山賊と紅玉
“男”として目をさました鉄次は、初めて自分の置かれた状況を受け入れ、
泣いてしまうのだったが、その素直な姿見た家族とは、少しずつではあるが、
打ち解けつつあったのだった。
次の日も、次の日も家の中には三人だけだった。
他の家人は出稼ぎにでも出ているのだろうか…?
しかし、それをたずねるだけの語彙は今のオレには無く、なんとなしに時間は過ぎていった。
少女は学校でもあるのか、大体同じ頃に家を出て行き、同じ頃に帰ってきた。
その間オレは幼女と二人きりになり、文字通り手取り足取りされながら、飯を食べたり、便所に連れて行ったり、連れて行かれたり、幼女がオレの世話係りになってくれていた。
幼女は三、四歳ぐらいなのだろうか。くりくりとした愛らしい幼女で、なついてくれると不思議なほど愛着がわき上がってくる。
そんな中、幼女の名前が、紅玉(こうぎょく)少女の名前が紅麗(こうれい)だということがわかった。
当然ながら、二人きりでいる時間が長い紅玉とオレは仲が良くなり、だいぶ意思の疎通がスムーズになってきたのだった。それにしたがった紅麗の硬化していた態度も和らぎ、温かい眼差しを向けてくれる。
緩やかに良い方向に物事が進んで行っていたはずだったが…
ある日、紅玉と庭で青菜の収穫をしている時だった。
三人の粗野な感じの男が庭に入ってきた。
オレは慌てて紅玉に家に入るように背中を押した。
男達からは酒の臭いと、獣のような汗の臭いがした。
その中の一人、山賊のような髭も髪ももじゃもじゃの男が、大声で笑いながらオレの背中をばしばしと叩いた。
…雰囲気は悪くない。いやむしろ友好的な感じだ…まさか! オレの友達だったのか?
確かに頭を打って目を覚ました後、自分の顔を確認した時、自分が身に着けていた服と、今、目の前にいる男達の雰囲気は感じが似ているように思えた。
残りの二人のうち、一人は痩せギスでずっと煙管(キセル)のようなものから煙を吐き出している。もう一人は山賊よりも柔和な表情を浮かべているが、腰に赤黒く錆びた山刀を差し込んでいる。
しきりに山賊はオレに話しかけてくるが、話すスピードが速すぎることと、日常生活であまり使わない言葉なのだろう。意味がさっぱりわからない。
オレは曖昧な笑みを浮かべながら、頭を差し、首をかしげたり、口をパクパクして見せたりした。本当は少しなら言葉は話せたが、ここはわからない、話せないふりをするのがベストだと思われた。
山賊達は顔を見合わせ、しばらく間があった後、ゲラゲラと品のない笑い声をふりまき、オレはまた背中を叩かれたが、オレがずっと首をかしげたり、言葉を話さないことで、山賊の顔色が変わっていった。
「○△□、◎△△×」幼女の、猫の悲鳴のような声が響き渡った。
「紅玉!!」
いつの間に出てきたのだろう。オレの足に紅玉がしがみつき、男達にむかってなにかを叫んでいた。「帰れ」くらいの意味はわかったが、情けないことに後は何もわからない。
山賊が紅玉に顔を近づけようとしてくる。
本当にとっさだった。
オレは紅玉を山賊に触れられないように抱きかかえた。
山賊は後ろに控えていた煙管と山刀に振り返り、お手上げだといったような仕草を見せると、きびすを返し、軒先に吊るしてあった川魚の干物を引っ張り盗り、その辺の桶を蹴飛ばしたり、取ったばかりの青菜をぶちまけながら出て行った。
「はぁ…」
腰が抜けたオレを紅玉が心配そうに覗き込んでいる。オレは震える唇をぐっと噛んでから、無理やり笑顔つくり、自分のおでこと紅玉のおでこをくっ付けると、やっと紅玉も笑った。
あんな連中と付き合いがあったとは…
「あっ」
この世界に来て、目を覚ました小屋のことを思い出す。
今思えば、あそこは村の拘置所のような場所だったかもしれない。
オレのことを眉をひそめて見ていた男達… 物陰からひそひそとオレを見る村人…
初めの頃の紅麗と紅玉のおびえ…
なるほど…
山賊達は、このままオレのことを腑抜けになったとして、もうかかわらないでくれればいいのだが…
オレは紅玉を強く、強く抱きしめた。
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次回は2月4日火曜日15時に掲載予定です。
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