地を這う蚯蚓
「…蚯蚓(みみず)一派の者たちの仕業かと…思います」
引きつった桂の声は悲しかったが、紅姫と月影はうなずいた。
「ただ、本当に長い間国を離れておりますし、私も日影様の死はここに遺体が運ばれてから知ったので、裏をとってみないことには確証は持てません」
「それはこちらで調べる」
月影は物陰に控えていた日向が煙のようにかき消えてしまっていたことに気がついていた。
「…仲間を差し出すような真似をさせて悪かったと思う。が、こちらも手段を選んでいられなかった」
紅姫は自分でも言い訳がましいと思いながらも、桂に声をかけた。
「伽羅(きゃら)はそなたが自分の母であることを知らぬようだが…」
桂はさびしげにうなずいた。
「伽羅が幼い頃に仲間に託したので…伽羅のことは、なんと言ってこの国に連れてこられたのですか?」
月影が得意げに、笑みを浮かべた。
「こちらにもな、色々な物事に長けた密偵がいることは、そちも良く知っておるだろうが、その者たちが上手いこと申して、この宮中の侍女にならぬかとな」
「そうですか…」
桂は複雑な表情を浮かべた。自分の側にいるのは嬉しいが、同時に人質でもある伽羅を、なにかあった時に一人では守りきれない。完全に紅姫の手に落ちたことを悟ったのだろう。
「新しい侍女として世話をしてやってくれ」
紅姫はそう告げると皇座から立ち上がり、奥の自室へと入っていった。
皇座室には日影と桂。
「紅姫様のご心痛を考えると、穏便な処置だということは心しているな」
窓の外では、他の侍女たちと談笑している伽羅の姿があった。
「…はい」
「知っていることを洗いざらい、話してもらおう」
桂は荒野に立っていた、あの日の光景を思い出そうとしても、もう、うまく思い出せなかった。伽羅の笑顔がすべてを洗い流していくようだった。
恨みとは、あの日誓った『木ノ国』への復讐の思いは、一体どこへいったのだろうか?
「桂…」
月影に呼びかけられ、振り返った桂の頬を涙が幾重にも伝っていた。




