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01話


 目が覚めると、まったく見たことのない場所にいた。

 ここは、洞窟か?


 上から鍾乳石がぶら下がり、水滴をぽつりぽつりと落としている。


 ひどくジメジメしているな。

 いったい何なんだ、ここは何処だ?


 体はじっとりと濡れているし、辺りは磯臭い。

 ということは海蝕洞窟というヤツなのか?


 俺はいったいさっきまで何をしていたんだ……?

 見覚えのない洞窟に居るってことは、眠る前は此処に居なかったってことだよな?


 何も思い出せない。


 体を起こして周囲の状況を確認する。

 今更ながら、洞窟の中にザザーッと波の音が反響しているのが分かった。

 やはりここは海が近い。

 海蝕洞窟で間違いないだろうな。

 ということは、直ぐに行動しなければ、潮の満ち引きの関係でここが水没するかもしれないということだ。


 ヤバい。命の危機だ。


 さっさとここから避難したいのだが、もう少しだけ周囲を確認しよう。

 もしかしたら俺以外にも此処に誰か居るかもしれないし、役立つものが落ちているかもしれない。


 多分だけど、俺は事故か何かに巻き込まれてここに漂着したんだろう。

 だったら、同じような境遇の人もいるかもしれない。


 そう思い、俺は歩き始めた。


 この洞窟は縦に長く、真ん中に侵食した海が流れ込んでいる。まるで運河のようだ。

 俺が倒れていたのは、通路のように残った岩肌の部分。

 ここも波に削られているようで、つるつるになっていた。


 寝ているうちに海に落ちなくて良かったわ。


 奥に向かうルートが僅かに上向きに傾斜していたので、取り敢えずそちらを目指してみる。


 入り口はここから覗き込めるのだが、陸地などはなく波がざばざば荒れていた。

 あれは無理だ。

 泳いで島の上陸地点を探そうとも思ったけど、その前に溺れる。間違いない。


 上を目指していけば、もしかしたら上手いこと地上に出られるかもしれないし。

 まぁ、たぶん望み薄だけど。

 とにかく満潮になってこの洞窟が沈まないことを祈ろう。




 しばらく歩くと、小部屋のような空間が広がっていた。

 空気がいくぶん乾燥しており、ここまでは海水が入ってこないことが分かる。

 うん、外に出る道はなかったな。

 ここが終着地点をか。


 座って体を休め、現状を確認する。


 まずはどうして自分が此処に居るか?

 ゆっくり思い返してみると、僅かながらに記憶が戻ってきた。


 俺は確か、親父の船を借りて海釣りをしていたんだ。

 ちょっと風はあったが、波はそこまで高くなかった。

 天気は晴れで、ぽかぽかとお日様が心地よく、俺は気儘に船を走らせてポイントを探していた。

 一時間くらい海の上をぶらぶらして、ようやくポイントを決めて釣りを始めた。

 音楽を聴きながら、半分寝ているような気持ちで釣糸を垂らしていたら、突如衝撃が来て、船がひっくり返って……。


 覚えているのはそこまでだな。


 じゃあ、次は現状把握だな。

 財布、スマホ、無し。恐らく海底に没しました。


 手持ちの食料は無し、飲料水も無し。

 こっちは行き止まりで、反対側は波が激しい海。


 とくればこれはアレですね。

 遭難からの餓死コース一直線ですね。


 ……短い人生だったなぁ。


 鬱々とした気持ちで座り込んでいると、俺の目の前の地面から、ぼこり、と不思議なものが顔を出した。


 それは、例えるならバスケットボール大の水晶だ。

 深く透き通るような青色で、見ていて引き込まれそうになるほど美しい。


 触れるのは躊躇われるなぁ……。


 いきなり地面から出てくるとか怪しいことこの上ないし。

 タケノコじゃないんだから。


 まぁ、綺麗なんだし眺めるだけならば害はないだろう。

 この漂流生活の癒しにしよう。

 しばらく放置し眺めていると、水晶が一瞬光ったような気がした。


 疑問に思い近付くと、アイコンが表示された。

 水晶の上に。



 はぁ?

 アイコンって、あのアイコン?

 ここをタップしてください、みたいな場所を示すマークだよね?


 何これゲーム?

 もしかしてドッキリとか?

 一般人を理解できない状況に追い込んであたふたする所を見て楽しむような悪趣味な特別番組でも収録してるんだろか?


 うーん、どうするか……?


 いやまぁ、あまり選択肢は無いんだけど。


 ここは触ってみますか。

 どうなるかは分からんけども、何もせずこのまま餓死するのも、怪しいものを触ってその影響で死ぬのも変わらないだろうしね。

 これでバチぃ! とかなればドッキリ確定だ。


 面倒くさいんで早く終わらせてくださいよー。


 俺はそんなことを念じながらその青い水晶に触れた。




 それが、すべての始まりだった。




 


 

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