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8,死線交差

 さぁさぁ、『義妹 VS 殺人鬼』のはじまりはじまり。

 

 私が、光を失ったのは、紅い、紅い、生暖かい雨の夜だった。

「………あ」

 その一面の紅の光景に、思わず声がこぼれる。

 それは、紅い雨……とでも言うべきだろうか……。

 それは一時的なものではあったが、たしかに雨であった。

 ただ一人を中心に降り注ぐ、何とも鮮やか過ぎる紅い雨。

 それが止んだ後、生暖かい紅い水溜まりの中心にそいつはいた。

 ただ立っていただけのそいつは、全身を紅く染め上げ、その紅に染まらぬ強い朱の瞳を輝かせ、たたずむそれは、思わず見とれるほどに、狂おしいほどに、猟奇的なまでに美しかった……。

 でも、それは、たしかに、どうしようもなく……

「……私……?」

 ガラス張りの窓に、まるで鏡のように光が反射して映し出された、……私だった。

「………あ」

 自分の手を、髪を、肩を、体を、抱き抱えるように、その感触を、感じ始める。

 紅く染まった色。

 体を覆う生暖かさ。

 耐えがたいまでの生臭さ。

 どうしようもない、悦楽感、快楽感、高揚感。

 身体が熱を持って、衝動を持って、訴えかける。

「…………あ、…は…は……」

 どうしようもなくこぼれ出る『私』という何か……。

 ふと、もう一度、確かめるように、そして認めるために、鏡を見る。

「……あは、…はは……」

 そして、そこに映る『私』は…―

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…―」


 ―たしかに、笑っていた。




    ◆




「どうしたんですか?」

 ふと、かけられた声に、無駄に嫌な記憶に浸っていた意識が呼び覚まされる。

 わずか数歩先にたたずむ黒髪をたなびかせるそれに、私は意識を向けた。

「私を呼び出したのは貴女でしょうに、私を呼び出すくらいなら、……殺る気なんでしょう?」

 そんなに気を抜いてていいのですか、殺っちゃいますよ。……と、口調やイメージできる顔に似つかわない言葉に少し、……というか、凄い戸惑う。

 だってこいつは何かお嬢様キャラだとか何かそんな感じだと思ってたら案外そうでもないんだもん……。

「……まぁ、いいか……」

「……?何がですか?義妹?」

「……義妹言わないで下さい」

「義妹でしょう?」

「貴女の義妹ではないです」

「今は、ですね」

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味ですよ」

「……そうですか」

「これでも私、朋夜を気に入ってますから」

「兄さんに手を出すなら私が例外なく殺しますよ?」

「怖いですねー。さすがブラコン」

「ブラコン言わないで下さい」

「ブラコン」

「…………」

「ナイチチ」

「…………っぐ」

 ……たしかに無い……。

 ……は。……落ち着け。とにかく落ち着こう。

 何かもうすでに闘う前から負けてるような気がしてならないが、とにかく落ち着け。

「とにかくっ!貴女が兄さんに近付くことは許しません!」

 私は、彼女『殺人鬼』にそう告げ、包帯の巻かれた両目に意識を集中する。


 ―見え始める、世界。


 ―見え始める、意識。


 ―見え始める、その在り方。


 虚空に手を翳し、体をその世界に慣らすように、簡単な短剣をイメージし、『創る』。

「―っ!?」

 創り出した短剣を『殺人鬼』に向かって放つ。短剣は皮一枚裂くことはなく、後の壁に突き立つ。

「……凄いですね。以前に会った時よりも早く正確に能力を使いこなしてますね……」

 そんなことを言いながら、『殺人鬼』は、嬉しそうに、楽しそうに、無邪気な子供のように微笑んでいた。

「貴女こそ。以前の貴女なら傷の一つは負っていたでしょうに」

 ってゆーか、手慣らしとはいえ殺る気満々だったのに……。

「それでは、今度はこちらから」

 不意に、『殺人鬼』から殺気が放たれ、私は一歩退いた。

 『殺人鬼』は壁に突き立った短剣を引き抜き、私に向かって一直線に疾走。私はそれを止めるためにその軌道上に壁を創る。

「まだ甘い、ですね」

 だが、それは一時凌ぎにも過ぎず、『殺人鬼』はいきなり現れた壁をいとも簡単に避けて、再び私に向かって疾走を始めた時、

「甘い、のはどっちですか?」

 壁が爆発し、その爆風に『殺人鬼』は飲み込まれ、壁に叩きつけられた。

 そして、吹き飛ばされた『殺人鬼』に、私は追い討ちをかけるように、槍、刀、短剣、斧を創り放つ。

「―っ」

 短い舌打ちが、放たれた刃が弾かれる音に混じって響く。

「凄いですね。でも…―」

 まだ甘い。その放たれた武器は、

「それ、爆発しますから気をつけて下さいね」

 再び爆発。その爆発は衝撃で空気を飲み込み、震わせる。

 土煙が上がるが、それすらも飲み込み衝撃へと変える爆発。それほどの威力を創った。けっこう離れた場所にいる私までが予想以上の威力に吹き飛ばされてゴミバケツに突っ込むほどの威力だ。

 ……ってゆーか、生ゴミ臭っ。今さらだけど裏路地だからってこのゴミの量はどうなんだろうか……?

「けほっ……あ、危ないですね……」

 ……まだ生きていたのか……。普通の人間ならもう良くて気絶とかなんだけど……。

「ってゆーか、やり過ぎです!いくら義妹でももう許しませんよ!」

「ってヤバいじゃないですかコレ!?」

 私はゴミバケツから身を起こそうとしたが、

「っんなあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 すみません。焦り過ぎました。まさかバナナの皮で転ぶとは思いませんでした……。

「………だ、大丈夫ですか?」

 ……あ。なんかこの人、実は良い人かもしれない……。

「……だ、大丈夫です」

「では気を取り直して……」

 切り換え早っ!やっぱり良い人じゃないかも……

「何を」

「え?」

「殺し合いの最中に油断なんかしてるんですか」

 背中からコンクリートで舗装された道路に叩きつけられる。

 背骨を通じて体を走る痛みに意識が墜ちかける。

 皮肉にも、今、間違なく最悪の状況だけが辛うじて意識を保たせる。

「あんなドジっ娘要素を見せなければ、私が殺られてたかもしれないですね」

 ……本当に、最悪だ。

「もう貴女に勝目はありませんよ」

 首に、自分が創った短剣が押しつけられる。

「この密着状態なら、貴女、大したことはできないでしょう?」

 体に馬乗りになりながら、『殺人鬼』は私にそう告げた。

「この距離なら創っても飛ばせませんし、爆破もできませんね。貴女、いかにも近距離じゃ闘えなさそうですしね」

 『殺人鬼』が、本当に楽しそうに私の両目に巻かれた包帯を指先で撫でる。

 ……あぁ、もう本当に嫌だ。こっちが一番闘いたくない近接に持ち込まれるとは……。

「まったく……本当に油断しましたね……」

「今さら、ですね」

「残念ですが……貴女が、ですよ?」

 一瞬。本当に一瞬。顔から笑みが意味がわからないと言わん許りに剥れ、

「その首輪。似合ってますよ『殺人鬼』さん」

 やっと、『殺人鬼』は気付いた。

 自身の首についた首輪と、両手首の腕輪に一瞬顔を驚愕に歪め、首につけられていた短剣の刃が首からわずかミリ単位でだが離れる。

 私はそれを見逃さないし、逃さない。

 一気にイメージする、絶対に千切れることのない、絶対に切れない…―

「―鎖」

 『殺人鬼』につけられた首輪と腕輪が、虚空より創られた鎖に繋がれる。

「―っ!?義妹にそんな趣味があったなんて!?」

「人聞きの悪いことを言わないで下さいっ!」

 ……鎖で繋いで絶対絶命だというのに何でこんなに緊張感が無いのだろうか……。

 それどころか、どこか楽しそうにも見える。

 ……こいつは、危険過ぎる。―そう、本能が訴え続ける……。

「―っ」

 私は、全神経と集中力を、創るという一方向のベクトルに合わせ、創り出す。

 ―必殺。

「ちょっ!?ギロチンって!冗談になりませんよ!?」

 『殺人鬼』のその細い首がギロチンという処刑台にはめ込まれ、さすがに焦り始める『殺人鬼』……。

「終わりですよ。『殺人鬼』……いえ、紫藤 那和」

 キッと、完全に笑みの剥れた、圧倒的なまでの殺気を込められた瞳が、私を捕らえる。体が弛緩するのを、意識が飲まれてしまいそうなのを、必殺のギロチンを維持しているという絶対の状況だけが、私を支える。

「私は、斬原 流香だ……!」

 キツく睨みながら、唸るように吐き出される『殺人鬼』の名。

 ―だが、

「それでは、一つだけ質問を」

 貴女は、紫藤 那和の何なんですか?

 それは実にくだらない質問だった。

「……見ての通り、同一人物ですよ」

 私が斬原 流香と名乗る紫藤 那和に問うたそれに答えた彼女は、私が噂のみで知る『黒姫』のイメージとは一致しない。

 しかし、さっき兄さんの家で会った彼女、紫藤 那和は、

 今、ここにいる、ここまで一緒に来た、紫藤 那和は、

「……斬原 流香、と言いましたね……」

 間違なく、数年前にも命を賭して殺り合った『殺人鬼』、斬原 流香だった。

「……えぇ。私は、」

 それは、普通ならば、ありえない、反則過ぎる答えだった。

「間違なく『斬原 流香』であり、『紫藤 那和』ですよ」

 まぁ、那和は私を知りませんがね。―と言って、彼女はまた笑った。

 そう。本当に今さら、兄さんの友人、紫藤 那和は、自らを『殺人鬼』と定義する、斬原 流香だということだ。

ども、婀羅洙です。

今回のお話『死線交差』では最初っから最後まで闘う女の子の物語となりましたが、お楽しみいただけたでしょうか?


何かもう妹は何でもありすぎるだろう、とか、流香は流香で緊張感なさすぎだろうとかもうツッコミどころが満点なお話に……。


つーか、書いてる本人が言うのもなんですが………


ヒロインが二重人格って…!?


まぁ、ここまであらすじでもある『秘密』を引っ張っといてそれは『二重人格』って、何か地味な結果に……。


さて、まぁ、とにかく気を取り直して次回『人格傷害』にて、またお会いしましょう。

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