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1,人間観察 7/2(朝)

 

「……暑いわね」

 別に誰かに言うわけでもなく、ただなんとなくという理由とは言えそうにない理由で、授業中にも関わらずそいつは呟いた。

「まぁ、もう七月に入ったしね」

 そして、長年の付き合いという理由で、僕はそれに答えた。 基本的に、授業は真面目に受けなくてはならないものだが、そいつの『言葉』はそれ以上に真面目に受け答えなくてはならない、なぜなら、そうしないと、そいつが何かしらの暴走を見せるというのが目に見えていて、そして後で痛い思いをするのが自分という、何とも理不尽な結果があるとわかっているからだ。

「……本当に暑いわね」

 はたして、僕の言葉を聞いているのかいないのか。

 どちらにせよ、そんなものには興味の無さそうに、気怠そうな目で炎天下の校庭をガラス越しに見下ろしながら、“紫藤(しどう) 那和(なな)”は、暑い暑いと繰り返していた。

「……そんなに暑いならそのジャケットくらいは脱いだら?

 夏だってのに黒いジャケットなんて、見てるこっちが暑くなるよ」

「……そうね」

そう言って、彼女は視線をこちらに向け、机に寝そべりながら、真っ黒なジャケットを器用に脱いで、イスの背もたれにジャケットを乱雑に引っ掛けた。

 彼女、紫藤 那和は学校で知らぬものはいないと言えるであろう有名人であり、容姿端麗・才色兼備と言われ、精巧過ぎるアンティークドールのような人間には無いような綺麗さを持つ人物で、

「……もうむしろ全裸にでもなろうかしら……」

 自他共に認める『変人』だ。

「……止めてくれないの?」

 そして、質の悪いヘタレでもあり、

「本当に脱ぐわよ?」

 学校でも有名な問題児である、色々と厄介な僕の幼馴染みである。

「とーもーやー…」

 そして、彼女には決して人には言えない秘密があり……

「もうっ構ってくれないなら脱ぐ!」

「あ。ごめん、聞いてなかった……かも…」

 その秘密のことを語る前に一つ、この時の僕は、彼女の信条が『有言実行』だったことを、僕は失念していた。

「―っ!?脱ぐ!」

「今からちゃんと聞くけど、ダメかい?」

「……じゃあ、脱がない!」

「うん、それがいい」

「じゃあ、ちゃんと私の話聞いててよね!」

 ……暑い暑いと繰り返して脱ぐか脱がないかとかの話を……?

「ねーちゃんと聞いてくれるー?」

「はいはい、聞くよ。那和の話をちゃんと聞く。」

 先生も僕に気を使ってか、授業を進める気も無さそうに娘の自慢話なんか始めている。

 これが、普段からの僕達の日常だった。

 那和は教師だろうが何だろうがまったく相手にしないし、興味も抱かない。

 だというのに、昔からの付き合いのせいだろうか、僕の言うことだけは人並み以上に聞き入れ、僕が相手にしないと拗ねたり怒り出す、まるで『生まれて初めて見たものを親と思い込むヒヨコ』のようなやつである。

 そのため、教師や、あまつさえ、大部分の生徒達ですら極力彼女に関わろうとはせず、

 学校生活などにおいての彼女の意志から行動、問題にいたる全てを暗黙のうちに担われているようなものとなってしまっていた。

「何かねー、最近またこの町で殺人鬼が出て来たっていうのよ。

 それも、十代後半から二十代前半の綺麗な女の子しか狙わないから『ジャック・ザ・リッパー』なんて呼ばれているのよ?」

 そんな物騒な話を、彼女はどこか楽しそうに話していた。

「じゃあ、那和も狙われないように気をつけなきゃね」

「え?」

「だって、那和は綺麗過ぎるから。気をつけないとダメだよ」

「……え、あ。……うん、ありがとう……」

 そう言って、那和は興奮で顔を紅潮させながらも、どうにか頷いてくれた。

 どうやら、今回はちゃんと忠告を聞いてくれるらしい。 前みたいに

「殺人鬼を探すわよ」とか言われるかと思ったが、珍しく忠告をちゃんと聞いてくれるなんて、珍しいを通り越して初めてかもしれない。

「……明日は雨かな」

 僕の呟きは、授業の終了を伝えるチャイムによって、たぶん那和には聞こえなかったと思う。

「え?今なんて言ったの?」

「ん?別に、それよりも次は体育だよ。授業に遅れる前に着替えて来なよ」

「うん、じゃあ、また後で!」 那和が教室から出ていってから僕は小さな溜め息を一つつき、ジャージに着替えることにした。

「いやいや、見る限り相も変わらず熱いけぇ、今日も朋夜と紫藤のバカップルぶりが全開じゃ」

 ジャージに頭を突っ込むとファスナーがしまっており、頭が出せず、聞き慣れた声の主に色々とツッコミたかったができないと判明。

 とりあえずジャージのファスナーを開けて頭を出してから、声の主に

「そんなんじゃないよ」とだけ、言った。

「それに、もし僕がそう思っていたとしても、那和はそう思わないよ」

「……いや、まぁ、……うん、グランドスラム級のにぶちんのお前さんじゃけぇ、あまり気にせんでええよ……」

 このゴリラのような巨体の似非広島弁を好んで使う友人、“武蔵(たけくら) 清人(すずと)”は罰の悪そうな顔で話を無理矢理に誤魔化した。

「……?どういう……」

 ―意味だ、と訊こうとした時だった。

「ねぇねぇ、朋夜はブルマ派?それともスパッツ派?」

「……噂をすれば何とやら……じゃのう…」

「……清人、たぶんそれは違うと思うよ…。それから、那和、……その格好は?」

 ん?とか言いながら、那和は自分の格好を見つめ直し、

「黒のレース上下セット」

 大胆な下着に身を包んだ…もとい、大胆な下着姿の那和が笑顔でそんなことを言った。

「……紫藤、たぶん朋夜が言ってるのは下着の説明じゃないんじゃよ」

「……とりあえず服を着て。ブルマかスパッツかはそれから……」

 気付くのが、いや気付かせるのが遅い授業始まりの鐘は響くが、僕達だけが先に授業に参加することを那和は許さないだろう、たぶん、絶対。

 ……まぁ、言い訳がましいが、そんなこんなで、僕にとっての日常通りの喧騒により、僕達は仲良く三人揃って体育の授業に遅刻することにしたのだった。 

 

ども、婀羅洙です。

本作“殺人鬼とペーパーナイフ”を読んで下さってありがとうございます。

 本作は、主人公と幼馴染みと友人達との痛快アクション学園コメディーを予定しております(多分)。

 ついでに言いますと、この先は全てノリとかだけで押し切る気満々なのでその点はご了承下さい(笑)。

 ヒロイン的な存在はまだまだ増やす気満々ですが、私自身の好みでロリっ娘は絶対に参加させます。

 誰が何と言おうが、ロリっ娘だけは絶対です。






……と、いきなり明らかに話が脱線してましたね。

 では、まぁ、とにかく、こんな感じの婀羅洙が描く“殺人鬼とペーパーナイフ”を今後ともよろしくお願いします。

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