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48話




「そっちに行ったぞ! 仕留めろ!」

「はい!」


 俺の放った水弾を避けた硝子蜘蛛クリアスパイダーが、ザカザカと下生えを踏み荒らして走る。

 体長一メートルはある大型の蜘蛛で、名前の通り体を透明して襲いかかってくることを得意とする魔物だ。みためはデカいハエトリグモって感じ。

 透明といっても、うっすらと見えるし、持続時間も短いので、気を付けていれば大した敵ではない。


 今さらこんな魔物に手を焼く俺じゃあないが、今日はポーラの訓練が目的だからな。適度に弱らせつつポーラが待機している方向へと追い込むのが仕事です。


 サンドイッチを一緒に食べてから、ポーラの心の壁が少し薄くなった? 低くなった? とにかく、ちょっとだけ積極的になってくれた。

 今みたいに、声も元気に上げてくれる。


 ポーラは長柄の戦槌という独特の武器を扱っていた。振り抜かれた勢いでしなる長柄から繰り出される一撃は悲惨の一言、食らったモンスターは、その部分を爆砕させてます。

 長柄の武器は懐に入り込まれると間合いが不利であるように思えるが、スバルさんやカロンに仕込まれたポーラがそんなヘマをするはずがない。

 扱いづらそうな武器なのに、まるで敵モンスターを寄せ付けない無双っぷりだった。


 それでも、万が一にも怪我はさせたくないので、防具は『鋼鉄魚スティールフィッシュの堅鱗』で誂えた特性のスケイルメイルに変更させている。軽い、硬い、柔軟となかなかの逸品です。

 鋼鉄魚は勿論ウチの配下から拝借した。ポーラの為にお願いして、一匹から一枚づつ貰って作ったのだ。

 勿論ただでとは言わない、それなりに臨時ボーナスを与えている。ウチのダンジョンはクリーンな運営を心がけているのです。

 魚系のモンスターの鱗はすぐ生え変わるしな。

 

 驚いたのは彼女の戦いのセンスだった。

 獣人というのは皆、身体能力が高いらしい。戦闘経験が無いはずのポーラは、突進してくる大蜘蛛にも怯まず長柄で受け流し、手にした武器で危なげなく反撃していく。

 小さい体でまさかの前衛。しかもバリバリの攻撃派。何より、相手の攻撃の捌きかたが上手い。

 一応、スバルさんと訓練はしていたが、まさか、ここまでとはなぁ。こんなに強いなんて報告は上がってなかったですよ、スバルさん。


 額に長柄の戦槌の一撃を降り下ろされ、蜘蛛が動きを止める。


「マスター、やりました」

「よし、お疲れさま。良く出来ていたぞ」


 彼女の頭を撫でる。

 毎日スバルさんにケアされているポーラの髪はサラサラだ。きめ細かくて、撫でていて気持ちいい。小さなまるいケモミミの毛並みも極上だ。

 思わずうっとりしそうになるが、一人で楽しんでいる訳じゃない。ポーラも嬉しそうに目を細めているので合意のはず。


「んふぅ」


 ポーラが漏らした吐息が、どこか艶っぽく聞こえてしまうのは、俺の心が汚れているからだろうな。

 くっ、静まれ俺よ! 俺は少女に興奮しない紳士であるはず! 自分に関する記憶はほとんど無いが、きっとそうだ! 自分を信じろ!

 あれだよ、親戚の子供が無邪気に懐いてくれるのが嬉しいとか、そういう感情だな。うん。


「マスターに褒めてもらうの、気持ちいいです。もっと頑張ります」


 ほわん、とポーラが笑う。このタイミングで素敵な笑顔は狡い。なんでもしてあげたくなっちゃうじゃんか。

 イエスロリータ、ノータッチは万国共通です。

 うん、俺は変態という名の紳士かもしれぬ。


「マスター? お顔が少し、怖くなってます。ポーラ、何か悪いことしましたか?」

「あぁ、いや、ちょっと考え事を……。大丈夫、ポーラのせいじゃない。それより、今ので3体の魔物を狩った訳だけど、感覚はどうだ?」

「大したこと、無かったです。それでも戦いかたについて教えていただいたスバル様やカロン様の足元にも及びませんけど」


 HURM(フーム)... 大したこと無い、ねぇ。

 じゃあ次は俺の手助けの割合を減らしてみるかな。あんまりヌルゲーに慣れすぎちゃっても、ポーラが後々困るだろうし。


「次は、魔法も使ってみたいです」

「え、魔法も使えんの?」

「はい、エウロパ様に教えていただきました」


 ……あれ、もしかしてポーラに何もしてないの、俺だけ?

 重いトラウマを負ったであろう少女を、これ以上恐がらせない為に距離をおいたのに、まさかこんな敗北感を味わう羽目になるとは……。

 い、いや、ここからだ。俺はここから信頼を勝ち取るのだ。

 どうやらポーラもかなり俺に慣れてきてくれているようだし、ここからが俺のステージだ!


「ちなみに、どんな魔法を使えるんだい?」

「『氷魔法』です」

「おぉ、そりゃ俺と相性が良さそうだな」


 俺の魔法はいくらでも海水を生み出せるから、ポーラの氷魔法の補助ができるだろう。

 無いものを魔力で捻り出すよりも、元々有るものを変換させたほうが燃費がいいらしいし。


 俺の『大海洋魔法』、名付けを経て、『大海魔法』から強化されたのだが、これはぶっちゃけチートだった。

 ただし、ダンジョン化した海限定で、だけど。

 魔法を発動すると、広域マップのように支配下おいた海域が表示され、魔力を送り込むことで津波や渦潮、凪など自由に海の状態をコントロールできるのだ。

 勿論、今までの『大海魔法』と同じように使うこともできる。

 俺のダンジョンに来るためには、船で海を渡るしかない。俺はその海を支配している。

 これは勝ち確ですわ。


 海水を自由自在に操作できる俺が、ポーラの『氷魔法』を補助することで、驚くほど低燃費な魔法が実現するだろう。

 使い込めば能力は習熟していく。ポーラは更に強くなれるわけだ。


「マスターと協力ですか……、そんな、畏れ多いです」

「いやいや、固く考えないでくれ……って言ってもまだ難しいかな? うん、追々でいいよ」


 しかし肝心のポーラが萎縮してしまった。残念。まだ新密度が足りないようです。

 ダンジョンがオープンするまでには仲良くなっておきたいもんだ。



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