The prologue
「聞いたよ。また人を殺したんだって?」
「……え?」
そいつ、九条 朋夜は、いつものように図々しく人の家に上がり、いきなりそう言って、いつものように部屋の少ない備品の一つであるソファに腰を降ろした。
「まったく、これで今週に入って何人目だい?快楽殺人者の同族嫌悪なんてどうせ僕には関係ないけど、同じ町でこう何度も続くと、あまり気持ちの良いことじゃないんだけど……」
私はテーブルに、朋夜のと私の分との、今さっき淹れたばかりのインスタントコーヒーの湯気の立つマグカップを置きながら、
私は、いつものように朋夜の話に耳を傾けた。
「それに、最近は連続して女の人なんて、最近の女の子はそんなに怖いものなのかい?」
そして、朋夜は、そんなわけないか、と自分で何か勝手に出した結論に納得しながらコーヒーを啜る。
「でも、まぁ、本当にこの町は物騒だよね。いや、この町だけでも言えることでもないか」
「そうですね、最近は外に出てないですからそういう連中は野放しでしょうし……」
「……ちょっと待って、今なんと……?」
……あぁ、言うのが遅かっただろうか、いや、まぁ、狙ったけど。
「ですから、最近は外に出てない、と」
「……本当に?」
「えぇ、最近は学校のテスト期間だったので、朋夜、たしか貴方もそうでしょ?」
朋夜は、その質問にはけっきょく答えなかったが、とりあえず私が『通り魔』的な犯行を繰り返しているという誤解だけは解けたみたいだった。
「……って、ちょっと待ってよ、流香。何で通り魔ってわかるのさ?」
そんなくだらないことを訊く彼に、
「……さぁ?感みたいなものですかね?
……まぁ、強いて言うなら、普通の『快楽殺人者』は同族同士で殺そうなんて思わないから、私が勝手にそう思った、みたいなものですよ」
私がそう言うと、彼は納得したように何度か頷いていた。
「……あれ、でも……」
そして、彼は、
「じゃあ、何で流香はその『同族』を殺すの?」
私にそんなくだらない質問をした。
「それは、私が彼らと違って『異常』だからですよ」
そして、あの日の記憶が正しければ、私はそう答えたと思う。