なDPは500、カロンとエウロパには更に追加で5000DP投入しているので、同じく種族代表になる三名にも追加で5000DP贈りましょう。


「ではサルガッソの長よ、これよりお前の名は『ネレイド』だ。ダンジョン領域の防衛、練金素材の提供、やってもらうことは多いが、頼むぞ」


 『名付け』を発動、追加で5000DPもポチポチっと投入します。 

 

“『名付け』による特殊進化条件を達成しました。個体名:ネレイドは進化します”


 海草がギュルギュルと互いに巻き付き、蕾のように重なり合う。それが繰り返され大きく玉になると、ふわりと開いた。

 深緑の長髪を波にたなびかせた美女が海中に出現した。長髪は意思を持っているかのように動き、自らを結い上げていく。

 足元は元のサルガッソが着物の裾の様に広がり見ることは出来ない、というより、たぶんまんまサルガッソに繋がってるんだな。さながら海のアルラウネって感じだ。


「素晴らしき名をいただき、感謝に絶えませぬ。ぬし様に永遠の忠愛を誓うでありんす」


 吉原言葉!? いや、結い上げた髪と言い着崩した感じの着物っぽい服装といい、花魁おいらんに見えなくもないんだが……、すごいの出てきたな。

 若干緑色な肌も濃淡があって、化粧と言えば化粧みたいだし。

 人化までは予想してたけど、こう来たか。


「見詰めて戴けるのは嬉しいのでありんすが、まだ待っている者もおありでしょう、わっちに構わず、残りの二人にも『名付け』ておくれなんし」

「あ、うむ、そうしよう」


 なんだろう、さっき進化したばかりな筈なのに、なんか圧倒される。雰囲気に飲み込まれる。

 ネレイド、恐ろしい子……!


「では次だ、ミラージュクラムの長よ、お前は今後『ルーナ』を名乗るがいい。防衛の際、まず動くのがミラージュクラム達だ、その能力に期待しているぞ」


“『名付け』による特殊進化条件を達成しました。個体名:ルーナは進化します”


 ネレイドの進化の凄まじさに、否応なしに高まる次への期待。

 さぁ、ルーナよ、君はいったいどんな進化を見せてくれるのか!


 ……。



 …………。




 ……………………。



 んん?

 おーい、ルーナさん? 進化して良いんですよ? ポイント贈ってますよー?

 もしもーし? ノックしてもしもーし!?


「まさか、『名付け』が失敗したのか? ルーナ、おいルーナ! 無事なのか!?」


 余りにも反応が無いので、コール画面をバシバシ叩いてしまった。

 魚が驚くので水槽を叩かないで下さい、とスバルさんの声が聞こえた気がした。


「わひゃい!?」


 そしてスッ頓狂な声も聞こえた。

 そろ~……っと二枚貝の殻が持ち上がっていく。


「ルーナか?」

「……はぃ……」


 どうやらミラージュクラムの代表は殻の中身だけが進化したようだ。

 こちらをチラチラ窺う姿は、人よりややオレンジがかった肌で、体の大きさは10才いってるかいってないかと言った所。下半身はまんま貝肉で、殻にくっついていた。

 特徴的なのがピンク色の髪で、全体的に短めなのだが前髪を伸ばして目を隠してしまっている。ちらりと見えた限りでは垂れ目な感じの大きな桃色の瞳で可愛らしかったのだが、勿体ないことだ。


「あー……今後ともよろしくな」

「ッ」


 そして殻が閉じる。

 奥手かッ! ネレイドとは別の意味でメンドイわ!

 ルーナ、君ね、一応今ダンジョンマスターに挨拶してるんだぜ? 配下がそんな態度じゃ駄目だろ。


 同じことを感じたのか、ネレイドが扇子のような海草で口元を覆い、眉を潜めた。

 え、そのテングサみたいな扇子いつの間に作ったの!? イカス!


「ぬし様に名前を戴きその態度……不敬でありんしょう」

「ネレイド、良い。それもルーナの個性というものだ。俺に対する忠誠が無い訳ではない」


 俺が名付けた配下は他の配下に比べて、なんというか、繋がっている・・・・・・

 ルーナが俺を軽んじて殻に籠っている訳じゃないってのは簡単に分かるのだ。


 それどころか、重んじ過ぎているというか、感情が溢れすぎているというか、あの殻の中で色々ブツブツ言ってるのが聞こえてきて恐い。

 人見知りと恥ずかしがりな性格に自己肯定感の低さがブレンドされ、溜め込んだ感情ものを殻の中でぶちまける。そんなちょっと暗い子のようだ。


「ワダツミ様ワダツミ様名前を戴きありがとうございますえへへルーナって響きが素敵ですでもあの海草はちょっと偉そうでイヤ先に名前もらったからって調子にのってるワダツミ様が優しいからって勘違いして意味わかない言葉遣いだしワダツミ様ワダツミ様も嫌いだと思うしうんきっと嫌いだよワダツミ様も言ってあげればいいのにでも私の」



 そっと音声をオフにした。

 ルーナにはこれから更生して欲しいと思う。決して今触れると恐ろしい思いをしそうな予感がしたとかそういうことではなく、進化したてで混乱しているだろう配下を慮ってのことだ。

 ダンジョンマスター足るもの、こういう気遣いも出来ないとね。嘘じゃないよ?



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