開戦か?そして桂
日陰が命をかけた伝言は『鉄ノ国』が『木ノ国』に戦いを仕掛けてこようとしているという内容だった。奇襲日も記されており、紅姫、月影は阻止すべき固い決意を誓ったのであった。そして日陰からの伝言の最後に記されていた紅姫への言葉は『永遠に』だった。
「現在、黄玉帝様にむけて早馬を出しておる」
赤宮の皇座室には紅姫の配下にある政務官、警護の為に残った数十人の武官、衛兵が集まり、皆を前に朗々と月影が発言した。受けて、紅姫は静かに語りだす。
「うむ。皆心して聞いてくれ。今月影から説明があったとおり『鉄ノ国』は奇襲を仕掛けてくる。『夏の殿』より武官たちがまたこの『冬の殿』に戻ってくるまでの期間を計算すると、かなりぎりぎりになると思われる」
紅姫は一呼吸置いた。
「最悪の場合を覚悟してくれ。ここが戦いの前線になり、我々だけで迎え撃つことになる可能性もある」
皇座室は水を打ったように静かになった。
「姫様」
一人の武官が手をあげた。
「うむ」
「何故『鉄ノ国』は突然我が国に戦を仕掛けようと考えたのでございますか?」
「あぁすまぬ」
そこからは月影が紅姫に代わりに田上の地にて鉄の材料になる石が取れることを、『鉄ノ国』の王が崩御したことにより、今まで結ばれていた条約が破棄され、その隙を王の死を隠すことでつくり、奇襲により条約で守られていると思っている『木ノ国』を一気に制圧するつもりであることを説明した。
この『木ノ国』は兵たちにも非常に公正であり、戦いの理由を隠すことはなかった。
皆がそれぞれになにか思うところがあり、考えにふけっているなか、月影が皆に各々自分の長に従い『鉄ノ国防戦の計画書』をつくることを指示し、解散となった。
静かになった紅宮。
「しかし、我々はその前、攻め込まれる以前にくい止めることを考えねばならんのだな…」
紅姫が頭を抱えた。
「…姫様にお知らせしていないことがございます」
「うむ?」
月影は皇座室の入り口まで行き、衛兵以外にこの赤宮に人がいないことを確認した。
紅姫も皇座から降り、窓際の椅子に腰をかけた。
「そちも座れ」
紅姫は月影に椅子をすすめたが、月影は立ったまま話しだした。
「姫様の侍女の…」
時が止まったように二人は感じた。
「桂殿のことですが…探らせておりました」
「桂を…なぜじゃ?」
「不審な行動が目につきました」
月影は努めて感情を込めずに話した。
「今回の体調不良のことを言っておるのか?」
「それもあります」
「馬鹿な!桂は私が子供の頃から一緒に居り、月影、そちと同じくらい私が信用している人物であるぞ!!」
めずらしく紅姫が激高した。
おそらくそうなるであろうと予想していた月影は、愁いた表情のまま紅姫の様子を見守った。
そしてこれまた月影の予想どおり、一息ついた紅姫はいつものように感情を抑え、月影に問いかけた。
「して、疑わしきところはあったのか?」
月影の愁いはより深くなったのであった。
次回は10月31日金曜日15時に投稿予定です。
ではまた。




