56話
問題:配下が戦っている最中に土木工事に精を出すダンジョンマスターなんているでしょうか?
答え:ここにいるぞ!
つまり俺のことだ。
スバルさんがいくら大丈夫だと言っても、まだまだ準備期間が半分以上も残っている時期での襲撃。
心配しない訳ないじゃない。
でも悔しい、スバルさんには逆らえない、ビクンビクン。
俺よりよっぽど合理的で冷静なスバルさんが言うんだから、間違いはないと思うし、最悪、ヤバければダンジョンの通信機能で俺に連絡が来る。
『大海洋魔法』なら、ここからでもマップ攻撃出来るから、わざわざコアルームに隠って戦況を確認する必要はないっちゃあ無いのだ。
ただ、俺が蚊帳の外な感じがして若干寂しいくらいである。
「ワダツミ様、元気を出してください。皆が心配なのは分かりますが、商船団ごときに遅れを取る方々では無いということは、ワダツミ様ご自身がお分かりでしょう」
そう言って俺を励ましてくれるのは、レッドギルマン・リーダーのフォボス。
ブルーサハギンとは異なり、陸上でも戦闘能力の低下が見られない上、乾燥にも強く、主に戦闘以外の面で重宝している。
レッドギルマンの任務はダンジョン内の拡張・整備、島の探索と開発、陸戦部隊としての訓練、と多岐にわたる。
目立たないが、重要な裏方って感じだ。
そんな彼らに土木工事という新たな仕事をブッ込もうとしている俺は中々鬼畜なのかもしれない。
最も、陸上戦力としてのお披露目はしばらく後になりそうだが。
海中・海上戦力の強化率が半端なくて、そもそも海を越えて島に辿り着けるのかって状態だしな。
本来のダンジョンは島の海蝕洞窟であるはずなんだけど……。
洞窟はもはやダンジョンというより、住居区兼研究所だ。一階~三階の挑戦者撃退用スペースの意味の無さよ。
レッドギルマン達によって日々着々と拡張が進んでいる分、虚しさもひとしおだ。
ちなみに、トラップの殆どはスバルさんが考案し、設置している。
スバルさん、中々容赦がないトラップ配置するから、たまにチェックを入れないと危ない。
この前確認したら、入り口に『落とし穴』『降り注ぐ酸』『飛来する毒矢』が設置してあった。
あまりの鬼畜使用に三度見くらいしたよ。
これじゃ初見殺しどころか初見皆殺しだ。直ぐに撤廃させ『飛来する毒矢』だけにしてもらった。
これならまぁ、許容範囲だろう。毒も致死性じゃなく、弱い麻痺や一時的な鈍足効果ってのにしてるし。
個人的には“食欲増幅”の毒が気に入っている。ダンジョンを攻略する以上、食料は必要最低限にしなきゃいけないのに、空腹が収まらなければどうなるか?
欲望に負けて食料を食い尽くせば撤退を余儀なくされるだろうし、空腹を堪えて進めばイライラが募り、パーティーの空気がどんどん悪くなるだろう。
実に陰険で嫌らしい毒だ。自分が使う側でいる分にはまったく楽しい効果じゃないか。
おっと、考えに耽ってフォボスの気遣いをスルーしてたわ、いかんいかん。
「あー……、心配かけてすまんなフォボス。それで、これから魔冷泉の源泉をダンジョンに引っ張る水路を作る工事を行うんだが、大丈夫か?」
「勿論です。この身は何時如何なる時も御身の為に尽くす所存です」
逞しい胸筋をどんと叩いて勇ましく笑うが、基本的に裏方に回りがちなレッドギルマン達の中には、現状に不満を持つものだっているだろう。
陸上での激しい労働に耐えられるのが現状レッドギルマンしか居ないのが問題なのだが……。
うーん、陸上用に配下を増やすか?
でも、拡張や設備の充実、研究の費用や材料なんかにもDPは使いたいし、レッドギルマンに進化する為に必要であろうドラゴン肉も安定供給できるものではない。
どうやら一定以上の強さを持つドラゴン種の肉を餌にしなければレッドギルマンルートは開けないみたいだし。
それは様々なモンスターを餌として与え続けた結果から導きだされている統計データなので、まず間違いはないだろう。
リトルフィッシュは少ないDPで多く召喚できるので、データを取るには最適だった。
こういう時、テンプレ王道では奴隷を買ったりするんだろうが、既にポーラでさえ対応も距離感も分からず四苦八苦している俺に他の奴隷を監督するなど無理な相談である。
まぁ、まだ焦る必要も無いか。
まだ300日はあるしな。むしろ二ヶ月ちょっとで促成栽培に近い勢いでダンジョン強化した俺は誉められるべき。
配下モンスター達にもローテーションで休暇を取らせているが、長期休暇制度を導入してもいいかもな。
俺も休む名目が出来るし。後でスバルさんと相談してみるか。
フォボスと雑談しながら歩いていると、目の前に魔冷泉が見えてきた。
相変わらず木葉やら木屑やらが浮いているが、水そのものは綺麗なんだよな。
独り占めしようとする野良モンスターも今日は居ないようだし、安心して工事を始めるとするか。
といった矢先、ダンジョンマスター用の簡易モニターにポップが浮かんだ。
カロンからのメッセージだ。
どうやら商船に積んであった油で帆を燃やしたらしい。それで商船団が帰れなくなり、船員達が困っているということ。やり過ぎたことの謝罪と、対応をどうすればいいか、という内容だった。
何故帆を燃やしたのかと思ったが、挑戦者を傷付けず、尚且つ分かりやすい示威行為を行う必要があると思い行動した結果だと言う。
カロンもカロンなりに考えてやったことなんだろうから、咎めるのは間違ってるな。
まぁまぁ大きい船だったし、漕いで帰れってのも可哀想だろう。
修理する間、こっちで面倒見てやってもいいか。
そもそも、俺が挑戦者を出来るだけ無傷で帰す、なんて素っ頓狂な指示を出さなければこんな面倒は起こらなかった訳だし。
ダンジョンで船を修理してあげよう、という旨を返信しておく。
ここが危険度の低いダンジョンだと思ってもらえれば、リピーターも増えるだろう。
ダンジョンは神様が人間に与える試練で、その踏破はとてつもない名誉であるので挑戦者は絶えない、という話だったが、挑戦者だって生活がある以上、ダンジョンから拾得したアイテムやお宝でお金を稼いでいるはずだ。
ここは踏破するよりも取得アイテムで稼ぐ方が美味しいと思わせれば、俺の生存率は上がる。
この辺のさじ加減は難しいかもな。
挑んだ人間が一人も帰って来ない死のダンジョンというのも憧れるが、そんなダンジョンではいずれ立ち行かなくなる。
挑戦者がいなくなればおマンマの食い上げなのだ。
ただでさえ交通が不便なんだから。
まぁ、まだオープン前だしね。
今は敵意を抱かせないまま、やんわりと退場願うのが一番良いだろう。
ちなみに、オープンする前からお宝を配置する意思はありません。何でわざわざ弱い内から強者を呼び寄せるような真似をしなきゃならんのかって話。
オープン前に突っ込んできたフライング・チャレンジャーには体験版を遊んだと思ってお宝は諦めてもらおう。体験版でレアドロップが落ちるわけ無いからね。
スバルさんとしては、宝を設置しいたいみたいだけどね。これはもうダンジョンコアとしての本能みたいなもんだろう。
カラスが光り物を集めようとするとか、食虫植物が獲物をおびき寄せるために甘い匂いを出すとか、そういうもの。
あからさまに俺に見せるように宝箱シリーズのカタログページを読んでたりするし。
だがすまんな、あと300日待ってくれ。
さて、魔冷泉をダンジョンに引っ張る作業だが、水路を作る方法と、地中にパイプを通す方法がある。
面倒なのは言うまでもなくパイプだな。DPでパイプ出さなきゃいけないし。
だが水路は水路で管理が大変だ。特に衛生面。
出来ればパイプがいいが、あー……工事が面倒。
「ワダツミ様、ならばそれ専用のモンスターを召喚したら如何でしょうか?」
「うーん、例えば?」
「モグラやミミズのようなタイプであれば地中に穴を掘り、パイプを通すことも出来るでしょうし、水路を作るのでしたら、ゴーレムなども向いているでしょう」
おぉ、脳筋系かと思っていたフォボスがめちゃくちゃ建設的な意見を!
いやぁ、俺ってば海鮮系のモンスターしか頭に無かったわ。
そうだよな、建設と言えばゴーレムだわ。
と、思ったのだが、少し待って欲しい。
水路を作るのならば、わざわざ手作業で行う必要はない。
そういえば俺、なんの道具も持ってきてないし。
うん、測量器具どころかスコップさえ無いとか、何も考えてなかったんだね、仕方ないね。
まぁ、道具なんていらん。『大海洋魔法』の水流で地面を削り流せばいいのだ。
通常なら木々の土台である地面を押し流してしまえば、森林破壊に繋がってしまうが、そこはご都合主義に定評のある異世界魔法。『大海洋魔法』の範囲指定を細かく設定することで、周囲の木々へのダメージを極力押さえつつ水路を開拓することが出来るだろう。
問題は、俺が『大海洋魔法』を使って発生する水は全て海水であるということ。
塩分って木々にとっては基本的に毒じゃなかったっけ?
塩害とか聞いたことあるんだけど、大丈夫かな?
うーん、こうなるとやっぱりゴーレムがリスクが低いんだろうか?
でもどれだけ細かい指示が聞けるのかって問題もあるしなぁ。
「随分と悩んでいるようですが……、やはりここは我らレッドギルマンにお任せ下さい。陸上こそ我らの場でありますれば、適任は我らをおいて他にありますまい」
「それだとレッドギルマン達に負担がかかり過ぎるだろ? 今どれだけの仕事を兼任してると思ってんだ? 無理するなよ」
「有り難きお言葉。ですが、ダンジョン拡張工事は一段落ついております。これ以上の拡張は現段階では難しいのです。新しい階層を作って貰わなければなりません」
んー……、そういやスバルさんからそんな報告を聞いたような聞いていないような。
DP稼ぎという名の狩りの後に業務報告とかされても、意識の半分以上寝てるからなぁ。
「加えて水路の建設となれば島の開拓と同じく行え、工兵としての訓練にもなるでしょう」
なんだか、随分熱心だな。そんなに水路作ってみたいんだろうか?
それとも、ダンジョン内で拡張工事続けている内に、職人魂が芽生えてきたんだろうか?
あるかもしれない。
何より、配下の成長は嬉しい限りだ。
「確認するが、無理はしていないんだな?」
「はい。ゴーレムよりも正確かつ緻密なものを作って御覧にいれます」
……どうやら、自分でゴーレム有りですねと提案しておきながら、対抗心が燃え上がったらしい。
フォボス、良く分からん子だな。
でも、やる気があるなら大歓迎だ。ぜひともスバルさんが納得いくものを作ってもらいたい。
「それでは、魔冷泉の水路建設に関してはフォボスに一任する。レッドギルマン達も自由に投入していい。存分に励め」
「ハッ! 必ずやご期待に沿ってみせます!」
毎度のことながら、ダンジョンマスターってだけで魔物の皆さんにかしずかれるのは悪い気はしないものの、申し訳ない気持ちにもなる。
俺ってたまたまダンジョンマスターになっただけで、そんな凄いヤツじゃないのに。
まぁ、こういうもんだと割り切るしかないか。
せめてダンジョンの皆には愛想を尽かされないように、頑張るとしよう。




