表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷物語  作者: 卯月弥生
第一章 蓮実鉄次
7/63

山賊と紅玉

“男”として目をさました鉄次は、初めて自分の置かれた状況を受け入れ、

泣いてしまうのだったが、その素直な姿見た家族とは、少しずつではあるが、

打ち解けつつあったのだった。


 次の日も、次の日も家の中には三人だけだった。

 他の家人は出稼ぎにでも出ているのだろうか…?

 しかし、それをたずねるだけの語彙は今のオレには無く、なんとなしに時間は過ぎていった。

 少女は学校でもあるのか、大体同じ頃に家を出て行き、同じ頃に帰ってきた。

 その間オレは幼女と二人きりになり、文字通り手取り足取りされながら、飯を食べたり、便所に連れて行ったり、連れて行かれたり、幼女がオレの世話係りになってくれていた。

 幼女は三、四歳ぐらいなのだろうか。くりくりとした愛らしい幼女で、なついてくれると不思議なほど愛着がわき上がってくる。

 そんな中、幼女の名前が、紅玉(こうぎょく)少女の名前が紅麗(こうれい)だということがわかった。

 当然ながら、二人きりでいる時間が長い紅玉とオレは仲が良くなり、だいぶ意思の疎通がスムーズになってきたのだった。それにしたがった紅麗の硬化していた態度も和らぎ、温かい眼差しを向けてくれる。

 緩やかに良い方向に物事が進んで行っていたはずだったが…

 

 ある日、紅玉と庭で青菜の収穫をしている時だった。

 三人の粗野な感じの男が庭に入ってきた。

 オレは慌てて紅玉に家に入るように背中を押した。

 男達からは酒の臭いと、獣のような汗の臭いがした。

 その中の一人、山賊のような髭も髪ももじゃもじゃの男が、大声で笑いながらオレの背中をばしばしと叩いた。

 …雰囲気は悪くない。いやむしろ友好的な感じだ…まさか! オレの友達だったのか?

 確かに頭を打って目を覚ました後、自分の顔を確認した時、自分が身に着けていた服と、今、目の前にいる男達の雰囲気は感じが似ているように思えた。

 残りの二人のうち、一人は痩せギスでずっと煙管(キセル)のようなものから煙を吐き出している。もう一人は山賊よりも柔和な表情を浮かべているが、腰に赤黒く錆びた山刀を差し込んでいる。

 しきりに山賊はオレに話しかけてくるが、話すスピードが速すぎることと、日常生活であまり使わない言葉なのだろう。意味がさっぱりわからない。

 オレは曖昧な笑みを浮かべながら、頭を差し、首をかしげたり、口をパクパクして見せたりした。本当は少しなら言葉は話せたが、ここはわからない、話せないふりをするのがベストだと思われた。

 山賊達は顔を見合わせ、しばらく間があった後、ゲラゲラと品のない笑い声をふりまき、オレはまた背中を叩かれたが、オレがずっと首をかしげたり、言葉を話さないことで、山賊の顔色が変わっていった。

「○△□、◎△△×」幼女の、猫の悲鳴のような声が響き渡った。

「紅玉!!」

 いつの間に出てきたのだろう。オレの足に紅玉がしがみつき、男達にむかってなにかを叫んでいた。「帰れ」くらいの意味はわかったが、情けないことに後は何もわからない。

 山賊が紅玉に顔を近づけようとしてくる。

 本当にとっさだった。

 オレは紅玉を山賊に触れられないように抱きかかえた。

 山賊は後ろに控えていた煙管と山刀に振り返り、お手上げだといったような仕草を見せると、きびすを返し、軒先に吊るしてあった川魚の干物を引っ張り盗り、その辺の桶を蹴飛ばしたり、取ったばかりの青菜をぶちまけながら出て行った。

「はぁ…」

 腰が抜けたオレを紅玉が心配そうに覗き込んでいる。オレは震える唇をぐっと噛んでから、無理やり笑顔つくり、自分のおでこと紅玉のおでこをくっ付けると、やっと紅玉も笑った。

 あんな連中と付き合いがあったとは…

「あっ」

 この世界に来て、目を覚ました小屋のことを思い出す。

 今思えば、あそこは村の拘置所のような場所だったかもしれない。

 オレのことを眉をひそめて見ていた男達… 物陰からひそひそとオレを見る村人…

 初めの頃の紅麗と紅玉のおびえ…

 なるほど…

 山賊達は、このままオレのことを腑抜けになったとして、もうかかわらないでくれればいいのだが…

 オレは紅玉を強く、強く抱きしめた。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次回は2月4日火曜日15時に掲載予定です。

ご感想ありがとうございました。

まさかご感想をいただけるとは思わなかったので、とても嬉しかったです。

ありがとうございます。

もし、よろしければこの先も、皆様からご意見、ご感想をいただけましたら

とても嬉しいと共に、少しでも良いものを読んでいただけますように、

参考にさせていただきたいと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ