33話
あれから更に数日続いた嵐が過ぎ去り、晴れ間が見えたのは、ダンジョンオープンまで残り342日になった時だった。
思えば、俺は異世界でもう18日、半月以上も過ごしているのだ。
いやー、暇で暇でDPが危うく全部漫画になる所だったよ、あー、晴れて良かった。
俺は久しぶりに洞窟の入り口まで来て日光を浴びていた。
島に上がっても良かったんだが、嵐の通過した爪痕が酷かったからな。
地面もぬかるみまくっていたし。
その内コアさんから『魔冷泉を掃除せよ』というクエストが
張り出されると思うので、それまでここでゆっくりするのだ。
掃除とはモンスターを相手にするということではない。嵐で吹き飛ばされたり折れたりして飛んできた枝や木、木の葉やモンスターの死骸などを取り除く作業のことだ。
本気の掃除である。
面倒なので、ここでしばらくバックレるのだ。
どうせコアさんにはダンジョンマスターの居場所が直ぐに分かるから、仕事を頼む気になったら来るだろう。
それを無視して島に上がってしまう方があとあと大変なのだ。
コアさんが拗ねて怒るから。
拗ねたコアさんの機嫌を取ることは難しい。
あの子は理屈屋だからな。
今嬉しいことと先程怒ったことでは話が別です、と簡単には許してくれないのです。
「主、コレハドウデショウ?」
ブルーサハギンの一人が俺に動物の頭蓋骨を差し出した。
「あー、そりゃ要らんな」
「ソウデスカ、モット探シテ参リマス」
今の奴で八人目か。
ふふふ、俺は何もせずにバックレている訳ではないんだよ。
嵐の次の日には、海岸に様々な物が流れ着く。
それをブルーサハギン達に取りに行かせ、俺が検分しているのだ。
まぁ、ろくな物が無いが。
この世界のコインの一枚でも有れば、と思っていたんだけど、そうそう上手くはいかないか。
島の海岸線の半分は既にダンジョンの領域だ。海の部分もそこから伸びて五キロメートル程は環境型ダンジョンにしている。
三万ポイント以上も貯めてあまり拡がっていないと普通のダンマスならば思うだろう。
だが違うのだ。
俺は海の表層部分だけではなく、ダンジョンと通常の海をミルフィーユのように挟み込むようにして拡げているのだ。
こうすることにより、魔力が溜まりづらいという環境型ダンジョンのデメリットを抑えつつ、通常の海部分を、漏れ出る魔力を利用し0DPでダンジョン化出来るという訳だ。
それに、広い海全体をダンジョン化して支配できるわけも無いしな。ほどほどでいいのよ、ほどほどで。
あと五キロから十キロほどは広げたいなーと思ってるけどね。
でも半径十五キロ程で障害物も何も無い環境型のダンジョンなんて有り得ない、とコアさんには言われてしまった。
そこについても考えがあるんだよ。と言えばちょっと不満そうにしながらも納得してくれたけど。
俺の考えが読めなかったのが気に入らないんだろうな、あの態度は。
「主よ、少しよろしいでしょうか」
「おぉ、カロンか、沖の方へ巡回してたんじゃなかったのか?」
ボーッと日光浴してた俺の前に引き締まった肉体の男が恭しく跪いた。
急ぎの時はいちいち跪かなくていいって言ってあるから、緊急性のある用事ではないか。
「はい。その巡回の際に興味深い物を拾いまして、是非とも主に献上したいと馳せ参じたのでございます」
そう言われると興味が湧くね。
あの嵐は随分激しかったから、文明圏から何か流れてないか期待してたんだよ。
ブルーサハギンやオクトリッド達と人間の俺では少々価値観というか、感性が違うから、なかなか目当ての物を探してきてくれないけど。
人間と関わりのあるっぽいものというフワッとした指示じゃ分かり辛いよな。すまん。
しかし、カロンが拾ってきたものならば、他の奴等が拾ってきた物よりも期待できるな。
「ほほぅ、俺の目はちと厳しいぞ?」
「きっと気に入って頂けるでしょう。ドリー」
カロンが呼び掛けると、カロンの愛ドルフィンであるドリーが俺の前に泳いできた。
その背中には俺への献上物とやらが括り付けられている。
それを見た瞬間、俺の目は点になった。
「こちらになります。どうでしょう、我が主」
「お、おう……」
いいぞ、とはちょっと即答出来ないな。
俺は確かに人間と関わりのあるっぽいものを持ってこいと命令した。
文明圏の情報が少しでも欲しかったからね。
でもまさか……。
「ご安心下さい、まだ生きております」
生きている人間を拾ってくるとは……。