61話
あぁ疲れた! 超疲れたァん!
日々ダンジョン為に泥にまみれて働くマスターに、対人交渉なんかさせるなっつーの!
挑戦者達を追い出した俺は通路を走り、自分の部屋に速攻で逃げ帰った。
早く暖かいベッドに飛び込みたい。なにも考えずに布団のぬくもりに包まれて癒されたい。
今日くらいはサボっても許される筈だ! 俺は頑張った!
さよならお仕事こんにちは惰眠!
俺は仕事を辞めるぞスバルゥーッ!
「うぉおお寝るぞーッ!」
「きゃあああああ!」
俺の部屋に響き渡る少女の悲鳴。
何だ? 何事だ!?
この声はポーラ……、まさか、挑戦者たちが配下を俺の部屋に潜り込ませた……?
ポーラの身が危ない!
「いやッ! モンスター!」
「モンスターだと!? おのれモンスターを送り込んでくるとは卑劣な奴等め! 何処だ!」
「ひぃい!」
『大海洋魔法』いつでも発動準備オーケー、特大のを食らわせてやる。周囲を油断なく警戒しつつポーラの様子を……、あれ、ポーラ、俺を見て怯えてない?
最近はかなり馴れてきてくれてると思ったのに、急に大声あげたからかな、また怖がらせてしまったようだ……。
「いえ、ワダツミ様、今のご自分の姿をご確認下さい。冒涜的でおぞましく永久の眠りに付き悪夢の思念波を撒き散らす深海の邪神のような仮装ですよ?」
おぅ、スバルさんまで俺の部屋に。
そうか、そういや仮装しっぱなしだったわ。
この格好は俺でも怖い。夜道で出会ったら失禁して失神すると思う。
「あ、忘れてた。ていうかこれ一人で脱げないよ、ボタンが後ろにあるんだから」
「いっそこのままでも私は面白いと思うのですが」
「勘弁してよ、これじゃ食事も出来なきゃトイレもいけないよ」
「ということです、ポーラ。怯える必要はありません、中身はいつものワダツミ様ですよ」
スバルさん、ナイスフォロー。
なんだかんだ言って俺よりも一緒にポーラ過ごしているからね、ポーラの気持ちが分かっているんだろう。
俺は、もう少しダンジョンマスターとしての余裕を持たなきゃダメかしら。
「あ、あ、マスター、も、申し訳ありません、大変な無礼を……」
「いやいや、俺がうっかりしてたわ。ごめんな? ところでどうしてポーラは俺の部屋に?」
「はい。スバル様よりマスターのお部屋の清掃をすよう言い付けられましたので」
俺の部屋かぁ、ベッドと衣装箪笥があるだけで、まだまだ殺風景なんんだよね。掃除の遣り甲斐はないと思うけど。
それに、掃除はいいけど、用具がないぞ?
「抜かりありません」
ハッ、そうか、スバルさん、またDP使ったね!?
まぁ必要経費か。
挑戦者たちの撃退ポイントも入っているし、全体的には黒字だよね。
「ポーラって、家事とか洗濯とか出来るの?」
「はい、売られる前に一通りは仕込んでいただいております。必要とあれば、閨も共にする所存です」
それはその……、覚悟は買うけども、見た目ガッツリ幼女なので、俺の食指は動かない。
個人的にはスバルさんの中性的若干女性寄りのクールな雰囲気がドツボなのだ。
スバルさんはダンジョンコアで、そういう所無神経だから男女の機微もクソも無いけどね。
まぁ、とにかく、俺は精神的疲労でクタクタなのだ。早くベッドで寝たいのだ。
だが、スバルさんが此処に来ている時点で、その幻想は既にぶち殺されている。
スバルさんが俺の部屋にくる=仕事、ですもんね。
だから目を合わせないようにしてるんだけど、そんなことで許してくれるスバルさんではない。
「ワダツミ様、幾つか目を通して欲しい書類がございます。ダンジョンをの立ち位置を、ヒト族との友好に置くということで、こちらが提供できそうな物をリストアップしておきました、今日中にお願い致します」
俺、疲れてるんだけど……。
他に任せられる相手、いないかな……。
カロン、フォボスは脳筋だから論外。
エウロパは私欲に走りそうな予感がするので却下。
スバルさんは案は出してくれるけど、結局最終的な判断は俺だ。
ポーラはまだ小さいから難しいだろう。
あれ、こうしてみると、俺の配下って片寄ってね?
最終的な責任が俺にしかこない状況だよ?
これって、ワンマン体制っていうのか? それにしても俺しか組織の運営を分からないってのは不味い。
せめて、後継者を作らないとな。
「加えて、害意ある者を選別し、撃退する為のダンジョンを製作する必要があると思いますので、場所の候補と罠や配置モンスターの案を書き出しておきました、そちらも確認してくださいね」
ひ、ひぇえ、スバルさん、多い多い、仕事が多い!
スバルさんの処理能力と俺の仕事のペースを一緒にしちゃ駄目だって!
「あと、そろそろ本当に名無しの配下モンスターに名を付けてあげて下さい。サルガッソ、ミラージュクラム、要塞ガニの代表達が首を長くして待っていますよ?」
ひぎぃ、らめぇ! もう頭の中パンパンなのぉ!
俺の能力も思考も伝わっているはずなのに、無情なるダンジョンコアは俺のベッドにドサッと書類をおいて出ていってしまった。
帰り際、『そういえば魔冷泉の源泉を引っ張ってくる話も途中でしたか……』なんてスバルさんの思考が漏れてきた。
ヤバイ、マジで仕事の処理を急がないと、何も出来なくなる。
ただただスバルさんの持ってくる仕事を片付けるだけのマッスィーンとなってしまう。
それは嫌だ、避けねばならぬ。
「あの、マスター、お仕事大変なようですが、私になにかお手伝いできることはありますでしょうか?」
「え? 手伝ってくれんの? ポーラは優しいなぁ……、優しさが心に沁みて涙が出そうだわ……」
この優しさをどっかのダンジョンコアも見習うべきそうすべき。
やるべき事を書類に纏めてくれるだけでも非常に助かってはいるんだけどね、いやもう、本当。
ただ、もう少し手を抜いてもいいのよ?
このペースだと、ダンジョンマスター潰れちゃいますよ? ダンジョンマスター潰れたらダンジョンの運営が立ち行かないでしょ?
『これでも優先すべきことを厳選してます』
ひぇっ! 聞こえてた!
分かります分かります、スバルさんなりに気遣ってくれているのは分かりますんで、仕事、今のペースで良いんで、増やすのだけは何卒勘弁してください。
「マスター? やはり、私にできることは無いでしょうか……?」
あ、やべ、ポーラ放ってスバルさんと通信してたわ。
「あぁ、いやいや、仕事のことでスバルさんと話しててね。うーむ、ポーラに出来る仕事ねぇ……」
「はい、私、なんでもやりますから!」
え、今なんでもって……。
と、まぁ、冗談は置いておいて。
積まれた仕事は『輸出品目録の確認』『外敵撃退用ダンジョン案の確認&アイデア出し』『配下の名付け』だな。
ポーラが出来そうなのは……、アイデア出しくらいいか。
「よし、じゃあ新しいダンジョンの罠や配置モンスターの案を考えて貰おうかな。ダンジョンを壊しにくる奴をやっつける用だから、しっかりとしたのを頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!」
うんうん、やる気があるようで何よりだ。
多少ブッ飛んだアイデアが出てきても、叶えられる限りは叶えてこう。
前知識無く作るのは難しいだろうから、俺が最初に読んだ “決定版 誰でも分かる! ダンジョンの育て方”を渡しておく。
これ、読み書きが出来なくても内容が頭に入ってくるようになってるらしいから、思いっきり日本語で書いてある本でも大丈夫だろう。
新しいダンジョンはポーラに任せて、俺は配下の名付けをしましょうかね。




