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宮廷物語  作者: 卯月弥生
第一章 蓮実鉄次
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涙と笑顔

少女の家にたどり着いた鉄次はやっと一息つけたが、

世話をしてくれる少女が垣間見せた表情のなかに、

自分に対しての『おびえ』があることに気がつき、

複雑な思いを抱きつつも、疲労感から眠りにつくことにしたのだった。


 コトコトと鍋で何かが煮える心地よい音に、オレの意識がふんわりと浮び上がった。

 自分の顔の前に手をかざし、その後、顔を撫でてみる。

 「夢じゃない…」

 オレは大きく息を吸い込み、吐き出した。

 『願いが叶ったじゃないか』

 どこからか、そんな声がする。

 あぁそうだ。オレは、どこかに帰りたかった。

 目を閉じる。

 まぶたの裏に浮んでくるオレの部屋。オレのベッド。つい何時間前までは、同じ毎日に疲れ果て、失望し、でもまた明日が来るはずだったのに、地震、そして、おそらく頭を打って、気がついたら訳のわからない村にいる。


 でもオレ、結構冷静だな。

 そんなことを思ったら、なぜか急に笑えてきた。

 おかしくて、オレは馬鹿みたいに笑い続け、涙と鼻水を滝のように流した。

 おかしくて泣いていたはずだったのに、なぜか、笑いは止まり、涙だけがオレの目からこぼれ落ち続ける。

 「うわぁぁあぁ」

 一体オレはどのくらい泣いていたのだろう。気がつくと少女がオレの側に座っていた。幼女は戸の影からこちらをのぞいている。

 二人には先ほどまでのおびえは影を潜め、代わりに見せたのは困惑の表情だった。

 急に恥ずかしくなったのと泣き疲れたことで、オレはおかしな笑いを浮かべた。すると絵に描いたようなタイミングで腹が鳴り、あらあらといった感じの和やかな雰囲気に包まれた。

 二人にうながされ、囲炉裏端に座り、少女が鍋からついでくれた汁物を口にはこぶ。

 それは魚と思われる切り身と大根のような野菜が入った物で、魚も野菜も嫌いな、いつものオレなら顔を歪めるところだったが、空腹もあり、あっという間にたいらげてしまった。

 囲炉裏端を挟んで向こう側にいた幼女にジッと見つめられていたようで、照れたオレは微笑んでみた。

 すると幼女も少し笑い、オレはいつの間にか自然に笑顔になった。

 少女に目を向けると、硬い表情のまましばらくオレ達を観察しているようだったが、しばらくすると、少女もつられて微笑んだ。

初めて見た少女の笑顔は、とても愛らしく、可愛い女の子であることに気がついたのだった。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

一月も終わりですね。皆様、風邪などひいていませんか?

どうぞご自愛下さい。

次回は2月2日日曜日15時に掲載予定です。

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