32話
ドラゴンを討伐してから、DPと魔冷泉を稼ぐ日々が続いていた。
が、それも今日はお休み。
何故なら、外が嵐だからです。
とんでもないね。
洞窟に荒れ狂った波が押し寄せて来るから、貯めたDPの一部を使ってダンジョンに蓋をしました。
もしもダンジョンがオープンしてたら、蓋は出来なかったそうだ。
そうなったら誰も入れなくなっちゃうもんな。挑戦者は何時でもウェルカムなのがダンジョンです。
しかし、波や風が強い。立地的に少し嵐対策をしとかないと不味いかもな。
もちろん、配下モンスターたちも全員収容している。
カロンを筆頭としたブルーサハギン達が洞窟内の拡張を頑張ってくれたから、増えた配下たち全員が避難してもまだ余裕があるほどだ。
問題は一つ、暇だ。
ベッドでゴロゴロする以外にやることがあまり残っていない。
毎日働き過ぎて、じっとしていることが苦痛に思えるようになってしまった……。
コアさんはテーブルで本を読んでいる。
『ダンジョンの育て方』だ。ダンジョンコアがダンジョンの育て方読むとかなんかシュール。本人は勉強になるとか言ってるけど。
ただ、本を読んでいる最中のコアさんが掛けている伊達眼鏡がなんか色っぽくて好きです。
いくらでも眺めてられるわ。
「……せっかく貯めたDPも、外が嵐では使用できませんね」
俺の視線に気付いたコアさんが本をパタリと閉じてこっちに来た。
俺が寝そべっているベッドに腰掛け、小さく笑う。
俺がダンジョンと魔冷泉を往復する日々を過ごして約1週間。
貯まりに貯まった今のDPは、現在36900ポイントです。
生活必需品を取り寄せたり、配下モンスターを増やしたり、海のダンジョン領域を拡げたりしたからそれなりに使ったけど、まだ36900ポイントもあるのだよ。ふはははは!
因みに、増えた配下はオクトリッドたちの部下にオクトパスとリトルスクイッドを三十匹づつ、ブルーサハギン達の部下にサハギンを三十匹。
ついでに小魚、小ガニ、海藻、二枚貝も各百匹づつくらい増やしました。
しかし、増員したモンスターの目玉はなんと言ってもドルフィン!
召喚した数は十体。現在はそんなに強くないけども、機動力に優れているので領域内を巡回しているブルーサハギン達の騎馬になっています。
本当はマーメイドを召喚したかったんだけど、コアさんの目を気にして選べなかった……。
俺ってヘタレ……。
「そうだなぁ……。この島って、こんな大きな嵐によく襲われるのか?」
「申し訳ありません。私がダンジョンコアとして生まれたのは、マスターがこの世界に来てからですので、分かりません」
ウッソ、マジかよ。
コアさんって0歳なのかよ。
色んなこと知ってるから俺より年上だと思ってたわ!
「この世界とダンジョンについての知識は神によってダウンロードされたものです。一般的な知識は、その後覚えたものになります」
コアさんは本を指差した。
あぁ、それで熱心に『ダンジョンの育て方』を読んでいたのか。
あの本は知りたいことが書き出されていくからな。
しかし、神様ねぇ……。
正直に言って、胡散臭いと思ってるわ。
ダンジョンが神様の試練とかね。何を考えて人間のレベルアップを推進してるんだよって話。
俺は望んでこの世界に来たらしいし、帰る当てもつもりも無いから良いんだけどさ。
他のダンジョンマスターもそんな感じなのかね。
「このダンジョン以外については、私にも情報が開示されていません。ダンジョンがダンジョンを侵略することを防ぐ為の措置であるようです」
「ふーん、ダンジョンがダンジョンを、ねぇ。そんなことわざわざする奴がいるのかね?」
「過去には何度かダンジョン同士の衝突があったようです。また、ダンジョン同士の交流もあったようですが」
「交流か……、それは少し面白そうだな」
「古く巨大なダンジョンには、国として扱われる物もあるようですから」
「環境型なんだろうな。ウチも国として認められる所を目指してみるか?」
「心にも無いことを。私はマスターの思考を共有出来るのですよ?」
「コアさんがそうして欲しいなら頑張ってみるけどね」
激しい嵐の音が洞窟の中に響く。
俺とコアさんはお互いの間に流れる、なんとも言えない感覚を楽しみながら、その音を聞いていた。
こんなにのんびりしたのは、久しぶりかもしれないな。
「コーヒーでも淹れましょう。熱く苦いのがお好みでしたね」
「じゃあ俺は茶菓子でも探すかな。たまには贅沢品にDPを使おう」
「たまには、そんなのも良いかもしれませんね」
なんか、長年連れ添ったけどまだまだお互いのことが好きであれる夫婦のような会話だな……。
もう子供が成人して家を出てて、旦那はもう仕事を退職してる。毎日のんびりと過ごし、一緒にいることが煩わしくなく、それでも当たり前で……。
……なんだろうな、この感覚は。
焦りに駆られるような、苛々するような……。
暴れて喚いて全部叩き壊したくなる。
俺が捨てた記憶に関わりのあることなのか?
こんな、穏やかで幸せな時間が、俺にとっては忌まわしいものなのか?
思い出せねぇ。
自分から捨てたんだから当然なんだが。
本当は、捨てちゃいけなかったんじゃないのか?
俺は、なぜ自分の全てを捨てて異世界なんぞに……
「マスター? コーヒー淹れましたよ、お茶菓子は決まりました?」
「あ、あぁ、いや、すまん、まだなんだ、迷っちゃってさ、あはは……」
俺の強い思考はコアさん聞こえてしまうんだよな。
今の、聞こえてなかっただろうな?
「コーヒーが冷めてしまう前に決めて下さい。私はチョコレートケーキを希望したいのですが」
「ずいぶん重いもん行くな、俺は、どうしよっかな……」
まぁ、今はいい。
捨てた過去に囚われる時じゃない。
この穏やかな時間を満喫しようじゃないか。
いつか、向き合わなきゃいけない日が来るかもしれないとしても。




