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14,非常日常 7/4(夕)

久々に更新しました。

実に二ヶ月ぶりくらい(汗)

 

「本当に、それでいいのかい?」

 そう尋ねられて、僕はたしかにそれに頷いた。

 後悔は、なかった。

 悲しくも、なかった。

 嬉しくも、なかった。

 ただ、空しかった。

 そうなることを、そうすることを選ぶしかなかったことが――。

「寂しくなるね」

「……うん」

 少しだけ、それに頷くことをためらった。

 頷いたら、気がついてしまう気がしたから。

「どうしても、なのかい……?」

 またそう問われ、僕は少しだけ考えて、

「どうしても、です」

 また、こう応えた。

 本当にそれでよかったのか、今問うても僕はあの時と同じく、少しだけ考えて、

「これで、いいんです」

 僕はきっと、こう応えるだろう。

「――きっと、これで、いいんですよ」

 僕は、僕を女手一つで養ってくれた母さんが――

 僕は、僕を本当の兄の様に慕ってくれる義妹が――

 僕は、僕を本当の息子の様に見てくれる貴方が――

「……あそこには、僕は居られないですから」


 ――僕は、貴方達が大好きですから――。


「今日から、僕はここに住みますね」



 ――だから、僕は、貴方達を××たくないから――。




    ◆




「朋夜、まだ寝てる?」

「ん……」

 まだぼうっとする頭を押さえながら、その声の主の問いには手を振るだけで応える。

 似合いもしない、昔の夢を見ていたせいか、何故かそれが夢だとわかっていても起きられない自分は女々しいな、とか。そんな余計なことばかりが頭を過ぎる。

「疲れとるんか? 午後の授業が始まってから今までずっと寝とるなんて、珍しいのう」

 清人のその言葉に、時計の針を見ればもう三時半を回っていた。どうやら、僕は放課後までずっと寝ていたらしい。それも誰にも起こされずに。

 って、そんなわけないでしょうが。さすがに授業を二時間ぶっ続けで寝てれば誰か起こそうとするだろうし、先生だってそんなのを見逃すはずがない。誰かが起こそうとすればさすがに僕だって起きるよ。たぶんだけど。

「いや、起こそうとは思ったんじゃが……」

「朋夜が気持ち良さそうに寝てたから全部未然に完璧完全に私が防いだわ! 朋夜の安眠のために! クラスメイトとか教師とか!」

 偉くない! 褒めて褒めて! ――と、胸を張る那和に頭が痛くなる。 どうしてこうも余計なことでけっこうな迷惑をかけてくれるのだろうか。おかげで今日の僕のノートは白紙だし、今日返されるはずだったテストはいったいどこへ行ったのか。果たしてクラス中に晒されたのか、それともまだその教科ごとの先生が持っているのだろうか。どちらにせよ、あまり良い気はしないけど。

 まぁ、いいか。どうせ月並み人並みのつまらない点数だろうし。気にしてもしょうがないよね。気にしなければきっと何とかなるさ。きっと。たぶん。おそらく。maybe?

「ん。私の活躍がわかったのなら帰りにチョコレートパフェを奢ってね! あとストロベリーのアイスも!」

 那和、その活躍が決して役に立ったわけではないんだけど。むしろその逆なんだよ。それだというのに君は僕に奢れと?

「嫌」

「紫藤、横暴が過ぎるんじゃよ……」

 那和は唖然としていた。いや、何で? 当たり前でしょ。むしろ僕が那和に奢ってもらいたいくらいだよ。

「嫌よ! 私が朋夜以外の人に奢るなんて!」

 思ったことをそのまま文句に変えて吐き出すとこんな無茶苦茶な理由を返された。

 って、いいんじゃないの? 奢ってもらいたいのは僕なんだし。

「朋夜に奢るとその場にいる他の人に奢らないわけにはいかないじゃない! ゴリラとか妹とかに!」

 意外と良心的な理由なのね。横暴だけど。あと清人のことをゴリラ言うな。清人が傷付くじゃないか。実は繊細なんだよ、清人は。那和と違って。

「いや。いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……私だって繊細なのよ? だって女の子だもん」

 知らないよ。

「そんなことより、帰ろうよ。もう遅いし。僕はチョコレートパフェやアイスなんかより夕飯の材料買いたいし」

 さすがにもう素麺だけは嫌だ。特にケチャップは。ついでにコーラも。

 そんなことを言ったら、清人が今日は家で食べて行かないかなんて言ってくれた。いや、マジで? 本当に嬉しいんだけど。最近食費がヤバくて貰いものの素麺で頑張ってたんだけどさすがにそろそろダメかな、って思ってたんだよね。

「朋夜、帰りにチョコレートパフェとアイスとプリンとケーキとクレープ奢ってあげるわね……」

 あれ? 何でだろう。まさか那和がこんなことを言い出すなんて。いや、嬉しいんだけどさ。

 あと、それより何より気になるのは清人と那和が何でだか僕を可哀相な子を見るような目で見てる気がしてならないんだよね。

 那和なんて思いっきり目を潤ませてるし。清人はなんか僕の肩をぽんぽんと叩きながら『誰でも出来る節約料理』って料理本の存在を教えてくれるし。いや、ありがたいけど。なんか違和感があるんだよね。なんとなく。

「じゃ。なおさら早く帰ろうよ。あんまり遅いと清人にも――」

「にーいーさーんー……」

 …………あ。忘れてたことが一つあったね。そういえば。

 声のした方に振り返ると、両目を包帯で隠しているくせにその目はメラメラと憤怒に燃えているんだろうな、なんて思われる形の良い柳眉をつり上げて教室の入口に仁王立ちしている少女。僕の愛しい義妹、冴がいた。それも無茶苦茶ご立腹なご様子で。あのポチが隣りで震えてるんだけど。

「やぁ、冴。今日も可愛いね」

「今日のお昼にお会いしたばかりですが……?」

 そうだね。あと僕に対して何とか拳法とかの使い手とかでも逃げ出しそうな凶悪な笑いを見せないで。お兄さん泣きそうになっちゃうからね。そんな妹の脅威に。

「兄さん」

「……はい」

「私、言いましたよね? 今日の三時から図書室で待ってます、って」

「……はい」

「今、その三時の30分後ですね」

「……はい」

「私を待たせて、何していたのですか?」

「……寝てました」

「酷いですよね?」

「酷いですね……」

「何か言うことはありませんか?」

「ごめんなさい……」

「許しません」

 あの、本当に笑ってる方が怖いよ? 口許がつり上がってるだけで、あと笑ってないよね。謝ったのに

「許しません」で斬っちゃうし、絶対に怒ってるよね。いや、わかってるけどさ。

「妹ってあんなに怖い子だったかしら?」

「お淑やかなお嬢様なイメージがあったんじゃがな」

 二人とも今さら端からの傍観者ぶらないで! 助けて! 僕を! 蛇に睨まれた蛙どころじゃない僕を助けて!

「……いえ。やっぱりもういいです……」

 なんと! 僕の必至の心の中限定の祈りが届いたのか、冴が諦めたような息をついてさっきまでの剣呑な空気を解いてくれるとは。お兄さん嬉しいよ。本当に。寿命がかなり縮んだけど。

「このことは忘れませんけどね」

 借り一つってやつです、なんて言いながら舌を出して笑っていた。うん、冴さんや。可愛らしいのは僕としては全然構わないんだけどさ。借り一つなんて粗暴な言葉はどこで覚えてくるのさ、このお嬢様っ子は。あと冴に対する借りなんて僕は返せる自信がないよ。特に金銭的な関係で。

「別に物なんかで返してもらうつもりはありませんよ。身体という名の労働力で返してもらう予定ですから」

 それは僕が人並み以上に体力を使うことを嫌っていることを知ってる妹の発言かい。面倒臭いわ!

「では、許しません。父さんに頼んで兄さんへの仕送りを減らしちゃいますよ?」

「……ごめんなさい」

 まさか、そうくるとは……。仕送りが減ったら僕が暮らしていけないじゃないか……。って、むしろそれが冴の目的か……!

「どうでもいいけど、帰るんじゃないの?」

「どうでもいくないよ。僕の生活費がかかったからね……」

 何気にお嬢様な那和にはわからないだろうけどね。仕送りが減るってのはバイトすらしてない僕にはとってもつらいことなんだよ。食費に回せるお金とか減るから水道代や光熱費とか節約しないといけないし。面倒臭がりで働くのが嫌な僕にはとても辛いことなんだよ。

「それなら家で養ってあげようか? たぶん兄さんも母さんも父さんも歓迎してくれるわよ?」

「是非お世話に――」

「ダメです! そんなことは私が許しません!」

 ……いや、うん。わかってるよ。僕だってそんなヒモみたいな生活は嫌だよ。羨ましいけど。

 だから、そんな冴も力強い否定をしながら那和を睨まないで。眼に巻かれた包帯のせいで馴れてないと睨んでるってこと自体がわかり辛いから。あと那和も睨み返さなくっていいから。怖いから。清人と僕がめっちゃくちゃ怯えてるから。特に僕が。

「ねぇ。清人」

「何じゃ?」

「帰ろっか」

「この二人はどうするんじゃよ?」

 冴と那和の二人はお互いに無言で睨み合ったまま、動こうとしない。

「そもそも。貴女、兄さんの恋人さんとかでもないのになれなれしいんですよ」

「いいじゃない! 私と朋夜は将来を誓いあった仲なのっ!」

「――な!? それなら私は兄さんと婚姻届けを出したんですよ!」

「……帰ろうよ。僕ここにいたくないよ……」

「…………そうじゃな……」

 目眩く飛び交う嘘の応酬をBGMにした教室を、僕は清人と二人でこっそりとあとにした。

 後から二人が追って来ると怖いので、僕と清人は教室を出てから走った。

 どうでもいいけど、校庭から教室を見ると、二人はまだ何事かを言い合っているようだった。迷惑だから止めなよ。本当に。また僕に変な噂が立つから。

「……大変じゃな、お前さんは……」

 ……うん。今さら過ぎて涙も出ないくらいにね……。

 

どうも。お久しぶりの婀羅洙です。

実に二ヶ月ぶりの更新でまだ私の存在を覚えている方がいましたら本当に嬉しいことです。お礼にラーメン奢っちゃいます。嘘だけど。


……はい。実は最近大会だとかテストだとかでこっちではまったく更新できませんでした……。

もし、続きを心待ちにして下さっていた方へは深くお詫び申上げます。


それから、アクセス10000突破ありがとうございます。

まさかこの作品でいくとは思ってなかったのですが、この場を借りて深々御礼申上げます。


ではまた次回『家族会議』にて。

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