太陽を大切に
『宇宙発電所新燃料係ウチヤマダ @Space tec2 12:35 オーちゃん、地球からウラン燃料到着。予定時間どおりだ。』
俺のヘルメットの中で目の前に文字が立体的に表示された。
『宇宙発電所バックエンド係オウミイケ @Spece command1 12:28 』
続けて、俺のハンドルネームが表示され、入力待ちとなる。
『ヤマちゃん、了解。ゴミも用意できてる。燃料を下ろしたら、すぐに積み込み開始する。』
ヘルメットの中で俺が話した言葉は、そのまま文字になって送信された。
外は放射線が強く、電波が通じないので、光通信で会話するのだ。
もちろん、音声で会話することも可能だが、間違えがないように、文字で通信するのが習慣となっている。
ふと気づくと、返信が入っている。
俺は、アイコンタクトで、それを表示してみた。
『流離のジョー @lost joe 12:31 年に1回の燃料交換ですね。頑張ってください。望遠鏡で追跡中です^^』
熱心なフォロワーの一人が、ツイートしたようだ。
忙しいが、お礼の返信をしなくちゃな・・・
『宇宙発電所バックエンド係オウミイケ @Spece command1 12:37 いつもフォローしていただき、ありがとうございます。廃棄物は、あと約1時間後に射出予定です。』
俺はため息をつきながら、返信のツイートをつぶやいた。
忙しい最中ではあるが、こういう事業は、人々の理解を得るために、広報活動も重要なのだ。
ここは、地球と太陽の中間。地球のエネルギー基地である。
人類は、原子力エネルギーを開発したが、度重なる事故によって、地球は徐々に放射能汚染がひどくなっていた。
また、地域の住民の反対が激しく、新たな原子力発電所の立地はほとんど進まなくなっていたし、「トイレのないマンション」と揶揄されるように、使用済み核燃料廃棄物の捨て場所の確保も、困難を極めていた。
そこで、宇宙空間に原子力発電所を建設しようという計画が立ち上がったのだ。
地球から遠く離れた宇宙空間では、放射線が放出されても、地球にはほとんど影響がない。また、使用済み核燃料廃棄物は、そのまま天然の核融合炉である太陽に送り込めば、自然に分解して処理できる。
ついでに、再処理工場も作ってしまえば、有限な資源であるウラン燃料も相当長期間にわたって人類が利用することが可能となる。
発電した電力は、地球の人工衛星を経由して、マイクロウエーブで地上に送電される。
発電所の建設資材とウラン燃料は、地球から送り出す必要があるが、得られるエネルギーが大きければ、それほどの問題ではない。
打ち上げが失敗した時の環境汚染を問題視する向きもあるが、天然ウラン自体は放射能は強くないので、例え地球上に落下しても、過去に起こった原子力事故と比べれば大きな被害にはならないであろう。もう、地球はそれ以上に放射性物質に汚染されてしまっているのだから・・・。
俺は、地球から送られてきたウラン燃料を収めていたカプセルに、使用済み核燃料を積み込んだ。
このカプセルを、太陽に向かって放出するのだ。
『宇宙発電所バックエンド係オウミイケ @Spece command1 13:44 ごみを積み込んだ。これから放出する。』
俺は、カプセルの射出ボタンを押した。これで、今年の燃料交換作業は無事終了。
あとは、太陽がゴミを分解処理してくれるだけである。
『宇宙発電所新燃料係ウチヤマダ @Space tec2 15:22 オーちゃん、なんだかアカウントが騒がしいぞ。』
一仕事終えて休憩しているところへ、相棒のヤマちゃんからツイートが入った。
俺は、ヘルメットの中に、宇宙発電所のアカウントのツイートを表示させた。
『流離のジョー @lost joe 14:52 その気持ちは分かりますが・・・』
『太陽 @The Sun 14:53 私としても、神と崇められたこともある身でありながら、ゴミ捨て場にされるような屈辱的なことをされるのは我慢がならないのです。』
『宇宙の孤児 @lonely space child 14:55 でも、人類としてはやむを得ないのです。』
『太陽 @The Sun 14:56 いや、人類に猛省を促すため、私は天の岩戸に隠れようと思うのです。とりあえずは24時間ストライキをします。』
・・・なんだ、こりゃ。
また変な遊びが流行っているらしいな。
『宇宙発電所バックエンド係オウミイケ @Spece command1 15:31 ヤマちゃん、また何か新手の遊びが流行っているようだね』
俺は、そうツイートして、あくびをした。
その翌日、日食でもないのに、太陽が突然暗くなり、昼間に星空が見えるという現象が世界中で24時間続いた。
原因不明のこの現象に、世界中が大騒ぎになったが、このツイートを気に留めた人がどれだけいただろうか。
『太陽 @The Sun 14:59 もし反省がなければ、数億年隠れていようかとも思っています。』