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7,過剰睡眠 7/3(夕)

 

「そういえば、兄さん、黒姫さんと、…その、……お付き合いなさっているとは…、本当……です…か……?」

 僕が赤いケチャップソーメンをちゅるちゅると音を立てながら食べていると、冴はいきなり思い出したように装っているかのような不信さ全開で、そう訊いてきた。

「…その、どうなん、ですか……?」

 なぜだか、冴は顔を真っ赤にして怒っているようにも見える。

 そういえば、義父さん母さんの溺愛ぶりからして、昔から冴はそういったことが苦手だったな、と思う。

 たしか、視力を失う前は幾多数多のラブレター(うら若き乙女のものも含む)に顔を真っ赤にしてうろたえては返事は全て『No』。

 視力を失ってしまって目に包帯を巻いても実際はその可愛らしい顔を隠すどころか、むしろ目立たせてしまって、ラブレターはたしかに無くなったが、体育館裏、校舎裏、夕方の教室、そこで告白すれば成功するとかいう杉の木の下……。とにかく、ラブレターの代わりに直接的、積極的になった人々(男女ともに)に毎度毎度泣き出しそうになりながら困っていたのを思い出す。

 まぁ、僕が知ってるのは、僕が高校に上がってから両親に無理を言って一人暮らしになるまでの間だから、彼女が高校生になってからは知らないが、

「ど、どうなんですかっ!」

 ……おいおい。口からマヨネーズソーメンが飛んでるよ?

 自分から切り出したその話で何を想像してるか知らないけどそんなに興奮しなくても……。

 ……まぁ、とにかく、昔からあいも変わらずそういうのに免疫の無い清純派女子高生ってことにお兄ちゃんは安心だよ。

「兄さん!聞いてますか!?」

「ん?あ。聞いてるよ。……ってゆーか、それ以前にとっても訊きにくいんだけど、いや訊くけど……だーくねすびゅーてぃーって何?」

「…………………………へ?」 冴は、手に折れるんじゃないかというくらいに握ったお箸をポロリと落とし、

「……………………あ、え?」

 ぽかんとマヨネーズで汚れた小さな口を大きく開いて固まっていた。……いや、だって知らないものは知らないし。

「それに僕は誰とも付き合った覚えなんてない寂しいうえにまったくもてないクラスで地味な少年だけど……?」

 だって本当に彼女いない歴イコール年齢なんだもん。だーくねすびゅーてぃーなんて怖そうな名前の人なんて知らないし付き合った覚えなんて毛頭無い。

「知らない?黒姫を……?」

「うん」

 本当に、と再度尋ねる冴に、僕は首を縦に振ることで応えた。

 それだけで、僕が嘘をついていないとわかったのか、冴はとても大きな溜め息を一つつき、

「もし本当でしたら引きずってでも家に連れ帰ってましたよ」

 そんなことを言って、安心したように笑っていた。……いや、ってゆーか、引きずってでも家に連れ帰るって……そんなにだーくねすびゅーてぃーさんはヤバいの? それとも、それは僕には恋愛の自由も無いってことかい?

「……さて、と。では兄さんの安否も確認できましたし、そろそろ私は帰りますね」

 唐突にやって来た冴は、唐突に帰ると言い出し茶碗を流しへと下げ始めた。

「何?もう帰るのかい?」

「えぇ。コンクールも近いですし、今日はもう家で練習しようかと」

 学校もサボっちゃいましたしね。と、悪戯っぽく、可愛いらしく冴は笑った。

「もっとゆっくりしていけば良いのに」

「……そうした方が良いですか?」

「いや、忙しいなら別に……」

「いて欲しいんですか?」

「いや、別に無理にとは……」

「いて欲しいんですよね?」

「……いて欲しいです」

 じゃあ、もう少しここにいます。と、冴は嬉しそうに学校から持って帰って来ていた荷物をつめた鞄と見慣れない箱を持って座り直した。

「………それは?」

「うふふ」

 そして、冴はいつにもまして嬉しそうに笑いながら…―。

「ちょっと待てー!何を学校サボってイチャイチャラブラブしてんだー!?」

「んなっ!?那和!?」

「っ!?貴女!?」

「や、やりすぎじゃ」

 どかーん、と扉が吹っ飛んで、憤然という感じで現れた紫藤 那和と、後から慌てて現れた武蔵 清人。……いや、良く考えたら、清人はいつものように那和に巻き込まれての不可抗力とかかもしれないけど、那和も思いっきり学校サボってここに来てるんじゃないのか?

「あの、那和……?」

「つーか私もソーメン一丁!タルタルソースで!」

「わしはケチャップで」

「あ。うん。ちょっと待ってて」

「ちょっ兄さん!?」

 そして、突然の来客とか妹の驚愕の声を気にせず、朋夜は友人のためにソーメンを茹でに台所へと消えていったのだった。




    ◆




「あぁ、そんな馬鹿げた話を信じて、学校サボって、ここまで来てくれたのか」

「……気の毒じゃが、学校中に広まっとるけぇ……」

 ……良いですよ。どうせ僕みたいな根暗なやつはそういうのも気にしませんよーだ……。

「……それで本当にケガとかは無いんじゃろうな?」

 半ばどころか全開に落ち込む僕に、清人だけはそんな卑猥すぎる噂話より僕の安否をしてくれたことに感動を覚える。

 見た目に似合わず、優しい彼らしいその言葉に、僕は思わず涙が零れそうになった。

「……清人」

「なんじゃ?」

「やっぱり君は友達、いや、僕の親友だよ……」

「……何で涙目なんじゃ?」

 ……それは君が優し過ぎるからだよ。

「……いや、君みたいな友人を持って幸せだなって……」

 だって、僕の命と名誉と人権とかをいつも心配してくれる唯一の友人だもの。たしかに那和や冴も心配してくれたみたいだけど、僕が普通にしているのを見るや人の家で好き勝手やるような…―あれ?

「そういえば、あの二人は?」

 今更だが、那和と冴の姿が見えない。

 ケータイは、っと、冴は持ってないし、那和は…………は?……何?この嫌な予感がして止まない内容の流香からの殺人予告メール……。「……そういえば、二人ならさっき食器を洗ってから出ていったきりじゃけぇ。どこいったんじゃろうな?」

「……まさか」

 本当に嫌な、最悪のイメージが頭の中を過ぎる。

「―ごめん!少し二人を探して来る!悪いけど留守番頼む!」

 そして、僕は戸惑う清人が応えるよりも早く、

「―っ、……流香のやつ、人の妹を殺ってはくれるなよ……!」

 僕は家を飛び出していた。













To Be Continued…

 

 

どうも、大会が近いくせにゲーム三昧な大学生こと婀羅洙です。


えー…今回のお話『過剰睡眠』はいかがでしたでしょうか?


ちなみに今回はコメディーチックなお話から次回はシリアスな感じに続くみたいな……どんだけベタなオチだよ!?


―と、いう感じのお話となります。


うん、まぁ、ノリノリでいったら何か平和過ぎるノリで普通に学園ものになりそうだったので(※『殺人鬼とペーパーナイフ』は痛快学園ラブコメディーです)


―こんな展開にしちゃいました(笑)


さてさて、まぁ、とにもかくにも、次回は“妹 VS 殺人鬼”となる“妹萌 VS ヤンデレ”のヒロインポジションをかけた対決『死線交差』をよろしくお願いします。


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