5,過剰睡眠 7/3(朝)
「……つまらないわね」
私、紫藤 那和は、とてつもなく退屈していた。
理由は単純で簡単。
「……何で朋夜は来てないの」
私の幼馴染みで、私にとって唯一の宝物と選挙とかで使う変な車で日本中で叫びまくっていいくらいの彼が、珍しく今日は学校に来ていなかった。
「……やっぱり昨日の件かのう」
この広島弁のゴリラみたいな体格をした日本男児っぽいゴリラは……まぁ、ゴリラだ。
彼は朋夜の友人であり、私に普通に話しかけられる数少ないクラスメートである。
つーか、朋夜を含めて二人のうちの一人だ。
「……まさか、ケガでもしたんじゃろうか……」
ゴリラは難しそうな顔をしながら、そう呟いた。
しかし、まぁ、朋夜がケガか……
………。
………………。
………………………………。
……ヤバい。私死んじゃう。
「ゴリラ、嘘でもそんなことは言わないでよ」
「ん、あ、あぁ、すまんけぇの………、ってゴリラ?」
まさかあの糞兄貴の依頼でケガなんて……
もし朋夜の可愛い可愛い顔に傷なんかついたりなんかしたりしたら……
「殺すわよっ!」
「な、なんじゃよ!?そこまで怒らんでも……」
「知らないわよっ!そんなゴリラよりも朋夜の命よ!
とーもーやー!!早く帰って来ーいっ!!」
那和のその心からどんな経緯から生まれたのかまったくわけのわからない『九条 朋夜が紫藤 那和の側にいない』ということがよくわかる叫びは、教室どころか、学校中に響き渡り、本日の希代の『問題児』のお目付け役の不在を学校中に知らせることとなった。
よって、飛び交う根も葉もない噂の数々。
九条 朋夜の不在は学校のテストの結果に一喜一憂する生徒達に、先生が作ったテストの配点が満点で90点しかないという先生のくだらないミスよりも早く校内を駆け巡るのだった。
◆
「聞いたか?」
「あぁ、ついに宮田が退院したってな」
「いや、違っ」
「例の黒姫〈ダークネスビューティー〉のこと?」
「そう。それ」
「え?何それ?」
「田中は黒姫知らないの!?」
「紫藤 那和って言ったら緑永高校始まっていらいの問題児って有名じゃん!」
「へー」
「とにかくっ!その黒姫のお目付け役が今日は学校に来てないんだってさ!」
「マジ?黒姫が暴れたらどうすんのさ!?」
「それってヤバいんじゃね?」
「ケガじゃすみませんね」
「先生達が今日の黒姫のクラスの授業をほとんどを自習にしちまったらしいぞ」
「本当に?でもまぁ、わからなくもないわね……」
「それで、九条は何で来てないの?」
「わからない」
「何か何の連絡もきてないんだってさ」
「例の黒姫にも言わずに休んだらしいわよ」
「この時間だと寝坊ってわけじゃなさそうだな」
「風邪とかかな?」
「もしくは事故とか?」
「ケガかも」
「痔じゃね?」
「そういえば昨日夜中に誰かと歩いてたから、その時に……」
「それ黒姫とじゃねぇの?」
「そうなら黒姫も休むわよ」
「あぁ、そうか」
「じゃ、アレかな。最近噂のブラック・ジャックに襲われたとか?」
「……ジャック・ザ・リッパー?」
「ありえる」
「九条君はその辺の女の子よりずっと可愛いしね」
「つーか俺の彼氏にしたい」
「え?お前ってゲイ?」
「私は彼に首輪つけて飼いたいな」
「え?貴女はサディスト?」
「つまりあれかい?今日は朋やんは病欠ってわけかい?」
「……みたいですわね」
そして、そんな感じに、九条 朋夜の欠席は話題として大きく拡大を続け、通知表に欠席一はどう足掻いても取り消せないものとなっていき、
「朋夜が夜中にどこぞの女とイチャついて風邪を拗らせて肺炎になって病院に行く途中にジャック・ザ・リッパーに襲われたですって!?」
「じゃけぇ、どうやら大変なんじゃよ!」
まったくもってありえないくらいに九条 朋夜の欠席の原因は遺伝子組み換え、合成着色どころではないくらいに肥大化した頃に、彼の友人・武蔵 清人の耳に伝わり、清人の口により黒姫こと紫藤 那和の耳にも、もはやくだらないジョークにも達したそれは、学生が午後の授業に向けて一息つくための昼休みに入るよりも早く伝えられたのだった。
「私というものがありながら他の女とレインボーブリッジまで夜のドライブなんて……!」
「いやいや!注目するべき点はそこじゃないんじゃよ!」
昼休み前でさすがに午前の授業に飽きていたためか、それとも単に那和達が目立つためか、新たにレインボーブリッジでデートということには誰もツッコまず、教室にいた人々は那和と清人の会話に耳を傾けていた。
「あまつさえ車の中で×××して××や×××まで……!
私ですらしたことないのに……!」
そして、那和の口から吐き出される女子高生が白昼堂々にしては卑猥な言葉の数々に同じ教室にいたものは赤面した。
とにかく、そんなこんなで、九条 朋夜についての噂はますます広がりを続けていたのだった。
「ねぇねぇ聞いた聞いた?」
「何が?」
「実はね……」
そして、それは大半の学生が午後の授業に向ける力を貯めるための食事時には普通科にそれを知らないものはいなくなり、ついには緑永高校の書道、美術、音楽などの各芸術クラスにも触れ回り、
「え?兄さんが変質者に襲われて重傷?」
芸術科・音楽クラスに在籍する彼の義妹の耳にも入ることとなったのだった。
ども、毎度ながらこんなとこまで読んで下さってありがとうございます。
最近はけっこう楽しくいい感じのペースで書いてますが…―
―…これって本当にジャンルは学園でいいのか?
―と、思い始めた今日この頃。
まずタイトルの『殺人鬼とペーパーナイフ』なんて明らかに学園ものっぽくありませんしね……
まぁ、とにもかくにも、今回でやっと五話ということで、それなりにこの作品にも慣れてきたわけですよ。
まぁ、何せプロットも無しに書きながら考えて書いてましたから、書いてて楽しいけど後がどうなるか自分でもわからない伽藍となります。
まぁ、とにかく、読んで下さっている方々へ、
こんなんでも気に入っていただけましたら幸いです。
もし、よろしければ、作品のここを直した方が良いとか、ここが面白いとか、どんなキャラが良いだとかなどの評価や感想など述べていただけると嬉しいです。
さてさて、それではまた次回の後書きでお会いしましょう♪