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黒猫の護衛くん

「あら? お早うございます、雪代先輩。本当に来てくれるとは思ってもいませんでしたわ」

ーー朝、学園に来たら、“黒猫”を護るなら授業に出ても、学園長達には話はつけてあるから出なくても良いと風紀委員の長に言われ、一限目は先生に質問はなかったため、こうして図書室に来ている訳です。

ーーなかなか、“黒猫”が護衛をつけないことに困っていたと言う風紀委員長。でも、その困った笑顔には何か風紀委員長の本質が隠されているような気がして、本当のこの人は副委員長に尻にひかれるようなタイプなのではないと確証のない勘が働きましたが、嫌な予感が同時にしたので言いませんでした。口は災いの元と言いますしね。

ーーそれに、光彦に忠告されたばかりなのであまりお節介な行動は控えなければ……。

「あら、先輩ってば考えごとですか?」

考えごとをしているうちに、いつの間にか近づいてきたのか、菜乃の顔が近すぎるくらいまで距離を詰められていた。そのことに、雪代は顔を赤くして菜乃から勢い良く離れた。

「あらあら、先輩。明智光彦先輩から忠告されてないのかしら? 私は確かに護衛を必要とされる身だけれども、別に戦う手段がない訳じゃないんですわ。それに、この学園に敵など入れる訳がないんですけれど」

そう言って、菜乃は不敵に笑う。

その笑顔に雪代は思わず肩を揺らし、音を立てて唾を飲み込んだ。

「……この学園に敵など入れる訳がないとは、どう言うことなのでしょうか? 菜乃さん」

そう問えば、そう素直に聞く雪代が可笑しかったのかクスクスと笑いながら菜乃はこう答える。

「あら、先輩なのにさん付けですの? 呼び捨てでも構わないのに。まあ、良いですわ。質問に答えましょう、答えは簡単だわ。今の風紀委員長は私と同じく、今ついている役目を果たすために呼ばれた生徒。つまりは私は図書室の管理を、彼は風紀委員長の役目を果たすためにこの学園に呼ばれたということ。

それならば、自ずとわかるはずだわ。風紀委員長の器として相応しいと判断され、私に敵など入れる訳がない、入ったとしても彼に敵うはずがないと思うほどの実力者である彼ならその相手が不審な行動をした瞬間、それはもう彼の手のひらの上でコロコロと転がされている段階に既に入っているのよ。

彼にも色々あってね、わざと我の強い副委員長を選んだのよ。普段は尻にひかれていれば、その能力に嫉妬されるのも少なくなるでしょう? 普段は気弱な人だけど、彼の本質は違うわ。優しい人だからこそ、あの人は残酷なのよ」

まるで家族のことを話すかのような優しい目で、穏やかな声で話す菜乃を見て、何故か雪代はもやっとした感情を感じた。気のせいだったと思うことにした彼は、そうなのですか……とそう相づちを打った後、

「菜乃さ……いえ、菜乃ちゃんはどうして図書室の管理を任されているのですか?」

雪代はまた質問をする。

ーーあら? 珍しく、私興味を持たれているようね。どうしてかはわからないけど。

そう考えながら菜乃は、

「それはね、空間魔法が得意だからよ。空間魔法を使える人はなかなかいないのを、雪代先輩だって知っているでしょう? だからこそ、こうやって一箇所に留まっている方が風紀委員達も護りやすいと言う理由もあるんでしょうね。それに古代文字の書籍の翻訳、管理の仕方を学んでいるからとも言えるから、本当の理由は私にもわからないけど」

クスクスと笑っているが、さっきまでの表情とは一変して、何も考えていないかのような笑顔。楽しくてでもなく、悲しいからこそ笑っている訳でもなくただ笑っているだけ。

ーー“黒猫”が人を寄せ付けない理由がお前はまだわかっていないから、気をつけろよ。

そう言う雪代の親友である、光彦の言葉がまるで録音されているかのごとく、今言われているかのように鮮明にその言葉が脳内で流れていく。


「愛されてるのね、雪代先輩」


そう言った後、何ごともなかったかのように、髪を耳にかけるような仕草をした後に菜乃は本を読み始めた。

雪代には菜乃の言葉の意味が理解出来なかったようで、首を傾げながらも気になっていた本を手を取り、周りを警戒しながら本を読み始めたのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


雪代が図書室から一時的に去ってから数分後、菜乃はパタンと音を立てるように本を閉じて、

「随分と過保護なのね、相変わらず。どうせ、私のことを探りに来たのでしょう? ここは私の管理する“領域”よ、例え“情報屋”で気配を消すことに長けていても私の空間管理能力をなめないで欲しいわ。貴方の気配を察することは容易いことよ、探るなら好きになさい。

……まあ、彼を私の側から離して、後悔するのは貴方よ、明智光彦。冷静になりなさい、事態はかなり複雑よ。今の事態は、優しい雪代先輩には不適合な事態よ。貴方は私が雪代先輩を庇うのは気紛れだと思っているみたいだけど、面倒ごとに気紛れで関わるほど“黒猫”ではないわ。まあ、それを教えるほど私は甘い女ではないの、これでとりあえずは満足してくれるかしら?

やっと手に入れた自由なの、面倒ごとなんてごめんだし、今の環境を失う訳にもいかないのよ。それからこれ以上私と“風紀委員長”の周りを嗅ぎまわるような行動をしたら、雪代先輩の近くにいられなくなるわよ。これは脅しじゃないわ、忠告よ。私達が望んでいないのに、私達にちょっかい出す人達はすぐに別の学園に行ってしまうんだもの。

私も、私達のせいで転校する姿を見るのも、友人関係を裂くようなことを間接的にしてしまうのも私達にとっても苦しいことなのよ。“情報屋”、雪代先輩の側にいて友人として側にいたいのなら、私達の前で堂々と調べないことね。好奇心は時に自分の身を滅ぼすもの、“情報屋”として何処までの情報を知り、何処までその情報を調べるのをやめるのかその境界線の見極めが必要となってくる。あまり自分の力に過信しないことね、“情報屋”として活動したいのなら転入生あのこには気をつけた方が良いわよ……」

菜乃はそう言った。その後、また何ごともなかったように本を開き、視線を本へと戻した。

光彦は聞いているか定かではない菜乃に対して、面倒くさそうな声色ながら、頭を掻きつつ、

「……っ! 調子が狂うわー! しょうがないな、……去り際に気をつけながら転入生を調べてみるよ」

菜乃の返事も聞かず、光彦は魔法を使って消えた。その魔力痕を感じたのか、それとも本を読むふりをしていたのだろうか、それは彼女にしかわからないことだが、光彦がこの図書室から去ってから直ぐに顔を上げて、無表情だったその表情を和らげてパタンと音を立てて本を閉じた。


それからまもなく授業の終わりを告げるチャイムがなった。場所は変わり、雪代が毎日通う教室にて、彼は慌てるように鞄に荷物を入れて、早く図書室に向かおうと教室を飛び出そうとした。

そんな雪代の腕を掴み、それを阻もうとする転入生あのこに対して非道になりきれない優しすぎる彼はその手を振り払うことが出来なかった。

その優しすぎる雪代の性格をわかっているのか、にっこりと勝ち誇るように笑う転入生あのこ

振り払わなければ、そう焦った瞬間、雪代の周りだけ淡い緑色の光に包まれて、気がついたら教室の前の廊下にいたはずなのに、もう転入生あのこはおらず、彼は来ようとしていた図書室の中にいた。

「非道になれとは言わないわ、転入生あのこは貴方の性格を知っていてあざといと思うくらいの仕草で貴方のことを引きとめようとしているのが良くわかるもの。だから、貴方は私の護衛だけれども、私を面倒ごとから守るためには貴方のことも守る必要があるの。つまり、転入生あのこから逃げられないと思ったら直ぐにそう思いなさい。そしたら、貴方のことを学園の何処かであったら図書室まで運ぶことが出来る。頼って欲しいわ、雪代先輩。それが木の精霊の意志だから」

たまに菜乃は、木の精霊の意志だからという言葉を口にする。雪代を守ることと、木の精霊の意志とどう関係しているのかは彼女の口から語られる限りはっきりとわかることではない。それを良くわかっている雪代は、質問を答えることを拒否される覚悟でこう聞いた。


「木の精霊の意志とは、どういうことなのですか? 菜乃ちゃん」


その言葉に、菜乃はまた開いていた本を閉じて無表情で雪代を見つめた。







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