22話
『大海魔法』による反撃を決意した俺がやることは一つ。
窮地に陥ったある漫画の主人公が言っていた。
こういう時にできるたった一つのことがあると。
それは……。
「逃げるんだよぉーッ!」
逃走である。脇目も降らず、一心不乱の逃走なのだ。
しかし間違えてはいけない。
これは逃走であって、逃亡ではない。
戦略的撤退なのである。
つまり、決してへたれて逃げたわけではないのだ。
そこを間違えてはいけない。
「グァ? グゥアアアア!」
ドラゴンは一瞬呆けていたが、すぐに俺を追いかけ始めた。
やっぱり足が早い。それに頑丈な体に任せて、邪魔な木を薙ぎ倒し一直線に向かってくるから、木々を避けながら走っている俺よりも無駄がない。
木々を薙ぎ倒しているって時点で限りある資源を無駄にしているがな!
ドラゴンが追い付きそうになったら。
「『潤滑水域』!」
どうやら『大海魔法』は生み出した水に特性を付与することが出来るらしい。
あまり“水”という概念からかけ離れたものは出来ないようだが、そこは現代日本に居たという記憶が残っている俺。
水をテーマにした作品や、水が様々なものに変わったり、色々な効果を持ったりする漫画・アニメの記憶だって残っているのだ。
……俺がどんな生活をして居たのか、あまり思い出したくないな。
今生み出したのは滑りやすさを強化した水溜まり。
これを踏みつければ、全力で走っているドラゴンは一溜まりもなく……。
「グォオオ!?」
転ぶ。
馬鹿なドラゴンだぜ、これで少しは時間稼ぎが出来るな。
「グアアアアッ!」
と思っていた時期が僕にもありました。
地面を隆起させる土魔法で転びかけた自分の体を支え、何事もなかったかのように、いや、更に怒りを燃え上がらせて俺を追ってきている。
くそ、便利だな土魔法。
地面がある所じゃ無敵なんじゃないの?
くそ、ドラゴンのペースが上がりやがった。
あれでまだ本気じゃなかったのか!?
やばい、追い付かれる!
「ぐぁあああッ!」
頭で突き上げられ、俺は宙を舞った。
全身がバラバラになるかのような衝撃。
内臓がめちゃくちゃに暴れ、まるで自分の体じゃないみたいだ。
でも、まだ生きてる。
咄嗟に展開した『柔らかな水』が間に合わなければ即死だった。
転生トラックに跳ねられるってこんな感じなんだろか。
だとしたら転生者の皆さんはよくもまぁこんな痛みに耐えて新しく生き直す気になれるな。
俺はもう立てない。足に感覚が無い。
でも諦めたらそこで全部終わってしまう。
俺が死んだらコアさんだって死んでしまうのだ。
這いずってドラゴンから距離を取ろうとする。
ふらふら顔をあげて、そこで自分の顔色が変わるのが分かった。
崖だ。
俺はもう追い詰められていたのだった。




