31話
「足りません」
鳥のモンスターを持って帰ってきた俺に一言、コアさんがどう言いました。
「はい?」
「足りないのです」
「コアさんや、何が足りないと言うのかね?」
「ダンジョンの領域、DP、魔冷泉の水です」
それって今なんとかしたいものの殆ど全てじゃね?
いや、なんで魔冷泉の水が欲しいのか分かんないけどさ。
コアさんが集めてくれって言ったから集めてるだけだし。
「魔冷泉の水は魔力を多く含んでいるので、ダンジョンの成長や配下たちの強化に使用できます。今回は私の成長に使いたいのです」
「そういや、聞いてなかったけど、ダンジョンが成長するとどうなるの?」
モンスターたちの強化ってのは分かりやすいんだけどね。タコがタコ人間になったようなもんだろう。
オクトリッドやブルーサハギン達の部下にあたるモンスターも召喚してやりたいよなぁ。
そうすりゃ作業効率もアップするだろう。
今急いで取り掛かって欲しいのは住居の建設だから、腕力がある程度あって、器用な奴がいいな。
「ダンジョンの成長では、召喚出来るモンスターや設置できる罠、拡げられる領域の拡大等があります。ですから、魔冷泉が必要なのです」
「コアさんや、何度も言うが大事なことは早めに教えておくれ」
今回三十リットル持ってきて足りないということは、あとどれだけ運べばいいのやら……。
取り敢えず鳥のモンスターをDP変換しときましょう。
“侵入者を討伐しました!
1000DP獲得しました”
1000DPなのに妙に少ないと感じてしまう今日この頃。
ドラゴンと比較しちゃいかんね。
残りDPは3900ポイントか。
ダンジョンの成長にDPは使えるのかね?
「出来ますが、効率的とは言えないでしょう。侵入者を撃退、もしくは討伐する、魔力を吸収する、などがダンジョン成長の基礎となります」
つまり魔冷泉の水で手っ取り早く魔力を吸収してしまおうとしているのね。
このダンジョン、オープンまでにあと358日有あるんだけど、そんなに強化しといていいの?
いや、ダンジョン攻略のために此処まで来る奴が多いとも思えないんだけど。
「訪れ難いからこそ、辿り着く者はより高いレベルの者となるでしょう。だからこそ、残りの期間で出来る限り成長しなくてはならないのです」
そういうもんか。
まぁ、この世界のダンジョンは踏破することが何物にも変えがたい名誉らしいからな。
難しいダンジョンであればあるほど自信がある者は挑みたがるんだろう。
そこらへんはまったく情報がないからなぁ。
コアさんから聞いた情報のみだと、それが偏っていた時にどうしようも無くなってしまう。
とにかく、俺もこの世界でダンジョンマスターをやる以上、マイホームを簡単に攻略させてやるつもりはない。
強くなることに否やは無いさ。
「じゃあ俺はまた水を汲んでくるよ。その内配下モンスター達の仕事にしたいね」
「ダンジョンが成長すれば、それも簡単になりますよ」
「早くそうしたいよ、まったく」
結局俺はコアさんが満足するまでダンジョンと魔冷泉を行ったり来たりする羽目になったのである。
追加で樽を召喚したり、魔冷泉を狙って来る野良モンスターをDPに変えてやったり、汲んできた水に泥が混じっていたと怒られたり。
たっぷり魔冷泉の水が集まる頃にはDPも大分稼げていましたよ。
コアさん、一挙両得を狙っていたな……。