06話
みんな、ハサミムシってとっても献身的な虫なんだ! 知ってたかい!?
母ハサミムシは水も飲まずひたすら卵を守り世話をするんだ!
産卵を終えて消耗した体であるにも関わらずだよ?
もちろん、どんどん体は弱っていき、最後には動くこともままならなくなる。
そして生まれた子供たちに、母ハサミムシは餌として自分の体を差し出すんだ!
おぉ、なんという愛!
母ハサミムシの献身と犠牲に全世界が泣いた!
今、そんな愛溢れる昆虫、ハサミムシが巨大になって俺を天井の穴から見下ろしています。
アホか、何が愛溢れる昆虫だよ。
完全にコイツ捕食者だよ。
獲物を狩って肉を食らうモンスターだよ。
真っ黒な複眼が俺を捕らえ、鋭い顎がキチキチと音を起てていた。
やべぇ、現実感がない。
これって夢?
いやいや夢じゃないよな?
なんか感覚というか、実感がない。
完全に体が固まってしまっていた。
「ギチチチチチ!」
「う、うぉあああああ!?」
幸い天井の穴は俺用に調整していたからハサミムシも頭しか突っ込めなかったようだ。
だが俺を獲物と認識したのか、暴れて侵入しようとしている。
バラバラと破片が降ってきた。
天井は大して厚みがない。
あの巨大なハサミムシが暴れ続ければ、いずれ崩れて落ちてしまうだろう。
「な、何か、何かないか!?」
ダンジョンはあいつを侵入者と認識しているんだよな!?
外敵撃退機能とか付いてないのかよ!
いや、俺がダンジョンマスターなんだから、俺が設置してなければあるはずがないか。
じゃあ今から付ければ良いじゃねぇか!
攻略本を急いでめくり、召喚モンスターのページを開く。
ゴブリン、スライム、バット、ウルフ、パペット、毒蛇……。
他にもいるが……、駄目だ、あのデカいハサミムシに勝てるビジョンが浮かばねぇ。
じゃあ罠は!?
飛び出すトゲ。落ちてくる檻。落とし穴。回転する壁。
これだけかい? 冗談だろ!?
えぇい、ままよ!
『ダンジョン操作・罠設置』で『飛び出すトゲ』をハサミムシの近くの階段に設置。直ぐ様発動!
“注意! 近くに敵対生物がいるときは、罠を設置できません”
ですよね!
普通そうですよね!くそが!
ど、どうすりゃいいんだ!?
モンスターは望み薄、罠は設置出来ない。後は…………スキル!!
この状況を打破出来るスキルを探すんだ!
俺の今持っているDPで取得出来るスキルで、効果的なのは……。
『火炎魔法』
『水流魔法』
『土砂魔法』
『樹木魔法』
『金光魔法』
各1500ポイント
これが取得出来るスキルの中では恐らく最高の攻撃力だ。
戦闘スキルは武器がないから、魔法一択しかない。
あんなバケモノに近付くとか絶対に嫌だし。
そんで、この魔法、五行的な考えがベースか?
だとするならば、ハサミムシにも効果的な魔法があるはずだ!
ハサミムシなら属性は恐らく木か土。
木なら弱点は金。
土なら弱点は木。
どっちだ、どっちなんだ……?
この選択が俺の生死を分けるといっても過言じゃないんだぞ……!